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悪役令嬢は退場しましたけれど、お幸せですか?  作者: せりざわなる
第1幕 リリアーナ・エルトリト
10/21

籠の中 後編

お待たせいたしました。

前話。最後にちょこっと追加しています。

中にテンプレ説明もありますが、お許し下さいませ。


『本当によろしいのですか?』

『ええ。あなたたちもご苦労さま』


拘束解除の日。

通達の調査官にお願いし、私は王太子妃さまの宮に面会にきました。

面会の手続きをしてくれた彼らは、心配そうに私をみています。


『リリアーナさま。王太子妃さまは、大変心が不安定でいらっしゃるようです。どうぞ、お気をつけて』


念のために、1人は宮の前で待っていますという彼らの気持ちを受け取って、私は王太子妃宮に入りました。

王太子妃宮の中は、静かでした。ふと周りを見ると、あの時に会った侍女長らの姿はなく、その数すら少ない侍女らの代わりに、宮内警備をする女性兵士が多く配備されていました。

厳重な警備は王太子妃さまを守る為でしょうか、それとも……。


王太子妃さまの部屋への前には侍衛官が二人、疲れを見せた表情で立っておりました。

私が姿を見せると、はっと姿勢を正します。そんな彼女

達に、微笑みかけました。


『王太子妃さまとお約束をしているの。話は聞いているかしら』


侍衛官は返答し、王太子妃さまの部屋に通してくれました。ただ、「リリアーナさまのためにも」と言われ、私と王太子妃さまの侍衛官をそれぞれ1人ずつ連れて入る事になりました。

部屋に入ると、侍衛官らにはその場から動かないように命じます。部屋の奥には、あの時の意識不明だった侍女のように、長椅子にだらしなく身を横たえている王太子妃さまが見えました。

側を離れる事で心配する侍衛官らに、ここからでも王太子妃さまの姿は見えるでしょうと安心させて、私は1人で王太子妃さまに近づきます。


『王太子妃さま、リリアーナでございます。本日は、面会を受けて頂き、感謝申し上げます』


王太子妃さまの長椅子の前には、汚ならしく食い散らかされたような肴と酒。王太子妃さま自身からもお酒の匂いを感じます。

王太子妃さまは、閉じていた目をゆっくりと開いて、私の姿を視界にとらえます。

瞬間、私の耳元に風が起こり、耳から肩へ濡れた感触がありました。私の後ろでは、何かが叩きつけられ壊れたような音がしました。

振り返ると、床には壊れてしまった酒杯。状況を把握した私は、事態に駆け寄ろうとする侍衛官を制します。


『なんで、あんたがここに来るのよ……』


憎々しげに睨み付ける王太子妃さまは、これまでの可憐な美貌を見事に脱ぎ捨てていました。


『あんたがっ!あんたのせいで、私はこんなことになったんでしょっ!』

『……座らせていただいてもよろしくて?』


その顔を見たら、何だかすうっと心が冷静になりました。彼女が「王太子妃である」という意識が私の中にあったのですが、それが壊れて「セシリア」という1人の女性に戻りました。

つまり、王太子妃に対する敬意を捨てたということなのですが、彼女はそんな無礼には気づいていないようで、対面に座る私を睨み付けるだけでした。


『私のせい、と仰いますと?』

『聞いたわよ。エドは、あんたの実家と縁がある奴なんでしょ。だから、やたらと話しかけてきたり、媚薬香なんて持ち込んだんだわ!』


貴族令嬢らしからぬ言葉遣いに眉をひそめます。これが、元々の彼女の姿なのでしょう。


『エドゥアルド・リンデンブルグの事でしょうか。私は存じません』

『嘘をつかないでよ!』

『嘘などついておりません。そもそも、王太子妃さまは、最近お話相手をたくさんお作りになり、連日宮にお呼びになっていたそうではありませんか』

『それが何よ。友達を呼んで、おしゃべりを楽しんじゃいけないっていうの』

『いいえ。そのお友達に男性が多くても、王太子殿下がお許しになっていらっしゃるのでしたら、問題はありませんわ。ですが、その中でエドゥアルド・リンデンブルグを選び、夜に呼び出す事を決めたのは、王太子妃さまではありませんか』

『それはっ………!でも、だからエドに媚薬香をあんたが持たせたんでしょう!私を嵌めるために』

『ですから、存じません。そのような企みもしていません。実際に、私は拘束されて調査を受けましたが、本日それは解かれ、こうして王太子妃さまに会いに来ることができました。この意味はお分かりでしょう?』


彼女は、ぐっと言葉につまらせます。


『はっきり申しますわ。お友達という男性を何人も侍らせたのも、独断で夜にこの宮に呼び込んだのも、媚薬香を焚いて取り返しがつかないことをしたのも、全て王太子妃さまご自身です。いい加減、ご自分の否をお認め下さいませ』

『うるさい!私は騙されないわよ!』


私は、彼女の態度にため息をついてしまいました。

媚薬香にまつわる話は、堂々巡りするだけかも知れませんね。


『…………王太子妃さま。私が参りましたのは、聞きたい事があっての事です』


話を変えると、彼女は目の警戒感を更に強めました。


『悪役令嬢とは、なんですの?退場させたとは?王太子殿下を心を救ったとはどういう意味です?』

『なっ!なんで、それを!』

『お着替えになるときに、呟いていらっしゃいましたね』

『なんでもないわよ!聞き間違いでしょ!』

『側にいた侍女達も聞いていたはずです。それに、あの内容は、まるで王太子殿下のお心をつかむために、色々策謀してきたともとらえられる発言ですよ』

『だからって、なんであんたに…。関係ないじゃない』

『この件は、まだ報告しておりません。ですが、報告すれば、王太子殿下を謀ったとして厳しい調べが入る可能性がありますわ』

『そんなっ!』

『王太子妃になりたいが為だけに、動かれましたの?殿下をお慕いしている、というのは嘘でしたの?』

『失礼ね!違うわよ!最初から好きだったわよ!』

『最初から?』

『逆ハーもいいけど、やっぱり一番推しは殿下だし。でも、攻略するには、周りにいる他の攻略対象者の好感度をあげておかなきゃ接触できないし。イベントは逃せないし、悪役令嬢も思った以上に完璧な淑女で、すっごく、苦労したんだから!でも、好きだったからよ!それが、悪いっていうの』


彼女から放たれたよく分からない情報に、頭が痛くなってしまいそうです。


『悪役令嬢とは…アメリ・ラグゼンダール公爵令嬢の事でしょうか。なぜ、そのように呼ばれるのです。アメリ嬢が、何か王太子妃さまにしたのでしょうか』

『最初は何も。でも、王太子殿下と親しくなれば、嫌がらせしてくるのは決まっていたの。それが、悪役令嬢。だから警戒してたし、最後は本人も認めていたじゃない』

『決まっていた……?』

『そうよ。最初、中々嫌がらせして来ないからちょっと困ったけど、あの人の役目を教えて上げたらちゃんとしてくれるようになったわよ。だから、お礼に死亡エンドじゃなくて、追放エンドにしてあげたのよ』

『………………王太子妃さま。最初から教えてくださいまし』


聞き捨てならない事がたくさんありました。

王太子殿下に対する彼女の心はともかくとして、殿下と結ばれるまでの間、何をすればそれが成されるのか、その障害になるのは何かを知っていた、というのは風に聞こえます。

それに、アメリさまに「役目を教えて上げた」とはなんでしょう。アメリさまが急変されたのは、これが原因でしょうか。


私の様子に鬼気迫るものを見て、彼女は怯えしまったようですが、つっかえつつも教えてくれました。


彼女には前世の記憶があり、そこでは文化が豊かな国に住む町娘だったようです。

溢れる文化の中で、彼女が強く興味をもったのは「乙女げえむ」なるもの。本でいうならば、番号のついた小話を読んでいくのですが、頭から順にではなく、小話の最後に必ず選択肢があり、その選択の先の番号がついた小話を読むという繰り返しで、物語の最後のひとつにたどり着くという、選択肢の数だけ物語を楽しむ事ができる、そういった手法の遊戯だそうです。

その「乙女げえむ」の中に、学院時代と同じ人物と設定の物語があったそうです。

平民から貴族になった娘が色んな男性と出会い、試練を乗り越え、結ばれる。平民が憧れる夢物語そのものです。

そして、試練というのが悪役令嬢による妨害。結ばれる相手により悪役令嬢も違うそうなのですが、王太子殿下ならば、婚約者のアメリさまになるのは必然です。


『悪役令嬢が行動を起こさないから、焦ったわよ。でも思いきってあの人に教えたら、急に顔色を変えて、最後には役目を果たすって言ってくれたわよ。だから、最後までの流れを色々教えてあげたわ』

『アメリ嬢が亡くなる選択もあったと……』

『そうよ。でも協力してくれるなら、追放エンドでいいかなって思って、そうしてあげたわよ』


アメリさまの不可解な行動の意味が、わかってきます。

王太子殿下と話す度に顔を青ざめさせていたのは、死にたくなかったからだったのでしょうか。


『私、思うんだけど、あの人も前世の記憶もちじゃないかしら。話している途中で、急に態度が変わったのよね。私と同じ時代、同じ国かはわからないけど、頭を痛そうに抱えていたわよ』


彼女は小さい頃に、前世の記憶を取り戻したのだと言いました。急にたくさんの記憶がよみがえって、頭が痛くなったのだったと。もしかしたら、アメリさまもその時に、前世の記憶を取り戻したのかもしれないと言いました。


『だから、私の話も聞いてくれたのかもしれないわね』


彼女の言うとおり前世の記憶もちだとしても、アメリさまは公爵令嬢。物語とはいえ、自分の未来が予測つくならば、結果が婚約解消でもそれなりに手を打てたのではないでしょうか。


『アメリ嬢が王太子妃になっても、私のように側妃になる事もできたはずです。それではいけなかったのです

か?』

『え?そんなの嫌よ。好きな人の一番になりたいに決まってるじゃない。子供が出来ないから、仕方なくリリアーナ達を許したけど、本当は即妃も嫌だったのよ』


そう彼女は言いましたが、一番である事を違う形で王太子殿下が表明されれば、側妃になることも承諾したでしょう。

そのように手を回すことも、アメリさまは可能だったはずなのにそうはされませんでした。


疑問は少し解消しましたが、まだよくわかりません。


『先程、アメリ嬢は役目を果たすと約束されたと仰いましたが、それは結果的に身を引く事を承諾されたと同じ事ですわね。殿下と王太子妃さまはすでに想いあっておられたようですし、アメリ嬢が嫌がらせなどしなくても良かったのではありませんか?』

『駄目よ。物語だって、試練があるから最後の結末が輝くのよ。妨害がなければ、盛り上がらないじゃない。悪役令嬢は断罪されて退場!そして、二人は祝福されて結ばれる!最高でしょ』


ギリ、と座る太ももの上に重ねた手に力が入ってしまいます。


『そんな事で、アメリさまを……?』

『え?リリアーナ?』

『物語を盛り上げるためだけに、アメリさまを悪役令嬢とやらにしたて上げて、あのような場を設けたのですか』


王太子殿下との会話の後の真っ青な顔、凛として告発を受ける横顔。

アメリさまにはアメリさまのお考えがあって、彼女の話を受けたのでしょう。だけど私の心が、許せないのです。


私は立ち上がり、王太子妃さまを見下ろしました。


『悪役令嬢は退場し………殿下と結ばれ、それで?』

『え?』

『あなたの知っている物語は、殿下と結ばれておしまいなのでしょう?それで?今はお幸せですか?』


突然立ち上がった私に、彼女は怯えを見せました。

ですが、私の言葉を挑発ととらえ、顔を真っ赤にして怒り出します。


『ふざけないでよ!だから、あんたがっ!邪魔しているんでしょっ!』

『まだ、そのような事を。物語の続きはご自分の力で進んでいくしかありませんわ。道を間違えれば、幸せは壊れてしまうのです。今のあなたのように』

『っ!』


聞きたいことは聞けましたわね。

これ以上いる必要はないでしょう。私の心も疲れてしまいます。


『お暇しますわ、王太子妃さま。また会える日がくれば、よろしいわね』

『どういう意味よ』

『あなたは決して許されない、ということです。王太子殿下もどうすることもできませんわ』


私は、侍衛官の立つ方へと向かいました。


『あんたっ!自分が王太子妃になるつもりねっ!そうはさせないんだからっ!』


後ろから投げかけられた言葉に私は振り返り、にっこりと笑いました。


『ああ。王太子妃さま。ひとつ、お礼を申し上げたかったのですわ。偶然とはいえ、たくさんのお友達の中から、よくぞ我がエルトリト家に繋がる者をお選びなりましたわね。お陰さまで、私の望む未来に希望が見えましたの』


私の思わぬ行動に彼女は呆けていましたが、いい忘れたこともありません。再び背を向けて部屋を去ったのです。








王太子妃さまとの会話を、ほんの少し省略して王妃さまに伝えました。


「物語に添ってとは信じがたい話ではあるわね。それが、本当なら王太子はあの子の思うがままに行動させられたということに……」


再び、王妃さまの扇が開かれます。言葉は続きませんでしたが、その目にはお怒りの光が見えました。


「それについてはこちらで調べましょう。それよりも」


少し間をおいて、パチリと扇は閉じられました。


「此度は、よくやりました。予定外の事はありましたが、逆に早く処理出来そうよ」


にっこりと笑って王妃さまが発した処理という言葉に、ヒヤリとします。


「リリアーナ。媚薬香の件は、もちろんこれで終わらせません。今しばらくは、あなたの周りも騒がしいままでしょう。場合によっては……わかっていますね」

「はい」

「ふふふ。良い覚悟だこと。あの子もあなたのような覚悟が少しでもあれば、良かったのに…,いえ、もう考える必要はないわね。それよりも次を考えましょう」


その前に少し気持ちを入れ替えた方が良いわねと、王妃さまが侍女を呼びました。

回想なので、『』になっています。

女同士の口喧嘩はつらいです。あんまり経験がないので、おしゃべりがつづきません。


意外な人のヘイトが高かったり、アメリの理由に注目が集まってしまって戸惑っております。

一応、それぞれ考えておりますが、納得していただけるでしょうか……。

最後まで、頑張るのみですね。


侍衛官とはなんぞや。との声を頂きまして、補足を。

守る対象と一緒の事ができる、高い教養を必要とする護衛です。

歌会とかで主が参加した際に一緒に参加する事で、場を壊さずに近くで護衛が出きるというわけですね。

浅い知識なので、違ってたらごめんなさい。



次は「私のエピローグ」

リリアーナ視点の最後になります。


お読み頂きありがとうございます。




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