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悪役令嬢は退場しましたけれど、お幸せですか?  作者: せりざわなる
第1幕 リリアーナ・エルトリト
3/21

友人との再会

翌日。

私はある教会へ向かいました。

王都の中でも小さく古い教会ですが、長い歴史があり、他の小さな教会をまとめ役となっているところです。


「リリアーナさま。本日も多くの品々をお譲り頂き、ありがとうございます」

「いいえ。私の方こそ、喜捨させて頂き感謝しますわ」


いつものように、教会の神官長と挨拶を交わします。

言葉の通り、私は多くの品々を持ってこちらを訪れました。

王族主催の夜会では、多くの予算と物品が用意されます。ですが、それを全て消費することはありません。

予算は他へと流用可能ですが、廃棄せざる得ないものもあります。食材などは特にそうでありましょう。

廃棄するにも手間と予算がかかるので、この教会を通じて、必要とする者たちへ必要とする物だけを配布することにしているのです。


「王族の方々の慈悲深いお心により、多くの者が救われております。私どもが預かります子供たちも、生きる喜びを得て励むようになり、日々神と皆様へ感謝しております」

「それは、神官長を初め、皆様の導きのお陰でもありましょう。子供が元気で過ごせる事は、国としても未来に繋がる喜ばしい事です。私もできる限りの事はさせて頂きますから、これからもよろしくお願いしますわね」


神官長は頷き、そういえばと話題を変える。


「リリアーナさまがお呼びの者は、既に到着しておりますが、お会いになりますか」

「そうね。良いかしら」

「では、そのように。…失礼致します」


神官長はそう告げて、応接室を出ていかれました。

しばらくして部屋の扉の外から、入室許可を求める声がし、応えると1人の修道女が入ってきました。


「マリアでございます」


高位の者への礼を尽くす彼女に、私は微笑んでそれを解くように命じました。


「私にそのような挨拶は、何だかとても奇妙に思えますわ。今は余計な事を申す者もおりません。しばし、昔に戻りませんか?ーアメリさま」


どうぞ、昔のように私の隣にお座りになって、と加えれば、戸惑いつつも笑顔を浮かべて座ってくれました。

修道女マリアはかつてのアメリ・ラグゼンダール公爵令嬢。修道衣を纏い、化粧も最低限のほぼ素顔を晒しておりますが、その美しさは変わらぬように思います。


「…リリィ。久しぶりね。」


学院時代のように、私を愛称を呼んでくださるアメリさまに、懐かしさと喜びを覚えます。


「アメリさまも。……変わらずお綺麗…いえ、更にお美しくなられてますわ」

「まあ、何を言っているのかしら。リリィもずっと綺麗になったわよ。王太子に大切にされているからだと聞いているわ」

「私が?王太子殿下に?」


初めて聞きましたわ、と言えば、アメリさまはクスクスと笑いました。


「婚姻前より、貴族社会に慣れぬ王太子妃を補佐し、王太子妃の代わりに務めを果たす事があれども傲る事なく常に控え、王太子夫妻に献身的に支える素晴らしい側妃であると評判よ。王族主催の夜会で、あなたが王太子と共に出席しても許されるのは、その評価があったからなのでしょう?」


改めて申し上げますが。

側妃が王族主催の夜会に出席する必要はありません。

ですが、この数年、私は第一側妃として王太子と共に出席して参りました。

事情があったとしても、正妃がいるのならば、尚更控えるべきでございましょう。

だから、昨夜のアンヌは驚いたのでしょうね。


ですが、アメリさまの言うとおり、それが許されているのが現状。

それを説明するには、物語の結末、王太子殿下とセシリア嬢の婚約まで遡ります。



王太子妃セシリアさまは、年少時は平民の母親の元で育ちました。母親が体を壊し、その命の限りが見えてきた際に娘の未来を託し、父親である男爵に連絡をとった事がきっかけで、男爵に引き取られて平民から貴族へ、学院で王太子と出会い貴族から王族の一員へとなった訳です。

それはそれで一つの物語になるであろう、劇的な出来事です。ですが、急激な変化はやはり、歪みを起こしました。


王太子殿下の婚約宣言後、セシリア嬢は王族としての、王族の伴侶としての勉強にも励む事となりました。

しかし困った事になりました。そもそも、セシリア嬢は、貴族としての常識も充分ではなかったからです。

引き取った時にはセシリア嬢はお年頃。

充分に知識をつけるまで、屋敷に閉じ込めてしまうのも外聞が悪いと考えた男爵には、家では最低限とし学院で学んでくれればという思いがあったのようなのですが、駆け抜けるように王太子妃にまでなってしまうなど、予想もしていなかったでしょう。


本当に、何もかも時間が足りません。



そして、王太子殿下の宣言の数日前。

密やかに、私を含めた王太子殿下の側妃候補の3人は城に呼び出されました。

相対するは王妃さま。そして、3人とも側妃になるよう言われたのです。


正直申せば驚きました。私たちはアメリさまが婚約者であった時から候補でありましたから、側妃になる可能性が高いことは承知しておりました。

ですが、側妃には誰でも良いということではありません。正妃となられる方との関係をも考慮して候補となるのです。

私たちはアメリさまを正妃とした上での候補。アメリさまと破棄された時点で、選定をやり直すのだろうと思っておりましたから。

ですが、王妃は仰いました。王太子は一時も早くセシリア嬢と婚姻を結びたいと願っていて、アメリさまとの予定日とすることでようやく落ち着かせたのだと。

しかし何もかも充分ではなく、セシリア嬢が王太子妃になったとしても、その役目を担うには未熟過ぎる。よって、私達に補佐をしてもらいたいとの事でした。

王妃の要請は絶対命令同然。しかし、私達は数日の猶予を頂き、3人で話し合い、宣言の日の後で側妃となることを決めたのでした。


それから、王宮と話し合いを重ねて、役割を決めました。

セシリア嬢は国民にとても人気がありますから、国民に姿を見せる行事を中心に公務に励んで頂き。

第一側妃となった、私が外交に携わる部分を。

第二側妃となった、ルシーダさまが王太子殿下の身の回りに関わる部分を。

第三側妃となった、シンシアさまが、女性を中心とした社交の部分を。


王太子殿下より年上であったルシーダさまは、その包容力で、常に殿下が過ごしやすいように配慮されております。

私より年下のシンシアさまは、大変柔らかな気性で、社交の場では男女問わず可愛がられておりましたから、彼女の開くお茶会は大変評判です。

そして私は、生まれた侯爵地に大きな港があった為か、異国の文化や風習に触れる機会が多く、国来られる異国の方々へのもてなしに、それが大きく役立ちました。

つまり、それが夜会に出席する事が許されている事情であり、マルセル殿ともそのような事情で、交流を深めることとなったのです。


「私は、私に出来る事を務めさせていただいているだけです。………王太子妃さまの差配があっての事ですわ」

「まあ、そうなの?」


アメリさまは、驚いたふりをして、意味ありげに微笑みました。王太子妃になるべく幼い頃から学んできた知識があるのですから、やはり事情はわかってしまわれるようです。


「それでも、あなたの実力を見ての事でしょう。友人として、あなたが評価されるのは嬉しいわ」

「……アメリさまは、いかがです?ご様子を見る限りでは、予定通りに進んでいらっしゃるようですわね」

「ええ。概ね、私が望んでいた通りに日々を過ごしているわね」


アメリさまは、晴れやかな笑顔を浮かべられました。

そう。あの婚約破棄は、アメリさまの望むことでもあったのです。

私がアメリさまの気持ちを知ったのは、セシリア嬢への嫌がらせが激しくなっていった頃。その時は、アメリさまは関わっていなかったはずなのに、急に積極的に関わり始めたからでした。


「あなたも私の意思を尊重してくれたお陰で、うまく事を運ぶ事ができたわ。本当に感謝しているのよ」


婚約破棄を望む理由は何なのか、あの時も今も、アメリさまは話して下さる気持ちはないようです。

でも、私はアメリさまが大好きですから、そう望むのならお力添えする事に躊躇いはありません。


「でも、リリィは何か思うところがあったようね」

「…私に側妃候補のお話が来た時、アメリさまの元でならばと思っておりましたから。…少し残念な気持ちが残っているのですわ。勿論、今、アメリさまがお幸せならば、それが一番嬉しい事ですのよ」

「そう…。それは、申し訳ないことをしたわ」


アメリさまは、両手で私の手をとり包みこみました。


「本当に感謝しているの。今の私が出来る事はそれほど多くはないけれど、何かあったらあなたの力になりたいわ。遠慮なく言ってね」


アメリさまの表情に悔恨の念がみえます。

ああ。そんなお顔をさせるつもりはありませんでしたのに。


「ではひとつ、お願いがあります」

「何かしら」

「こうしてまた、お話しましょう?アメリさまをこんな形で呼び出す事になってしまうのは不本意ですけれど、お会いしたいのです」

「私もよ。それは私のお願いでもあるから喜んで」



アメリさまは嬉しそうに微笑んでくれました。


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