不穏?
「こんにちわーと」
静かにそぉっとドアを開けるとそこには、
「だーかーら!俺がこのギルドで1番だっていってんだろ!?」
カウンターで男女が何かもめているようだったが、
「ふむ」
リョウとリリはその2人を無視し、奥の別のカウンターに向かった、
「なぁ、なんかあったのか?」
カウンターに座っていたギルド職員らしき男に話しかける
「あぁ、なんでも女のほうが『ここで一番強い人は誰ですか?』ときたもんだ」
「それで?あいつが一番なのか?」
「いいや、その言葉を聞いてここにいる奴はみな俺が一番だっていいはってな、ちょっともめたんだよ。で、今ここにいるなかで比較的活躍しているズールが睨みをきかせあそこにいるんだよ」
男はやれやれと言わんばかりに両手をあげ首をふった、
どうやらズールという冒険者は最近頭角を現してはいるが、別段能力が高いわけでもなく、今日たまたまここに実力者たちが不在しているだけであり彼がここのギルドでの上位者ではないようだ
「まぁ、女の方は少しでも実力のある冒険者に何か依頼がしたかったんだろうが今日は外れの日だな。ま、もう少ししてズールがしつこいようだったらギルド側でストップをかけるさ、ところでここには何用で?見ない顔だし最近ここにきた冒険者か?」
ギルド職員の男はリョウの両手にはめられた「黒姫」目を向け言った
「防具・・・、いや、ナックル、武器か?変わったものをもってるんだなぁ」
「まぁな、使い心地は中々なもんだぜ?ところで、いったんここのギルドへの移動申請と何かいい依頼がないか探しに来たんだが」
「移動申請ね、カード出してくれ。あと依頼についてはそっちのボードにあるから自分で確認してくれ」
リョウはカードを預けるとリリと連れて示されたボードの位置までやってきた。
ボードの大きさはだいたい学校の黒板より少し大きいぐらいの木の様な板でできており、そこにはかなりの量の紙が貼られていた。
「なんだかいっぱい仕事があるんじゃのぉ」
リリは自分より高い位置にあるボードを見上げながら右へフラフラ、左へフラフラとしている
「そーだなぁ、依頼内容はランクごとに分けられているのか」
ボードの左には町の中での仕事、『草むしり』や『荷物の運搬』など現代で言う日雇いバイトのようなものばかりであった
「低いランクのは金が悪いからなぁ、もっと楽に稼げるのはっと」
「これなんかどうじゃ?」
リリはそう言いながら指さしたのは
「ふむ、『千年蛇』の討伐か・・・むむむ!」
千年蛇、その名の通り千年は生きていないとこのサイズにはならないのでは?と思われるような巨大な蛇である。全長はおよそ500mを超えるともいわれ、それは人がどうにかできるものではないと言われている。普段は地中の奥深くで生息しており、滅多に地上に出てくることはないのだが、極稀に地上で活動するイレギュラーが存在するのである。
「の?この報酬じゃったらしばらくは大丈夫であろう?」
「たしかに・・・よし!これにするか!」
リョウはそう言うと依頼内容の書かれている用紙をボードより剥がし、カウンターに持っていく
「ん?仕事きまったのか?その前にカードを返しておくぞ?で、内容はっと・・・・はぁ」
先程の職員の男はため息をついて
「もってくるもん間違ってんぞ、これは『S』ランクの仕事だ」
そういって依頼用紙をリョウに返してくる
「ん?わかってるって、この報酬だろ?」
「ちげーよ、報酬じゃなくて依頼内容だよ!千年蛇なんて無理にきまってんだろ」
そう男が言うと、周りで聞いていた冒険者が沸き上がる
「ぎゃはははは!千年蛇!?どんな田舎からきたんだよ!!」
「なんだ坊主、人にはなぁププ、身の丈に合ったという言葉があるんだぜぇ?」
などなど、リョウを馬鹿にするような発言があちこちでされる
(あーなるほど、Sランクの依頼をHランクでも受けれるとはいってもまぁ普通はこんな反応になるはなぁ)
しかし、リョウは別段怒る様子もなく、しみじみと現実を受け入れるのであった
「早くHランクの仕事をもってきな」
職員の男はそういって千年蛇の依頼書をもとの位置に戻そうとする
「ちょっとまってください。」
これはリョウが言ったのではない、先ほどズールともめていた女のほうが職員の男に待ったをかけたのだ
「あなたがこの依頼を受けようとしたのですね?」
女はリョウに近づき全身を見ながらそう言った
「あぁ、まぁそうだけど、受けさせてはくれないみたいだな」
そういってリョウは肩を少し上げる、
「分かりました、その依頼はあなたにお願いできますか?」
「ん?」
「その依頼は私がだしました、だから私に指名の権利があります。」
どうやらこの女が千年蛇討伐の依頼をしてきた本人であるようだ、
「ま、まぁそうだろうが」
言いよどむリョウに女は顔を近づけてくる、
年齢はだいたい15、6ぐらいであり、茶色の長い髪を腰のあたりで一つくくっておりかなり洗練された顔立ちをしている。先ほどまで興味がなかったため特に顔をしっかりとみてはいなかったがこうなると嫌でも見ることとなる。リョウは思わず赤くなりながら後ろに数歩下がり、
「わ、わかった、しかしいいのか?俺はHランクだぜ?」
女、いや少女は周りを見渡し、
「ええ、ここにはあなたより強い人はいなさそうなので」
その瞬間ギルドの温度はガクッとさがることとなる
「おいおい、勘弁してくれ・・・」
これからここで起きるであろう嵐を予感しつつうなだれるリョウであった。