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葉子と夏  作者: 結姫普慈子
第二章 前日
16/23

16. ピアノ・ソナタ

 私達はちょっと早い夕食を食べていた。店内ではやわらかい音でモーツァルトのピアノ・ソナタが流れている。チェーン店のレストランであるが結構良い音楽であった。

「これから行く場所あるの?」私がピザを片手に持ちながら雅に聞く。

「そうだな、水族館でも行こう」

「ふふっ。いいわね、楽しみだわ」と私が言うと雅はちょっとカチコチと緊張してしまう、おそらくこれから先の事を考えているのだろう。

「なあ、葉子」

「なぁに?」

「僕と葉子が知り合ってどのくらいだ?」

「そうね三ヶ月位じゃない?早いわね」そう言って私はそっとレストランの窓の外を見る。辺りが段々と薄暗くなってきていた。この中はエアコンの冷気で涼しいが外に出るとまだまだ暑いのだろう。私は水族館に行くまでの道のりを考える。

 そこには電車に乗らなくてはたどり着けない。電車はきっと帰宅途中の会社員で混んでいるだろう。

 と、考えていると「はぁー」とため息が出てしまった。くしゃみではないが無意識にそれは出ていった。雅はそれに気付かないでピザをもぐもぐと食べている。

「ドリンクをとってくるわ」私は雅にそう言うとドリンクバーへと進んでいく。

 ホットコーヒーをマグに入れて鼻の下に持っていく。ゆっくりと鼻で吸い込んでみるとブラックコーヒーの苦い香りがしていた。それを席に持っていくとカプリとゆっくり口に含む。舌に酸味が溶け込み同時に熱さが広がる。苦味は後からきてスッキリしている飲み心地だった。店内のBGMはピアノ・ソナタが続いておりちょうどトルコ行進曲になったところだった。私がそれに合わせ鼻歌を歌っていると雅がピザの最後の一欠片を食べ終えた。

 彼は口についたピザのケチャップをナプキンで拭き始める。そのナプキンをくしゃくしゃに丸めるとテーブルに置いた。

「この曲なんていう名前だっけ?」今も鼻歌を続ける私に対して雅がそう聞いてきた。

「モーツァルトのトルコ行進曲よ」

「ふーん、よく聞くよな」

「そうね」


 やがて私がコーヒーを飲み終えると会計を済ませて店を出た。

 水族館に向かうため電車に乗るとやはりそこは帰宅するサラリーマンが大勢いた。私は雅と隣同士でたまたま空いた座席に腰を下ろしている。電車が揺れる度に触れる私のふとももと雅のふとももに私は気がチラついていた。私達は終始無言で到着駅が着くまでうつむいていた。

 サラリーマンは疲れている顔をしているが、これから家に着くからなんだか安心しているような顔だった。

 やがて目的の駅に着くと私達は電車を降りた。

 外はもう真っ暗闇だった。夜中でも夏はとても暑い。改札口を出るとてくてくと歩き始める。そうしていると水族館が直ぐに見えてきた。

 水族館「睡龍」と書かれたでっかいネオンの看板で私達はその下をくぐり水族館の中へと入っていった。

「すいりゅー」と横で雅が言った。私はくすくすと笑ってしまう。

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