旅だち②
(ふぅ、やっと一息つけるな)
リョウは静寂のメイド亭の髭面メイドことミーちゃんに捕まり、この宿に宿泊することが決まってしまった。当初、店主のインパクトが強すぎて焦ったリョウではあったが、先ほど食べた夕ご飯もおいしく、店内もそれなりににぎわっていたことから店主の恰好に目をつぶれば良い店なのかもしれない。
客A曰く
「目をつぶれば問題ない」
(いや生活できねーよ)
客B曰く
「ここは憧れの向こう側・・・」
(意味わかんねーよ)
客C曰く
「飯もうまいし料金も安い。我慢だ小僧」
(・・・・・・・・・)
という助言のもと宿泊を決定した。
リョウはベッドに背中から沈み込み天井を見上げる
(このまま寝たいけどっと)
少し考え、勢いよく起き上がる
「どの程度の力が使えるか確認でもしますか」
そういうとリョウは右の手のひら上に向け、
『火炎』
小さくつぶやくリョウの手のひらには直径30センチ程の火の球が出る
「よしよし、しっかりと出るな。次はっと」
そのあとリョウはその火の玉を水玉、雷玉、闇玉、光玉と変えていく。
リョウは右手から力を抜き、最後の闇玉を消す。
「まぁ、この辺りは前と同じように使えそうだな」
リョウが今使用した魔法は一度目の異世界へ転移時に身に着けたものであり、その世界では『精霊魔法』と言われているものでありその世界の魔法のすべてであった。
「じゃあ次は・・・・」
リョウはそのあとも、部屋の中でできる魔法について実際に使用できるかどうかを確認していく。
一度目の転移時に覚えた魔法を、二度目の転移の世界では使用できないといったことがあったが、どうやら今のところ二つの異世界魔法の中で使用できないものはないようだ。
「さてと・・・今日はこのあたりで寝るか」
リョウの今回の目的は主に観光
そのためのお金を稼ぐため冒険者ギルドで少し働くつもりではあるが、とにかく今回はのんびりしようと考えながら意識を闇に落としていく。
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ここは城内の客間
異世界より召喚された勇者たちに使用するように言われた部屋の一つ
外も暗くなってきており、月明かりが城を照らしている
「ねぇ、ヨシトこれからどうするの?」
そう発言するのは楠瀬 真奈美、以前は苗字で、更に君付けで読んでいたのだがこの世界では苗字は名前の後付けで更に貴族しか使用しないといったことから名前で呼ぶことになった。
そのついでに『君』付もやめたようだ。
元々学校以外では呼び捨てにしていたのでマナミにとってあまり違和感はない。
なぜ学校では君付け?
まぁ思春期の男女に変な噂されるのは嫌だからだろう。
「サエスギ君、大丈夫かなぁ」
こっちは須々木 椎菜
「シイナ、苗字は貴族だけ。いらないトラブルを避けるためにも、えっと・・・」
「リョウだよ、彼の名前は」
名前を憶えていないマナミに対しヨシトがそう伝える
「そうそう、そうだったわね」
そんなマナミにヨシトは苦笑いを浮かべる
「そんなことよりも、今後のこと!」
「そんなことって」
マナミのあんまりな言い方にヨシトは更に苦笑いを深める
「だって自分からここを去ったじゃない?それにこの町にいたら安全だし、お金も少しはもらえたんでしょ?」
「まぁ、そうだね」
「なら大丈夫よ。だからシイナも気にしないの!」
「そうなのかなぁー」
シイナはまだ少し心残りだったようだがマナミが言った今後について、今度は自分たちのことに意識を切り替えていく
「ヨシト君、私たちはどうするの?よくわからないけど魔・・・族?という人たちと、あの・・・」
「そうだね、戦う必要が・・・あるかもしれないね」
リリは戦争や戦うといった言葉を簡単に言っていたが、ヨシト達は今まで平和な日本で過ごしていたため争いといったものとは無縁であった。
ましてや戦争、殺し合いなんてもってのほかである。
しかし自分たちが元の世界、日本に帰るためには魔王を倒す。そう殺す必要があるのだ。
シイナはそれを恐れている。いや、ここにいる三人はその必要性を感じているのだが、どうしても争い、戦争といったものに大なり小なり恐れているのだ。
「そう、私たちはこれから大変なの、すぐにこの場を去った・・・逃げた彼なんか心配する必要なんてないわ!」
「マナミ、リョウ君は別に逃げたんじゃない。自分の立場を理解して、この場を去ることにきめたんだ」
「リョウ君は・・・その、勇者?じゃないからでていったの?」
「そうだね、勇者と言われる僕たち3人はこの世界の人たちよりも大きな力を与えられているそうだ。その力を使って魔族や魔王と戦うことができるんだけどリョウ君にはそれがなかった」
「そうね、ごめんなさい。彼も好きでここに来たんじゃないし、私たちと違って力もない。彼が一番つらいのかもしれないわね」
「「「・・・・・・」」」
三人が少しうつむく
「で、でも!」
マナミは無理やり笑顔で
「彼、リョウ君は魔法とか好きだし、称号も中二病ってあったんだから喜んでるかもね」
そんなマナミの言葉に
「ぷっ・・・そ、そうかもしれないね」
「ちゅ、中二病ってなんですか??」
「あははは、ね?そうでしょ?」
「え?え?」
二人の笑い声と、一人の戸惑いが部屋を包むのであった
次の日の朝、勇者三人は魔族と戦い、魔王を打倒を誓う儀式を城内で行うのであった。
少しでも早く日本に帰れるようにするために