シャングリラはそこに 11
……ドキドキしてる……。
告白されているのかと思ったわ……。
女性としてじゃない、って言われたのに。
人として認めていただいているようなのは、とてもうれしい。
でも、少しだけ残念というか……。
心に生じたモヤモヤは、ヘイー先生の瞳の輝きで吹き飛んだ。
確かな信頼と好意がそこには宿っていた。
……言葉より、瞳のほうが雄弁ね。
喜びに胸が躍った。
不安も恐れも、すべてが霧散した。
私は、心の赴くままに言葉を紡いだ。
「たぶん、お互いに、遠回りしたことは無駄ではなかったと思います。傷つかなければわからないことがたくさんありました。大切な人を傷つけ、自分も傷ついたから……後悔しないように、丁寧に生きたいと思うようになりました。ヘイー先生と、もっと親しくなりたいです。」
好きです、と言っても過言ではないかもしれない。
愛してる、は、まだ早いだろう。
でも、この人のそばにいたいと思う気持ちは、確かに芽生えている。
この気持ちが、これからどう変化するのか、なんだか楽しみになってきた。
ヘイー先生は、ほっとしたように頷いて、それから小さくお礼を言った。
「……ありがとう。……そうだ、オーゼラ公国のレアダンスモレン湖の視察の件ですが、今回の最終目的地はさらに東へ進んだ山の渓流です。……移動だけで2日かかりますが……それでも、来られますか?」
「はい。行きます。……養殖場をお作りになられるのですか?」
そう伺ってみたら、ヘイー先生の笑顔が光り輝いた。
「そうです!まだ実験段階ですが、安定供給のために養殖を押し進めています。……淡水魚ですが、実に脂ののったうまい魚です。ご馳走いたしましょう。」
「わ!ありがとうございます!」
こうして私たちは、お互いを特別な存在と認めた。
***
毎日が希望に満ちて、きらきら輝き始めた。
神宮での退屈な日々も勉強するには最適だった。
わからないところはヘイー先生に書状でおうかがいすると、ものすごく分厚いお返事で解説していただけた。
たまには手作りのお菓子をお送りしてみたり……私達は、そんな風に少しずつ交流を深めた。
そんなある日のこと。
突然、神宮院に父がやってきた。
面会室で、久しぶりに逢った父は……すっかり狼狽していた……。
「ごきげんよう。お父さま。……どうなさったの?」
父はものすごく逡巡した後、ようやく口を開いた。
「……実は、お前に、縁談があるのだが……」
「あら。いつも通り、断わってくださってけっこうですのに。」




