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悪役令嬢は退場しましたけれど、お幸せですか?  作者: せりざわなる
第1幕 リリアーナ・エルトリト
8/21

花の失墜 後編

人によっては凄く不快な展開と表現があります。

先にお詫びを申し上げます

4/15 意味を取り違えていたため、修正しました。

告発→告訴


さて。残るは王太子妃さまです。


「水差しをいくつか持ってきてくれるかしら?」

「リリアーナさま?」

「ごめんなさいね。乱暴にしますけと、私、怒っていますの」


水差しを手渡されると、徐に王太子妃さまにちかづき、頭上でそれを傾けました。


「ひっ!」


水は勢いよく、眠っている王太子妃さまの眉間めがけて落ちていきました。

たちまち、お顔は水浸しになっていきます。ですが、王太子妃さまはまだ目が覚めません。空になったので、新しいのを寄越すように言えば、侍女長はガタガタと震えながら交換してくれました。

それを2回ほど繰り返し、寝台まで水浸しにするのはやはり駄目かしらと思っていると、ようやく王太子妃さまに変化が出ました。

水が当たって息苦しくなり、大きく息を吸ったところで水が入ったのでしょう。咳き込みながら、目を覚ましました。


「な、なんなの……っ」


状況がつかめていないようで、咳き込みながらも身を起こし、確かめるように周りを見たり、自分の体に触れています。

体を覆う掛布ごと水浸しになっている事に驚いたようでした。


「おはようございます、王太子妃さま」

「え、おはよう…?リリアーナ……」

「中々お目覚めにならないので心配しましたわ」

「なぜ、リリアーナが……。それに、どうしてこんなに濡れているの……?」


王太子妃さまは、ぼんやりと思考を巡らせていらっしゃるようでした。


「昨夜は、お部屋に入らぬようにとご命令されたようですが、この時間になってもお声がかからないことを憂慮し、この宮の者達が知らせてくれたのですよ」

「昨夜……部屋………?」

「今は、城の全ての者が慌ただしく動き回っておりまして、王太子殿下も例外でもございません。僭越ながら、私が王太子妃さまの元へ参りました」


あの光景を目にした途端に沸き上がった私の中にあった激情は、目を覚ました王太子妃さまの様子に少し収まりました。


「殿下も?どうして……?」

「殿下は、シンシアさまの元へ行かれております」

「え?」

「今朝、王女がご誕生されたのですよ」

「王女が……?」


どうして、呆然とされているのでしょう。

シンシアさまの出産の時期にきていた事は知っていたでしょうに。


「国の吉事ですから、今朝、王太子妃さまにも報告を参ったそうです。ですが、王太子妃さまは声にお応えになれず、彼女ら心配したがゆえに私が参る事になったのです」

「そうだったの。皆に心配をかけてしまったわね……。でも、殿下は行ってしまわれた…。」


しゅん、と王太子妃さまは、悲しそうに肩を落とします。


「王太子殿下は、まもなくこちらに見えられますよ」

「本当?」


事実を伝えると、王太子妃さまは表情を明るくさせて顔を上げました。


「…………随分とお喜びのようですが、本当にこのままお迎えしてよろしいのですか」

「え?」

「そんなお姿で、どのようなお話をされるのです?」

「え?あっ!……きゃあっ!」


何かを思いだし、己の姿に恥ずかしさを覚えたようです。肌が露な自分を腕で隠すように抱えこむと、王太子妃さまは嫌々と体を震わせました。


「なんでっ!私なんで、こんな姿なのっ!」

「…………とりあえず、そのお姿のままではお体に悪いですから、着替えを致しましょう。…支度してくれるかしら」


湯に入って洗い流すのが早いのですが、浴室までこのような姿のまま移動して頂くわけにはいきません。その前に、一旦体を拭い服と髪を整える必要があります。


手にもったままの水差しを返しながらそういうと、侍女長は青ざめたまま震える手で受け取り、一礼して下がっていきました。




寝室に二人きりになりました。

空気を入れ替えるために開かれた窓を、私は閉めていきます。

私が足元にある男の服を拾い上げますと、王太子妃さまはそれを目に入れてしまったようです。


「それはっ!」

「こちらの持ち主は………ご存知のようですね」

「まさかっ!まさか、私っ!」

「……………」


服を手にもったまま、じっと王太子妃さまを見つめる事で応えます。


「あちらもまだ目が覚めておりませんでしたが、あのままお側に置いておくわけには参りませんわ。とりあえず、別室へ運びましたけれど…」

「それは……ちがうわっ!あれは違うのっ!」

「違う……?では、あの者はやはり狼藉者でしょうか。ならば、重大事。手配致しますわ」


服を放り出し、一歩後ろへ下がる仕草をする私を、王太子妃さまは引き留めるように手を伸ばします。


「待って、リリアーナ!駄目よ!それは駄目!」

「王太子妃さま?」

「あの人を、そっと連れ出して。まだ間に合うでしょう?ーそうよ、部屋も片付けてしまえばいいのよ!…ねぇ、侍女長を呼んで!殿下が来る前に、部屋を整えなさい!」

「王太子妃さま」

「リリアーナ。協力して?あなたはここで何も見なかったの。私はただ、お酒を飲み過ぎちゃって、寝込んでしまっただけなのよ」


「ー失礼ながら、妃殿下。ご冗談にも程がございますよ」


私の声は、意図をせずとも冷たいものになります。

王太子妃さまは、驚いたようにこちらを見ました。そして、みるみるうちに涙が溢れてきます。


「なんで………。どうして、こんな事になるの。ただ、お話してただけなのに」

「王太子妃さま。そもそも、どうしてあちらの方がこの宮にこられたのです?お話相手として、お呼びになったんですの?」

「だって、最近は殿下は来てくださらないのだもの。いつだって、お仕事が忙しい忙しいって。それなのに、あなたのところへは行っていたわよね」


王太子妃さまは、涙目できっと私をにらみます。


「それに、王妃がひどい事を言っていたのよ。側妃二人が子供をもって、あなたが不安になっているから、殿下に通わせているって。私は正妃なのだから、慌てる事なく構えて、殿下が帰ってきたら癒して上げれば良いだなんて。私は凄く寂しかったわ」

「それは……申し訳ございませんわ」


そこで、何故か、王太子妃さまはふんわりと笑います。


「でも、許してあげる。代わりに、みんな優しくしてくれたのよ。エドもここに何度も来てお話をしてくれてたの。それで相談したのよ」


内心、呆れ果てていました。

学院時代の振るまいから予想した通り、殿下の足が遠退けば、王太子妃さまは沢山の「お友達」を作ろうとしました。男性の方が大半なのも予想通りです。

そのお友達を簡単に王太子妃宮に招き入れてしまうのも問題ですが、王太子夫妻の私的事情までも話してしまうなんて。


「それで、媚薬香をお知りになったのですの?」

「ええ。あれさえあれば、殿下ともっと仲良くなれるというから、持ってきてもらう事にしたの。でも、貴重なものだから、誰にも内緒で渡したいって言うし……。つい、内緒で呼んでしまったの。使い方を聞いて、焚いてみたら、とても甘くていい匂いだった。それからは……あまり覚えていないわ」


お酒と香の作用で、あのような事態に至ったということでしょうか。


確かに、王太子妃さまの身の安全の為にも、来客の際には身に付けるものや持ち込まれるものは、一通り改められます。しかし、それが理由で、内密に王太子妃自ら招き入れるとは、あまりにも愚かすぎます。

エドというのは何者なのか気になりますけれど、来訪歴があるならば直ぐにそれはわかるでしょう。

王太子妃さまは、涙を拭いながら言いました。


「ねえ、リリアーナ。ちょっと羽目を外してしまったかもしれないけれど、殿下は私を愛しているんですもの。許してくださるわよね。…今まで、リリアーナに殿下を貸してあげたんだから、協力してちょうだい」


思わず、愕然としてしまいます。

彼女自身の理由はどうあれ、他の男性と情を交わしてしまっても、殿下は変わらず愛してくれていると本当に思っているのでしょうか。

それに、その貞操観念の薄さも、未だに王太子妃という立場と事の重大さがわかっていないことも、大変恐ろしく感じます。


「失礼ながら、それは許されませんわ。事の重大さがお分かりでしょうか?王太子妃さまは、罪を犯されてしまいました。ーこの部屋に、王太子殿下以外の男性を迎えいれたこと。情を交わしたこと。媚薬香を持ちこんたこと」

「待って、媚薬も?それが罪になるの?」


王太子妃さまは、きょとんとした顔を致しました。

どうして、そのような顔をするのでしょう。

どうして、最後の部分だけを気になさるのでしょう。

どれも重大な罪と申していますのに。


「王太子妃さま。婚姻前に、私どもと共に学んだ事がございましたでしょう?」


【認可機関が処方したもの以外の、媚薬やそれに類する物を使用することや持ち込む事は固く禁じる】


「先ほど申しました3つのうち、2つは貞操に関わる罪ですが、媚薬の件は王太子殿下の暗殺未遂に繋がるのですわ」

「暗殺……?嘘よ!」


想像以上の罪に、王太子妃さまは驚愕しています。

確かに、媚薬と暗殺は簡単に結びつきません。

その理由は、過去にこの城で媚薬に纏わる大きな騒動があったからなのです。




媚薬の使用は、昔から王族の血筋を残す為の手段の1つとして認められていました。

その中でも効用の高いものが、禁じられ原因となる事件を起こしたのです。


当時、王の寵愛を受けた側妃が、新しい側妃にその寵愛を奪われる事恐れ、新側妃の懐妊発覚の際に、媚薬香をそうとは言わずに贈ったのです。

新側妃はその香を、寛ぎの効用をもつと聞かされており、様子見舞いに訪れた王を思って焚いた為に悲劇は起きました。

子の安定の為に労る時期であった新側妃は、媚薬香の効果でをひどく高揚した王よって、無惨に翻弄されてしまいました。

結果、新側妃は流産し、自身の命にもかかわる事態になりました。自分の手で己の子を殺してしまった王の嘆きはとても深いものだったそうです。

事態の原因は追求され、王の子を殺した罪で第1側妃は処罰を受けました。そして、媚薬に理性や常識的な判断をなくす程のものがある事が問題視されました。

それはある意味無防備な状態であり、身を害する機会を与えかねないからです。

こうして慎重に協議を重ね、経路不明な媚薬の使用を禁じ、命に関わる罪としても考えられるようになりました。


それほど効用の高い香は、ニホリ国の周辺位でしか出回っていないとマルセル殿とお話したことがありましたが、今回の香は同じものかも知れません。


「そんな……っ!」

「私どもは、王太子殿下の一番近くにいる事が許されておりますから、悪しき企みをもって害する事は可能です。ですから、禁じられていることも多数あるのですわ」

「そんな事するわけないじゃないの!酷いわ」

「法や規則は何かを守るためです。私どもの気持ちより、王太子殿下の身をお守りしなければならないのですわ」

「そんな…ひどいわ…。悪い事なんてしていないのに…誰か…なんとかならないの…」


王太子妃さまは黙りこんで、また目をうるませました。

ここまで来ても、どこか誰かが助けてくれると信じているかのようです。


しかし、なんて幼く浅慮な方のでしょうか。

何もかも未だに未熟。香の件も、しっかり学んでいれば、防げたはずの事です。

こんな方にアメリさまは、王太子妃の地位を奪われたのかと思うと、とても暗い気持ちになってくるのを感じます。


媚薬香の件は予定外ですが、改めて予定通り進めて行こうと決めました。




静かになった部屋に、侍女長らが身支度を整える用具を持って戻ってきました。


「王太子妃さま。まもなく王太子殿下もお出でになります。ご自分からも、殿下にお話する事がございましょう。身支度を整える時間はありましょうから、どのようにお話になるかお考えになってはいかがでしょうか」



私は侍女長らに任せて、部屋を出ることにしました。

身支度を見ている必要はないでしょう。

意識を失っていた侍女や、あの男性の事、王太子殿下のお出でにも対応せねばなりません。




そんな私の後ろで、侍女らになされるがままの王太子妃さまは呟いていました。




「なんでよ……。なんでこんな事になったのよ。せっかく悪役令嬢は退場させたのに、殿下の心を救った私は愛されているはずなのに……」










数日後。

告訴を受けて、私は拘束をされました。

※作中の寝ている人に水を…は実際にしないでくださいね。下手をしたら、溺れて死んでしまいます。水の量は関係ありません。


誤字等のご指摘、ありがとうございます。修正しました。


王太子妃(ヒロイン)のヒロインたる性格に苦労いたしました。私にはよくわからない心理ですからねー。

という事で、長い割には伝わりにくい展開かもしれません。時を置いて、修正するかも……。


コメントありがとうございます。

展開に関わる事を自分でうっかり書いてしまうために、個別へのお返しはしておりませんが、「ふむふむ」「ほほう」「ぐはっ」とありがたく受け止めさせて頂いています。


お読み頂き、ありがとうございます。

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