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葉子と夏  作者: 結姫普慈子
第二章 前日
19/23

19. 全ての願い事

 私は早歩きでビルへと近づいていく。近づいていくと人通りが少なくなっていく。

 そしてビルの周りにはひとっこ一人いなかった。私はそのビルの自動ドアをくぐり抜けた。ビルの中は天井が高くチェック柄のブラウンとホワイトの色の床で壁や柱が鏡の銀色だった。

 屋上へと続くエレベーターに乗ると私は屋上のボタンを迷いなく押した。

 ガタガタガタと扉の音が鳴り閉まるとエレベーターは屋上へと向かい出発した。

 東京の一番高いビルがどうやら別世界へと通じてしまった。そのゲートは木製の扉で人々の願いを叶えるために突然現れた。全ては砂先葉子すなさきようこ、私のせいで。

 エレベーターの階数の表示が次々と上がっていく。私はワクワクしている自分にまだ生きていることを実感する。このワクワクがなくなった時が、私の死ぬ時なのだろうか。いいや、違う。私は死んでもワクワクし続けるだろう。

 心臓のある左胸に掌を乗せてみる。それは音を立てて脈打っており私が私であることをただ伝えている。エレベーターの個室はまるで人の体内のようでドキドキと音が鳴り響き、コンサートホールのように私の音楽を周囲と伝えていく。

 明日にはわかる、世界中に。

 やがてエレベーターが屋上にたどり着くと、私は外に出た。

 屋上にはゲートがあった。木製の扉。

 私はそこに近づき扉のノブに触れる。そしてそれを回して扉を開ける。カチャリと音があり、そして扉は開かれた。

 扉の向こうは全ての「願い事」が叶う場所である。そこに入ればどんな願い事でも叶う。

 そして私は一人目の願い事を叶える人間であり、私は何を叶えようかと考える。


「私のなにもない願い事を叶えて」私は扉の向こうでそう言った。

 これで叶ったはず、私の願い事が。

 私は元の世界へと戻るとエレベーターで一階に降りてビルから出ていった。スマートフォンの時刻を見ると午後11時になっていた。

「早く帰らなくっちゃ」私は夏の屋外でそうつぶやいた。

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