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葉子と夏  作者: 結姫普慈子
第二章 前日
18/23

18. 夏の夜空

 水族館の中では沈黙が流れる。ちょうど皮下に静けさの液が入った注射器の針を刺すように。鎮静薬。私達のお腹の中へとそれらは入ってきていた。水族館の灯りや魚の群れが私達と共にあり、具体的には夜の深まりを時刻は表示し、私と雅のカップルにはただその時間を悠々と流れていく、まるでプールの中で水着で泳いでいるような感触、があった。

「なあ、僕達、もしかして迷子になってないか?道、わかるか葉子」

「わからないわ。地図を見ましょう」私はそう言うが歩き続けても地図らしき看板は見当たらなかった。「ねぇ、ここに住みましょうよ」私が冗談でそう言うと雅は笑ってみせる。

「水槽の魚でも食べて暮らすのか?」

「私はあなたを食べるわ」

「おー、こわいこわい」雅はそう言って先へと進んでいく。私も後をついていくと彼の片方の肩を手のひらで触ってからギュッと握りしめた。

 夜が深まっていく。それは何処にもない夜で、この水槽に囲まれた迷子の私達の立ち止まった場所でそしてその向かう先で深く、深く、ただ深くなっていく。

 と、そこで一人の館の制服を着た(赤い上着と深いブルーのスカートだ)女性がいた。

「あの人に道を聞いてみる」雅はそう言うとその人へと進んでいく。

 女生と話している雅を遠目から見ていると私はなんだか眠たくなってきた。

 帰りがけに自動販売機でコーヒーでも買おうかしら、そう思っていると雅がこちらへと戻ってきて「地図をもらったからこれを頼りに帰ろう」と言った。

 

 そして地図を頼りに道を進んでやっと出口へとたどり着いた。

「やっと帰れるな」

「おさかなさんバイバイ」

 出口から外に出てから雅に時間を聞いてみる。

「今は八時だよ。そろそろ帰ろうか」腕時計を見て雅が言った。


「私、東京に用があるの。雅は先に帰っていて」駅のホームで私は雅に言う。

「わかった。じゃあな葉子、また明日」そう言って私達は別れた。

 それから私は東京の駅に向かうことにした。電車に乗りゴトゴトと揺られながら吊り革につかまり私はバッグの中から絵を取り出す。教室で書いたゲートの絵だ。見上げると電車の窓の向こう側にそのゲートがあるビルが建っていた。

 東京駅。私は電車を降りると改札を抜け、そのビルへと向かう。

「世界の果て」私はそう夏の夜空へ声を出した。

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