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悪役令嬢は退場しましたけれど、お幸せですか?  作者: せりざわなる
第1幕 リリアーナ・エルトリト
7/21

花の失墜 前編

爆走中。

このエピソードだけで、凄く長くなりそうなのでわけます。

人によっては不快な展開、表現があります。先にお詫び申し上げます。

王太子妃宮はとても奇妙な雰囲気でした。

宮の外を守る警備兵は緊迫した雰囲気なのに、出迎えた側使え達の様子が様々だったからです。


私が来たことで安堵する者、顔を青ざめさせる者、状況がわからず心配そうにする者。

宮を守り仕事に徹する彼らが、部外者の私に対して、これほど感情を露にされる事に驚き、本当に非常事態のようだと実感しました。


「リリアーナさま。お出でいただきありがとうございます」


そんな彼らを一瞥して気を引き締まらせ、私の前に出たのは宮の侍女長。


「王女殿下のご誕生で、皆はやるべき事をしています。ですが、今お喜びになっている王太子殿下に、水を差すような事はできませんから、私が参りました。あなた方も同じように思ったから、私の元へ来たのでしょう?」


本来、王太子妃の問題は王太子殿下に報告が上げられます。王太子妃の下である、側妃に伝えられるなどあり得ません。

ですが、通常であれば避けられた側妃の私たちは、当初から王太子妃の補佐についていましたから、ほんの少し立場が違いました。

時に、王太子妃に教え導き、遣える者たちと同様に心配したり、諌めたりしたのを見ていたからでしょう。

王太子殿下でなければ、王妃さま。その上の陛下か、となるわけですが、現状がそれほどの事態なのか。

また、王女殿下の誕生で喜ぶ王太子殿に水を差すほどの緊急性なのかも、どうにも判断がつかなかった彼らは、側妃に伺いをたててみる、という手段に出たようです。


シンシアさまは出産、ルシーダさまはそのお側についているので、私になるのは当然ですね。


「とりあえず、現状とそれに伴う経緯を話しなさい。医師は控えさせているわね?万が一に備えて、治療ができるように部屋を整えておきなさい。厨房の方にも、軽い食事はもちろん、治療にお湯が必要になるかもしれないと通達して」


侍女長は返答し、他の侍女らに指示をしました。聞いている限り、それらの準備は整えられてようですが、確認の為に再度人をやるようです。


侍女長は淡々と説明をし始めます。

最近は、王太子殿下の夜のお出がなく、妃殿下もふさぎ込みだったようです。………これは、私のせいですわね。

昨夜は晩餐の際も控える侍女との会話を楽しむなど、非常に王太子妃の機嫌がよかったようで、安堵していたそうです。

王太子妃は上機嫌のまま、最近お気に入りの側使えの侍女と話し込みたいと酒肴を用意させ、無闇に部屋に近づくな、誰が来ても通してはならない。こちらから呼ぶまで決して部屋に入るな、と命じて部屋にこもってしまいました。


誰が来ても、の部分で私は眉をひそめてしまいました。

ですが、考えれば王太子殿下は連夜私の元へいらっしゃっていますし、陛下や王妃さまが直接お出でになる事はございませんが、お二人の通達人ならば、来られても上手くお帰りになるよう計らう事はできますね。


シンシアさまの出産の報は、随時王太子妃宮にも届けられていました。ですが、出産を終え面会の支度が整うまでに時間がかかるのは誰もが知っていたので、王太子妃さまの命もあり、その都度報告するのを控えていたそうです。

しかし、面会の支度が整い、王太子殿下が動かれる状況になれば、さすがに報告しなければならないと、王太子妃の部屋の前まで行ったようでした。

それでも、部屋に入らず声をかけたのですが、何の応答めありません。部屋にいるはずの側使えの侍女すら姿を見せないのです。


『ゆっくりと、女同士でおしゃべりしたいのよ。この子は、入ったばかりであまり事情を知らないでしょ?楽しい話ばかりしてくれるから、良いの』


王太子妃はそう言っていたそうで、もしかしたらその侍女にもお酒を飲ませて、会話を楽しんでいたのかもしれません。ふたりで深酒してしまい、寝込んでしまったのかもしれません。

それはそれで良い事ではありませんが、命を無視して部屋に入ってそうであった場合、王太子妃のお怒りがどれ程のものになるか。侍女長は覚悟ができているようですが、この宮にいる他の者たちへの影響を考えて、手をうったということです。


それが、良い判断かはともかく。確かに、私のような者でも、立ちあった方が良いでしょう。

少なくとも王太子妃には、このめでたき日に相応しくない振る舞いをしているとの否もあるのですから。


「わかりました。では許可します。王太子妃のお体が心配ゆえ、お部屋に入りましょう。後に、王太子殿下に報告しなければならないでしょうから、証人として私も立ち会います」





王太子妃の部屋の前までくると、扉の両端には侍衛官の女性が控えていました。

私を連れてぞろぞろと数人が近づいてくるさまに戸惑いを隠せないようでした。


「第一側妃さまがいらっしゃいました」

「妃殿下のご指示は承知しておりますが、王女殿下の吉報はお伝えしなければなりません。王太子妃のお体も心配ですし、必要ならば王太子殿下にお伝えしなければなりません。……あなた達に、責はありませんから、扉を開けなさい」


ちらりと侍女長に視線を向けた侍衛官らは、素直に扉を開きました。

一瞬間が空いて、私たちは部屋に入っていきました。


まずは、本やお茶を楽しみながら寛いだり、時に親しい人と歓談するための部屋。

低いテーブルの上には、用意された酒肴が残され、それを囲む4つの広くゆったりとした長椅子の1つには、1人の女性が横たわっていました。


「エリカ!」


侍女長が真っ青な顔をしてかけよって行きます。

どうやら彼女が、王太子妃のお気に入りであるという侍女のようです。


「エリカ?何をしているの?…王太子妃さまのお部屋で寝ているなんて…、お酒を飲んでしまったの…?ほら、起きなさい!」


私の前だと忘れているようです。

しかし、それだけ部下思いなのでしょう。私は気にする事なく、侍女長が彼女を揺すり起こそうとしているのを見ています。

ところが、慌てた様子で侍女長が私に振り向きました。


「リリアーナさま!様子が変です!……エリカが起きません。お酒の匂いもしないのに……」

「…っ!ならば、それ以上揺すってはなりません!」


私は出入り口に向かって叫びます。


「直ぐに待機させている医師をこちらへ呼びなさい!水と拭うための布も多めに用意して!」


指示をしながら、再度、酒肴の残されたテーブルを見ます。

お酒も軽食も適度に食されています。特におかしなところがはありませんが、ただひとつ、エリカの対面の長椅子の前の位置に、酒杯が2つ並んでいるのが気になりました。


隣に座って、杯を交わしたということでしょうか。

侍女自らとは考えられないですけれど、王太子妃がそのように命じればおかしな事はありません。

そして、酔いつぶれてしまった侍女を、王太子妃自ら寝かせてあげたのでしょうか。


「お連れいたしました!」


その声に、考えることはやめました。

すぐさま、医師に侍女を見るように指示をすると、邪魔にならないよう私の側に戻ってきた侍女長に言いました。


「彼女は任せましょう。王太子妃はこちらにはいらっしゃいません。寝室に入られているのでしょうね。仕方がありません。そちらに参りましょう」


侍女長も表情を引き締めて頷きます。

私たちは寝室へ参りました。そして、扉を開けますと、中からむわっとした甘い香りと………………………………………。




寝台の上に、しどけない姿の王太子妃と男が現れたのです。






あってはならぬ光景に、誰もが声を失いました。

ですが、鼻についた甘い匂いにはっとし、私は叫びました。


「この匂いを嗅いではいけません!鼻と口を覆いなさい!手が空いているものは、この部屋の窓を全て開けるのです!」


私自身も鼻を手巾で覆いながら、ここまで静かについてきた自分の侍女に命を下します。


「王太子殿下に報告を。ですが、シンシアさまがいる席を汚さぬよう、充分に配慮なさい」


侍女長が驚いたようにこちらを見ましたが、さすがにこれは許されません。それはわかっているようで、彼女は結局口をつぐみ、私の侍女が報告に走るのを見送りました。


窓を開けたことで風が通り、匂いはたちまち消えていきました。寝室の窓も開けるため部屋に入る侍女らにやたらに物を触らぬように注意しながら、私も入ります。


「リリアーナさま、先ほど仰っていた匂いとは何なのですか?」

「おそらく、媚薬香です。ニホリ国の特使と話題になったことがあります」


驚き動きを止めた侍女長を置いて、私は寝台に近寄りました。

空気は入れ替わり、これだけの人が周りにいるのに、ふたりは起きる気配がありません。歩を進める度に、残されているふたりの情事の跡が生々しく目に入ってきて、気分が悪くなりそうでした。


「……さすがに見苦しいですわね。誰か、ふたりに掛布をかけてやりなさい」


侍女たちがふたりの体を掛布で覆う間、私は寝台周りに目をやりました。

乱雑に脱ぎ捨てられた衣装。放り投げられたのか、破損したものもある宝石類。王太子殿下からの贈り物だと彼女が私どもに誇っていた最高級のドレスは、地に落ち、足で踏まれた跡も見られます。

男の衣服も同様でした。最高級とまではいかなくても、高級であることは確かです。王太子妃の宮に近づく事ができるならば、それなりの身分の者でしょう。


「リリアーナさま。おふたりは……いかが致しましょう」


もう、驚きすぎて判断ができなくなったのでしょうか。

侍女長は当初の落ち着きぶりをなくして、すがるように私を見ています。


「王太子殿下が来られるまで、できる限りこのままの方が良いのでしょうけど。王太子妃さまのお体を見なくてはならないですし……。とりあえず、男の方はこの部屋から出しましょう」


治療用に用意した部屋に運びなさいというと、侍女らは少し困った様子を見せました。

相手は男で、不埒な真似をした後の体を運ぶのです。気持ちはわかりますが、男手を入れるわけにはいきません。


大人数でなんとか、運び出してもらいました。

後編は鋭意作成中です。

前後で、長さが偏るかも知れませんが、お許し下さい。


あまりに直接的すぎる言葉じゃないか、とのアドバイスをうけ、ちょっとだけ修正いたしました。

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