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「逆さ虹のロープ」を架けて


 二日後のことです、子どもたちはまた歌いながら、森の外れの草原へ向かいました。クマくんの肩には薄青く輝くロープ、アライグマくんの腕には白い紐、キツネさんの手には半透明に光るシルクの糸巻きがあります。


 キツネさんがつり橋のたもとの柱にしようと思った大きなニレの木の下に集合です。

 コマドリさんがニレの木の一番枝にとまっています。

「私はこの端をくわえてあっちの木まで飛ぶのね?」

「そう。向こうの木の一番枝のところで幹を廻ってこっちに戻ってきて」

「じゃ、めんどくさいから足に糸結んでくれる?」

「だめよ、もし糸が足らないとか重たすぎるとかで川に落ちるかもしれない」

「大丈夫よ、『ドングリ池』がくれた糸だもの」

 コマドリさんは見た目より余程度胸があるようです。


「せめてヘビさんとリスくんが来るのを待ってから戻ってね」

「らじゃー」


「僕はどうするんだっけ?」

 リスくんはまだよくわかっていません。

「糸の端にこの紐を繋ぐから、それを濡らさないように持って、ヘビさんに向こう岸に連れて行ってもらって。向こうの木の幹で擦れて糸や紐が切れてしまうかもしれないから見張って」


 コマドリさんが出発して、一の枝からぶら下がった糸巻きがくるくる廻って糸を繰り出します。

 キツネさんは糸がいつなくなるか、なくなったらすぐ紐を結ばなきゃと緊張していましたが、一度糸巻きが止まってもまだまだ糸は残っていました。端を見つけて紐と結び合せようかと思ったら、また糸巻きが廻り始めます。あれよあれよという間に糸は減っていきましたが、全部無くなる前にコマドリさんがニレの木に着地しました。


「あちらで待っている約束じゃなくて?」

 ヘビさんが笑います。

「待ってるの退屈で。飛んでれば川の途中ですれ違うはずだと思ったのよ。でも全然来ないんだもん」


 キツネさんは糸が川幅を往復できるほど長いと驚きました。「ドングリ池」はちゃんと考えてヤママユをくれた気がしてしまいます。


 糸の端に紐を結びつけ、川岸にスタンバイしているヘビさんとリスくんに手渡しました。

 リスくんはくねくね泳ぐヘビさんの、一番安定している頭に仁王立ちして紐を持ちバンザイしています。おしりふりふり、しっぽがゆらゆら、バランスをとる可愛らしい姿に、仲間たちは爆笑しました。

「よぉ、森一番のサーファー・リス!」

 アライグマくんは紐がたるまないように気をつけながら茶化すのも忘れていません。


 キツネさんはコマドリさんの足の糸を解いて、空っぽになった糸巻きに巻き取り始めました。リスくんたちが進めば進むほど、糸はもっと戻ってくるはずです。

 コマドリさんには向こう側に先回りして、糸が幹に引っ掛かってないか、切れそうじゃないかチェックしてもらうことにしました。


 クマくんは紐の端に担いできたロープを結び、ロープの最後をニレの幹に結びつけました。

 しばらくしてロープが少しずつ川へ出ていくようになりました。

 アライグマくんはキツネさんを手伝って、戻ってくる糸のほうを引き入れていましたが、だんだん重くなり、紐が見えてきました。

「紐だ、紐。キツネ、紐が帰ってくる」

「えっと、それならリスくんたちは無事に向こうにいるってことよね」


 クマくんはどんどん繰り出されるロープが水面につかないように、浅瀬にまで入ってバンザイをしています。

「もう少し、もう少しだからクマちゃん、頑張って」

 キツネさんには声をかけることしかできません。自分も紐を岸に引き揚げながらなのです。

「うんしょ、こらしょ、よいとこ、どっこい」


「ああ、ヘビさんが早くロープを向こうに結んでくれたら……」

「心配ない、アイツは下手うったりしねぇ」

 アライグマくんはヘビさんをとっても信頼しています。普段は文句を言ってばかりなのに。


 キツネさんの手の中の紐が軽くなった気がしました。クマくんの手の上のロープも止まったようです。

 すると間もなくリスくんの声がしました。

「成功、大成功、ロープ張り完成!」


 クマくん、アライグマくん、キツネさんはどこから声がするのか顔を見合せました。コマドリさんはひとっ飛び見に行きました。

 リスくんは、できたてほやほやの吊りロープの上を伝い歩きしてきたのです。コマドリさんもロープにつかまって「完成のうた」を歌います。


「ヘビさん、ヘビさんは?」

 キツネさんが訊きました。

「こっちに向かってる。余った紐をぐるぐるロープに巻きながら」

「あ、そうか、あったまいい!」


 ロープの上のヘビさんは一種異様な格好でした。自分のからだをロープに巻き付けて、後ずさりしているのです。余った紐を口で引っ張って調節しながら、まるで(もく)ネジが接近してくるみたいです。

「うわっ、眩暈しそう」

 アライグマくんは笑っていますが、実はヘビさんを応援しているのです。


 岸についたヘビさんは「あとどれだけあるの?」と糸巻きを眺めました。

「ちょっと休んでよ、ヘビさん。糸なら僕やコマドリさんでも巻きつけられるから」

 リスさんが提案します。

「そうよそう。私はくるくる飛ぶだけよ。だから任せて、私の出番ー」

 コマドリさんが歌います。

 そして間もなくロープは本当の完成をみたのでした。


 仲良しグループは岸辺に座りこんで自分たちの努力の賜物を眺めました。

 糸もロープももともと薄い青緑色でしたが、川の上ではプリズムのように輝いています。紐に編んだからでしょうか、ロープのあちこちが違った色に見えます。赤、オレンジ、黄色、緑、青、藍色、そして紫。

 虹のように順番に並んでいるわけではありませんが、まだらに虹の色が揃っているのです。

 そして真ん中がたわんで下にさがっている……。

 

「虹色のロープだね」

 リスくんが感慨深そうに言いました。

「ほんとだ、『逆さ虹のロープ』だ!」

 クマくんがとても嬉しそうです。

「あ、そうか、逆さ虹ってこんな形か!」

 アライグマくんのコメントに突っ込むのはもちろん、

「今さら何をおっしゃるの?」

 というヘビさん。

「さすが『ドングリ池』のお手伝い。何もかもぴったり!」

 キツネさんも晴れ晴れとした顔でした。


 それからというもの、仲良しグループは「逆さ虹のロープ」の近くで遊ぶようになりました。ヘビさんとリスくんはロープを伝って毎日のように川向こうへ行き、見てきた様子を話してくれます。

 それでもグル―プみんなで川を渡れないのはとても残念です。




 次が最終話となります。


 もしかして、ヘビって後ずさりできないんでしたっけ?

「逆さ虹の森」のヘビさんならできる、ということでご了承ください。

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