特殊清掃
甲「なんだ。くっせ!隣の部屋から、すげえ匂いすんな。ちょっと文句言ってやろうか」
ピンポーン
乙「はい。どなたですか?」
甲「あの……ってあれ、隣の部屋ってお爺ちゃんが住んでたような」
乙「ああ。それなら、私、ここに住んでる者じゃないですよ」
甲「じゃあ誰なの、あんた?恰好からすると引っ越し業者の人?」
乙「はっはっは……さてと」
甲「いや、笑って誤魔化すのおかしいだろ……ドアを閉めるな、閉めるなっての!」
乙「貴方ね。そうやって、気軽に人の職業を暴こうとするけども!世の中には言いたくないような職業に就いてる人が沢山いるんだぞ!それが分からないのか」
甲「あ、あんたもしかして アレか! ”特殊清掃員”ってやつじゃないの? あの孤独死した人の部屋とか掃除する。それでこんなくせえんでしょ?」
乙「はぁ……言いたくなかったんですがね」
甲「やっぱりそうだ」
乙「そこのコンビニで店長をしています」
甲「違うのかよ!そうかと思っちゃったよ。紛らわし!」
乙「ところで何か、この部屋に御用ですか?」
甲「いや、用っていうかさ。この部屋が臭すぎるから文句言いに来たんだけど」
乙「ああ、それならこの部屋の住人に言ってくださいよ」
甲「いや、そうしたいけどあんたが出てきたから……この部屋で一体、何してるんですか?」
乙「何ってまあ……それはちょっと言えないですけど」
甲「あれ、怪しいな……まさか、泥棒とかじゃないだろうな?」
乙「そ、そんなはずないでしょうが!」
甲「いや、その狼狽え方、怪しいなぁ……」
乙「も、もし、たとえそうだったとしたらどうしようってんですか!」
甲「普通に、警察に通報するよ」
乙「じゃあ、僕はここの住人です」
甲「あん?さっき違うって言ったろ?」
乙「さっきは恥ずかしくて、住人じゃないって言っちゃいました」
甲「なんだよ、恥ずかしいって。なんで住人であることが恥ずかしいんだよ」
乙「こんなデブの隣に住んでると思うと恥ずかしくて」
甲「おう、じゃあもう通報するからな」
乙「あ、待って待って。嘘です、嘘! 痩せてます。ガリガリです」
甲「俺のどこがガリガリなんだよ!」
乙「じゃあどうすればいいんですか!」
甲「逆ギレじゃねえか!……とりあえず住人じゃなくてもなんでもいいからよ。どうして臭いのか教えてくれ」
乙「あ、それはこの部屋の奥でお爺ちゃんが死んでるからじゃないですか」
甲「何さらっととんでもないこと言ってんだよ!……えっ、じじい死んでるの?」
乙「ちょっと、もう一回確認してきます……」タッタッ……
甲「おう。……で、結局あいつは誰なんだよ」
乙「やっぱ死んでました」
甲「軽いんだよ!言い方が。……で、もう警察とか呼んでんのか?」
乙「いや!け、警察!警察だけは勘弁してくださいよ!!」
甲「絶対なんかやってんな!お前!」
乙「警察以外なら、なんでも呼んでくれていいですから」
甲「別に俺は何かを呼びたい人じゃねえんだよ。……ああ、もうじゃあさ。何でもいいけどあんたの用事が済んだら警察呼んどいてくれよ」
乙「え、見逃してくれるんですか?」
甲「見逃すっていうか……見なかったことにしてやるよ。俺ここのじじいあんまり好きじゃなかったからよ」
乙「あ、ありがとうございます!」
甲「ちなみにさ。あんた本当にここで何してるの?泥棒だろ?」
乙「いえ、趣味でよく孤独死した人の部屋を掃除してるんです。趣味が 特殊清掃 なんですよ」
甲「……居ねえよ!そんな奴!」
終わり