二度寝
二桁に乗る!!
よく頑張ってるぞ!自分よ。
イイ匂いがする。
肉の焼けるイイ匂いだ。
オレは目を開けてそちらを見る。
するとそこには短刀に薄手の鎧という冒険者風の
男が1人火の前で佇んでいた。
体を起こそうとする。
「ッっつ」
全身が痛い。腕に背中、脚、それらに溶けた鉄が流し込まれたと錯覚するほどに痛い。
「目が覚めたか、キズが開くから動くな。」
男はそう言うと瓶に入った水を持ってきてくれた。
オレはそれをありがたく受け取り飲み干す。
身体中が息を吹き返したかのように軽くなったのがわかった。
「ありがとうございます。」
なぜか心の底からそんな言葉が出た。
オッサンに山に捨てられて黒いサルどもに囲まれて噛まれたり引っ掻かれたりしたことから解放されて気がるんだのかもしれない。
「いい、それより名はなんという。」
男は尋ねた。
「机ノ上 一浪丸です。」
そう答えると男は曖昧に頷いて名前を教えてくれた。
アレ=ヨビコール
コールと呼べ、そう言うとコールは火にかけて
あった鹿から肉を切り取ってオレの前に持って
きてくれた。
言われるがままに肉にかぶりつくと肉汁と獣
特有の臭みがなんとも言えず久しく食べ物を入れていない口の中に広がった。
うまい。食べるってこんなにも幸せなことだったのか、そう思えるほどに肉は美味しかった。
思い返せばオレがあちらの世界にいた頃に
これ程おいしいと感じることは少なかったと思う。
毎日同じことの繰り返し。予備校に行って
授業を受けてそれが終われば9時まで自習室に
籠り一時間かけて帰路につく。
あとは風呂に入ってご飯食べて寝る。
感覚が鈍くなって何をしても曖昧にしか感じられなくなっていく。
どれだけカレーにデスソースをかけても感覚を阻害する壁に遮られたように味がしなかったあの日々。
それを思うと今この瞬間はかけがえのないものに思えた。
飲み食いできて眠れて感じることができる。
そんな当たり前に思っていたことが死に直面し
そうになって本当に幸せなのだと実感できた。
1人でそんな感慨にふけっていると
「もう少し寝てろ。」
そう言われて横になっているうちに夜は更けていった。
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