ユートピアからの放逐 9
「あの……それは、さすがに……身分が違い過ぎませんか?」
いくらうちが裕福な商家とは言え、しょせん平民。
貧乏貴族からお金目当ての縁談はあっても、大公って!皇族って!
あり得ないでしょう。
継母は大真面目に頷いた。
「そうなの。フィズの言う通りよ。だから私たちも、びっくりしてしまって……ねえ、旦那様?」
父は、渋い顔のまま、頷いた。
「お父さまは、乗り気じゃないのね。……えーと、どうして、私なの?どこかで見初められたの?……それにしても……ねえ……。」
継母のようにはしゃぐことはできなかった。
ただただ不思議で……頭の中にクエスチョンマークが飛び交っている。
父がようやく重い口を開いた。
「皇帝の御代が変わって、これまでの血縁偏重の任官に、実力や能力での抜擢が顕著になった。タルゴーヴィ大公となられたイズミヌさまは、その最たる例だと言われている。……つまり、そういうことだ。」
遠回しな言い方だが、それで充分だった。
「……つまり、大公さまのご子息の嫁にも、身分や家柄より、知性と教養が望まれた、ということですか?」
「容姿も、だと思うわ。」
継母の補足に、私はうつむいた。
……小さい頃は、だれもが無条件に「かわいい」と言われていた。
ある頃、私だけが「かわいい」とよく言われるようになったことに気づいた。
長ずるにつれて、「かわいい」は「綺麗」「美しい」という形容詞に変化した。
お洒落に興味のない私にとって、自分の努力を要しない容姿を褒められることは……どうでもいい、というか……むしろ、気まずい。
逆に卑屈になりたくないので、なるべく聞き流すようにしているが。
……まあ、私の容姿なんぞ、シーシアさまや、亡くなったトミルお姉ちゃんの足元にも及ばない、十人並みにやっと毛が生えたようなものだけど。
「ご子息の嫁ではなく、お孫さんの母親として、だ。」
父はそれだけ言って、口をつぐんだ。
なるほど。
望まれているのは、私自身ではなく、優秀な子孫製造機としての役割ということか。
父の微妙な表情の意味が、ようやくわかった。
「……では……子供ができなければ、私は、実家に返されるということでしょうか。」
もしかしたら、既に幾人もの花嫁が子を孕めず追い出されて……選定順位のさほど高くなかった私にまでお鉢が回ってきたのかもしれない。
歎息した父の代わりに、継母が答えてくれた。
「大丈夫よ。フィズは健康ですもの。ちゃんと、かわいい優秀な跡取りを産んでさし上げて、大公様ご一家の一員にしていただけるわ。」




