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葉子と夏  作者: 結姫普慈子
第三章 光と闇
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21. ゴールドベルク変奏曲

 三人でのデートの帰り道、この世界は別物になってしまったように僕には感じられていた。雨に打たれた僕と葉子と宮子の三人はポツポツとその雨滴を床に落としながら電車に乗っていた。葉子の顔は洗いたての子猫のように、宮子は泣きはらした後の顔で。僕の顔はどうなっているのだろう、電車のガラスを見てみる。それに映された僕の顔は十歳位年老いた顔をしていた。そして僕の顔が映った窓の向こうには灰色に澱んだ雲がどこまでも広がっている。ゲートはどうなってしまったのだろう。葉子はこの世界に対して、何かをしてしまった。それを僕は信じられずにいた、葉子が、葉子がそれをしてしまった事を。

 葉子の濡れたゴシックロリータの服装は濡れたカラスのような色合いで外の光を浴びて青白く光っている。

「葉子、ピアノの前で何を弾いてたんだ?」僕はそう聞く。

「バッハのゴールドベルク変奏曲」葉子は下を向いたままそう言う。「ねぇ私達の雫が落ちていくわね。電車に水溜りを作ってる」

「今度聞かせてくれよ」

「バッハの?」

「うん」

「わかった」

「葉子さん、もしかしてゲートを作ったのも葉子さんなの?」宮子が葉子に聞いた。

「宮子ちゃんってカンが鋭いのね。そうよ、私がゲートを作ったの」

「何のために作ったの?」

「それは当然、作りたかったからなのよ。それ以外に理由はないわね」葉子がそう言ってから沈黙が流れた。

 


 電車が僕達の街の駅まで着くとそのまま無言で電車を降りて改札へ向かう。

「今日はありがとう、私のお願いまで聞いてもらって。宮子ちゃんもまた遊ぼうね」

「ああ、葉子また明日学校で」僕はそう言うが、宮子は無言だった。その無言は冷凍庫の中に忘れられたアイスクリームのようにカチンコチンに固まっていた。

「また学校でね」葉子はそう言うと僕の頬に軽くキスをした。

「へ?」見ると葉子は軽く走りながら去っていく後ろ姿が見えた。

「お兄ちゃんのエッチ」宮子が僕を見上げてそう言った。「ふんっ」宮子はそれからそっぽを向いて一人で歩いていってしまう。「帰ろうか」僕は宮子に近づいて傍によると宮子は地面を見ながらそう言った。

「そうだな」

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