11. 二人きりの時間
「教室には二人だけか」と雅が教室の中に入ってくると言う。それから私のそばまで来ると「おはよう葉子」と言った。真里は文庫本で顔を隠している、どうやらあまり詮索されたくないようだ。
「おはよう、雅」と私が朝の挨拶を返す。
「それでさ、葉子ちょっと廊下に出てくれないか?」と私を廊下へと連れて行く。
廊下に出るとそこは教室よりもひんやりとしていて同時に薄暗かった。まだ早朝だからだろうか、だなんて考える。さっき教室で時計を見た時は7時をちょっと過ぎたくらいであった。
「なあ、葉子。僕たちの課題・・・いや問題を解決しないか?」とその薄暗がりの中で雅が言った。
「私達の問題?」
「今までうやむやだったろ?」と雅が言う、彼がドキドキしているのがわかった。
「何がうやむやだったの?教えてよ?」と私が言うと彼は私の目を見つめる。なんだかこっちまで恥ずかしくなってくるけど彼の目線を受け止める。
「今日デートしないか?」と彼が思い切ったように言った。
「そういうこと?」
「ダメか?」と真剣に私を見つめる雅はとても真剣で私は彼に抱いている恋心に溺れそうになる。
「いいわよ」と私が言うと彼は笑顔を浮かべ、
「じゃあ放課後な。と言って教室へと入っていった」
教室に戻ると真里の姿はなかった。私の席に戻ると彼女の持っていた小説、「神々の白紙」が私の机に置かれていた。
私と雅は隣同時の席なので席に腰を下ろすと、若干緊張した時間が少しだけ流れた。
私は文庫本を机の中に入れると雅の方へと顔を向ける。
「雅にしては結構思い切ったこと言ったんじゃない?」と私が言う。
「いや、大事なことなんだ」と笑いながら言う雅はどこか輝いて見えた。
「そうね」私もクスクスと笑う。
なんだか神聖な時間だった。早朝の二人きりの教室。
きっと学校はこの時間の為にあるのだろう。私はそう思った。
二人きりの時間。