PROLOGUE
そのヒトのことは、あまり覚えてない。
一番遠い記憶は……たぶん、4才の頃。
かつて、ちっちゃい私とよく遊んでくれた優しい親戚のお姉ちゃんがいた。
名前は、トミルといった。
トミルお姉ちゃんは、子供心にもたおやかで美しい少女だった。
その美貌は評判を呼び、わずか15才で隣国オピリアの末端貴族の若さまに見初められ、望まれて嫁いだ。
みんながトミルお姉ちゃんの玉の輿を祝福し、和やかな宴席で、ただ一人、むすっとした顔で泣いているヒトがいた。
トミルお姉ちゃんの4つ上の兄らしい。
ふくよかで、ふてふてぶしい……何だかとても偉そうな、体格のいい青年は、トミルお姉ちゃんにまったく似てなかった。
親戚なのに、トミルお姉ちゃんとはとても仲良くしていたのに……なぜか、私はそのヒトのことをよく知らなかった。
ただ、みんなにたしなめられても、怒られても、くやしそうに泣いている彼に、親近感を覚えた。
……どんなにおめでたいことだと言われても、私も……これからはトミルお姉ちゃんと会えないと思うと……本当は泣きたかったから。
そのヒトに話し掛けてみたかったけれど、近づくことは許されなかった。
「ダメよ。フィズ。シェナミさまは、ご傷心なの。」
継母の言葉の意味が、幼い私にはよくわからなかった。
ただ、そのヒトの名前は、シェナミということだけは、わかった。
それが、私フィズが覚えているシェナミさまの最初の記憶。
まだ、2人が巡り会う前の、遠い遠い過去の思い出。
********************