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悪役令嬢は退場しましたけれど、お幸せですか?  作者: せりざわなる
第1幕 リリアーナ・エルトリト
9/21

籠の中 前編

独白回です。

動きはあんまりありません。

皆さん、リリアーナをご心配頂きありがとうございます。

4/18 最後の部分に、少し追加しました。

「王太子妃さまが、媚薬香を使った策謀の疑いでリリアーナさまを告訴なさいました。誠に申し訳ございませんか、調査の間は宮の留まり頂きたく…。私的な面会も手紙も許可はできませんが、あまり不自由はございませんでしょう。今しばらくご容赦下さい」



拘束すると宣言し、私の宮を家宅捜索した調査官らは、私に同情的な雰囲気でした。ほんの数日の事でございますよ、と優しい言葉をかけて、退室していきます。



「しばらく、1人にしてちょうだい」


部屋付きの侍女たちも、なんとも言えない顔をして命に従ってくれました。

私は寝室に入り、寝台の上に座ります。



あの調査官らは色々教えてくれました。


かの宮にいた不届き者の名は、リルデンベルク子爵令息、エドゥアルド。

王太子妃さまと貴族向けの夜会で出会い、お話を相手として宮に呼ばれていた令息達の1人だったようです。

私が告訴をうけ、調査されるに至った理由は、リルデンベルク子爵家が私の生家エルトリト侯爵家に連なる家だったから。例の媚薬香も、エルトリト侯爵領の交易港がある街で入手されたものだったからです。

エドゥアルドは、入荷を渋る商人に対してエルトリトのを出して強引に承知させたとの情報もあり、その事実とエルトリトとの関係も調べられる事になったのです。



ーあの日。

湯に入り身支度を整えた王太子妃さまが、王太子殿下の元へ来られた時、私は殿下に報告している最中でした。

私も王太子殿下も立ったまま、隣あって話しておりましたが、王太子妃さまは殿下を目にした途端、飛びかからんばかりに近寄ろうとなさいました。

王太子殿下は驚かれて、私の腰に手を回し、庇うように身を引き寄せて下さったのです。

動きを止め、その腰の手を凝視する王太子妃さまに、「今は落ち着いて話そう」と諭すように殿下は仰ったので、後はお二人でとその場から退いたのですが、信じられないような目をした王太子妃さまの視線は、私に向けられておりました。


何となく、このままでは終わらないような気がしていました。そして、その予感の通りになりました。

王太子妃さまはエドゥアルドが私に繋がる者と知り、「全てはリリアーナの企みである」と告訴されたのでしょう。



私は媚薬香など知りません。

宮の中を調べられても、何の問題もありませんでしたから、調査官達の仕事を静かに待っておりました。


告訴があった以上、調査しなければならない調査官達は、告訴に至った経緯も知ったはずです。

今回の事件がなくとも、王太子妃さまの最近の行動は、眉をひそめるものばかり。告訴を受けた私の様子も相まって、あのように同情を寄せてくれたようです。

無論、はっきりと言うわけはありませんが。


調査官らの言葉を信じるならば、私の名ばかりとも言える「拘束」は、それほど長くかからないようです。

一時の休息を得られた、と思っては不謹慎でしょうか。



私は、はしたなくもドレスのまま寝台に横たわりました。



目を閉じれば、学院時代を思い出します。

初めてじっくりと、アメリさまにお会いしたのは小さな池の畔でございました。

偶然にもふたりだけで過ごす事になって、戸惑ってばかりいた事だけを覚えております。

アメリさまとは、デビュダントや学院の新入学式典でお会いしておりましたが、礼儀上の挨拶を交わすのみでした。

幼い頃より王太子殿下と婚約を結んでいたアメリさまは、その容姿も素養も絶賛されていて、初めてお目にかかってその噂が誠であると知りました。

まだ側妃の話もございませんでしたし、違う派閥でありましたから、お父様からも適度な距離を置くようにと言われておりました。

ですから、これからも交わる方ではないのだろうと思って、日々の生活を過ごしておりました。


そんなある日、私は乗馬の先生にひとつ内緒のお願いをしました。

学院には女性にも乗馬の授業はありましたが、それはいわゆる「女乗り」といわれるもので、椅子のような鞍を馬にのせ、横座りでその上にのって走らせる方法です。

これは、自分で手綱を操るのが大変難しく、前に同乗者を据えるか横を歩いて手綱を引いてもらう事が常でした。しかしそれでは、速度は出ません。

私は幼い頃から兄弟と共に過ごし、鞍を跨ぐ「男乗り」を得ておりましたから、時々思い切り走らせて見たいと思っていたのです。

先生は驚いたものの、快諾してくださりました。

『同じお願いをしている人がいるから、一緒でも良いかい?』

そうして、出会ったのがアメリさまだったのです。

同じ望みを持っていたなどお互い驚き、ポツポツと会話を交わしていく内に、少しずつ打ち解けていきました。


馬の早掛けは、私とアメリさまだけの秘密となりました。

何度もご一緒に馬に乗り、馬を走らせる爽快感や互いの領地で走らせた時の事、学院での授業の事なども話せるようになりました。

中でも嬉しかったのは、私が領地で出会った異国の方々との交流の話を、目を輝かせて聞いて下さったこと。

ラグゼンダール公爵領には海がないからかも知れませんが、熱心に聞いてくださり、共に異国の地に思いを馳せてあれこれ夢を語り合ったのです。

でもその後に、少し寂しそうなお顔をされたのは、王太子妃になる未来が決まっていたからかも知れないと、今は思います。


私とアメリさまは表向き交流をもたず、馬と共に池の畔で会い語り合う、秘密の関係でしたが楽しい日々でした。

異国への強い憧れを持っている私に、余裕のない表情で王太子殿下の側妃になって欲しいとアメリさまが言われた時は、迷わず承諾してしまうくらい大好きになっていました。

アメリさまの笑顔が見れるなら、私にできる事は何でもしてあげたかったのです。


それが、セシリア嬢が途中入学してから一変しました。

平民の母をもつ男爵令嬢は、当初それほど目立つ存在ではありませんでした。奔放な言動には眉をひそめるものの、関係を持たなければ無害。交流関係も自己責任ですから、特に思うところはありませんでした。

ですが、セシリア嬢は初対面の時からアメリさまに警戒を見せました。王太子殿下や宰相子息などの方々と積極的に交流を結ぼうと行動し始めました。

そして、己の奔放な言動によって周囲が不穏になり始めると、アメリさまの関与をほのめかすようになりました。

アメリさまは戸惑いつつも、大きく構えていたようです が、ある日から笑顔が消えたのです。

皆はセシリア嬢の存在が、心をゆらしているのではないかと噂していましたが、私は気づいてしまいました。

王太子殿下とお話になった後、1人になると顔を青ざめさせ立っていられないくらい震えていらしたのです。

アメリさまは決して言おうとなさらず、「お願い、私を止めないで」とだけ仰いました。その悲壮な表情に、頷くだけしかできませんでした。


アメリさまの身に、一体何があったのでしょう。

あの告発の日の凛としたアメリさまの姿を見送ってから独自で調べましたが、アメリさまの様子が変わられる直前にセシリア嬢と接触した事だけしかわかりませんでした。




私は身を起こします。

楽しい事を考えていたはずなのに、要らぬ事を考えてしまいました。

私は侍女を呼んで身を整え、お茶と本を楽しむ事に致しましょう。







数日後。

私に拘束解除の通達が届き、時間をおいて王妃さまの元へ呼ばれました。


「リリアーナ。あなたやエルトリト候に繋がる事実は見つからなかったようよ。良かったわね」

「皆さまの誠実な調査のお陰でございます。感謝しております」

「勘違いをしては駄目よ。繋がりを見つける事が出来なかったということなのであって、無実を証明されたわけではないのだから。少し、外が騒いでいるのよ」


頭をたれる私へ、王妃さまは冷ややかに仰いました。

調査官が動いて、後宮の外へも影響が出たのでしょう。王族を支えつつ、互いに牽制しあっている貴族の男性社会の方でも動きがあったようです。

お父さまに迷惑をかけてしまいました。

謝りたいところですが、連絡する事を許可されても、密かに監視は続いているでしょう。


「エルトリト候の事が気になるかしら?まあ、問題を起こしたリンデンブルグ子爵家の寄り親なのだから、それなりの責はとる事になるわね。でも、彼自身は揺らぐ事はないでしょう。むしろ、子爵家は色々問題を抱えていたようだから、これを機に切り捨ててすっきりするのかもしれないわ」


扇を広げて口元を隠した王妃さまは、私をじっと見つめてそう仰いました。


「ーまあ、陛下のお手を煩わす事なく、またひとつ膿を出せるならそれはそれでよろしい事ね」


そうして、ふっと目を閉じられた王妃さま。

扇の下の口はどんな形を描いているのでしょうか。


「あの子の話をしましょう」


ふっと王妃さまの目が開き、パチンと扇は閉じられました。

王妃さまは扇で椅子を指したので、私は座ります。


「リリアーナ。あなた、あの子に会いに行ったそうね。どんな話をしたのかしら?」


鋭い眼差しを向ける王妃さまに、逆らうつもりはありません。私は、あの日を思いだしつつ、口を開きました。

前の回のラストが唐突過ぎて、今回で「なんだよ!」と思われた方々、申し訳ありません。


次は「籠の中 後編」

もうひとつの籠の中の人、セシリア嬢と対面再びです。


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