シャングリラはそこに 10
後から後から、涙が頬をつたった。
「……すべて、私が悪いのです。……娘の傷も……彼女の病も……みな、私の罪なのです。」
たまらず、私はヘイー先生の白い頭を抱きしめた。
これ以上、ヘイー先生の涙を、とても見ていられなかった。
そして、私自身も……これ以上は耐えられなかった。
ヘイー先生の悔悟は、私のジョージオさまに対する贖罪と同じだった。
今さら、何をしてさしあげることもできない。
むしろそばにいないほうがいい。
……だからと言って、忘れることなんかできない。
ずっと心に、しこりのようにあり続ける。
私の罪。
私の心の半分。
ジョージオさま……。
どうか、どうか、お健やかに……。
そして、リョーシャ。
ずいぶん大きくなったでしょうね。
逢いたい……。
でも、もちろん逢えない。
私は、リョーシャを捨てたのだ。
逢う資格なんかない。
私にできることは、ただ心配することだけ……。
幸せを祈ることだけ……。
「……先生だけじゃありません。私も罪に押しつぶされそうになることがあります。……独りで泣かないでください。」
そんな言葉が勝手に口から出てきた。
私の腕の中で、ヘイー先生はむせび泣いた。
声にならない泣き声は途切れることなく……私の胸元がどんどんなまあたたかく、そして冷たく、濡れそぼった。
私もまた、先生の背中を撫でながら、涙を流し続けていた。
……不思議なことに……だんだん、心から重たいモノが消えていた。
気がつけば、ヘイー先生と私の鼓動が重なっていた。
妙にホッとした。
楽ちんだと感じた。
***
涙が途切れたのも、同じ頃だった。
恐る恐る、ヘイー先生を解放した。
腕が、少し痛くなっていた。
「……ありがとう。」
はにかんで、ヘイー先生が言った。
「いえ。……私も……ありがとうございます。」
小さくお礼を言ったら、ヘイー先生は泣き腫らした目を優しく細めた。
そして、意を決したように言った「……また、こうして……お話しできますか?」
「もちろんです。いつでも。……私も……ヘイー先生には、……思い出したくないことも、お話できそうです。……不思議ですね。」
そう言ったら、ヘイー先生はもっともらしく頷いた。
「……本当のことを申し上げますと……初めてお逢いしたときから、……変な意味ではなく……そうですね、女性としてというよりは、一個の人間として慈しむ気持ちになりました。もっと早く、私が素直になればよかったのですが……ずいぶんと遠回りしてしまいました。……時間を取り戻すことは、可能でしょうか。」




