シャングリラはそこに 5
「商売になると思った私の勘は、あながち間違いではなかったのですね。」
しみじみそう言ったら、宰相はぷぷっと笑った。
「……なるほど。さすがは大商家のご出身でいらっしゃる。」
「品のない発想でしたでしょうか?」
別に喧嘩を売ったつもりはなかったけれど、気になったので聞いてみた。
宰相は笑いを納めて、真面目な顔でおっしゃった。
「失礼しました。全くそのようなことはありません。……ただ……そうですね、私たちにはお商売の経験も発想もありません。恥ずかしながら、貴族はみな領地からの収穫や国からの恩給で生きていましたので、お商売とは何たるかもよくわかはないのです。……ですから、いざ、宰相として国力を上げるために産業を興す……とは言っても、どのようにすれば国や社会に有益な事業と成り得るのか、皆目見当がつかず……フィズさまのご親戚のような大商人や、師のようなかたがたにお力をお借りしています。……決して、品がないなとどは思いません。むしろ頼もしく感じます。」
「……そうですか。卑屈になる必要はないとは思っていましたが……階級や身分で価値観は異なりますので、お伺いしました。真摯に答えてくださって、ありがとうございます。ホッとしました。」
私も真面目にそう答えた。
うわっつらの言葉の応酬じゃない、宰相の考えを聞かせてもらえたことに、私の頬が緩んだ。
宰相もまた、ほほえんでくださった。
……うん。
作り笑顔じゃない。
ちゃんと、一個の人間として認めていただけたような気がする。
「フィズさまは素敵ですよ。」
なぜか、力を込めてジランくんがほめてくれた。
***
夜のお祈りの時間までに、宰相は私を神宮に送り届けてくださった。
「あの……シーシアさまにご挨拶して行かれませんか?」
よけいなお世話と思いつつ……ついつい宰相にそう申し上げてしまった。
すると、宰相から感情が消えてしまった。
「……夜遅いので、今夜はこれで。よろしくお伝えください。では。」
淡々とそう述べて、宰相はさっさと帰ってしまった。
ついさっきまで、国のこと、ジランくんのことを楽しそうにおしゃべりしてくださって、距離が近づいたような気がしてたんだけど……またふりだしに戻ったようだ。
そんなにシーシアさまと会いたくないのかな。
どうしてかしら。
シーシアさまは、明らかに宰相を慕っているのに。
あんなに美しくお優しいお姫さまに恋い焦がれられて、何も感じないのかしら。
男と女のことは、当人同士にしかわからないことがあるものだけど……いとこ同士なのに、あのよそよそしさは不自然だわ。




