髭面メイド再び
「なぁ~んだ、ただの旅の仲間だったのねぇ~」
今リョウの向かいには両手を胸の前で組みながらクネクネとするメイド、髭面でメイドの服を着た何かが座っている。
先程リョウの前に現れた髭面メイドことムーちゃんは、呼び込みをお願いしていたキキがあわてて宿に戻ってきて不審者がいるとの言ってきたため。これは町の害、すぐに排除しなければとリョウを探していた、ということであった。
あわやリョウが犯罪者(変態)として町の衛兵に突き出される前に、これ以上ご飯が先延ばしになるのは嫌というリリがその誤解について解決に乗り出したのであった。
リリ本人からの説明について、当初は疑っていたムーちゃんとキキではあったがあまりにもリリがリョウに対し砕けた話し方、態度で接していることから旅の仲間であるということを信用してもらい今に至る。
「それでこの町には何をしに来たのかしら?」
「えっと、今は自由に世界を見ようと旅をしているところで、たまたま立ち寄ったのがこの町なんですよ」
「あらやだ、もっと砕けた感じで話してもらっていいのよ?」
ウフンとムーちゃんはウインクをパチンとリョウに向かい投げかけてくる
「いや、それは・・・」
「ところでムーちゃんとやら、このあたりの魔物についてなのじゃが」
リョウの横でクッキーをもそもそと食べていたリリが会話に混ざりこんでくる
「あら、このあたりの魔物はあまり人前に姿をださないわよ?」
「ん?そうなのか?」
「えぇ、出会ったとしても何かとっても痩せてたり弱ってたりで被害を受ける人が少ないのよ」
「ふむふむ、なるほどのぉ」
「ここの冒険者ギルドは原因の究明にあたったりしているのですか?」
「いいえ、特にそういった話は聞いたことはないわねぇ。ただ最近のことは知らないから一度ギルドに聞きに行ってもいいんじゃないかしら。」
リョウとリリはそこでいったん今日宿泊する二階部屋に案内してもらう。
結局宿泊は誤解してしまってゴメンねといった意味合いもあり、ムーちゃんの経営する尊厳のメイド亭に安く泊まらせてもらうこととなった。
「食事については後ほど呼びにいくわね!」
そう言いながらすっかり誤解の解けたキキが部屋の前を去っていく
「さて、少し休むとするか」
「早くドアを開けるのじゃ」
ガチャ
そこにはピンクの壁紙と大きな一つのベッドが置いてある部屋であった。
「また違う誤解が増えてるじゃねーか!!」
さらに誤解を解くのに少しの時間を要した2人であった。
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「それでリョウはこれからどこへ向かうつもりなんじゃ?」
リリはベッドの淵にすわり足をぶらつかせている
「そうだなぁ、別に目的のある旅じゃないし、適当にこの国を観光しよーかと」
「そうなのか?」
(魔王とやらはあの勇者3人に任せておけば問題はないだろうし、そもそも魔王といった存在がこの世界にいるか、さらにその魔王が本当に人間の滅亡を目標に掲げているかどうかもわかんねぇしなぁ)
リョウはそんなことを思いながら目を閉じた、
「しかしのぉ、それならここらで少し路銀を稼ぐ必要があるのじゃないのか?」
「・・・・・。」
リョウは無言で目を開け、財布代わりの布袋をひっくり返す
チャリン・・・
リョウの手には二枚の銀貨のみがあり、今日ここの宿泊料金は支払っているものの明日からの2人分の宿泊費は少し危うい。
(お、おかしい、今日ここに宿を決める前はもっと入っていたはずだ・・・なぜ?)
「・・・・・おぃ」
「ん?」
「おまえさっきクッキー食べてたよなぁ?」
「うむ、とてもうまかったぞ!なんでもこの町一番の店らしくてのぉ。」
「ただでもらったのか?」
「ん?あんなうまいものがただのわけなかろうて、もちろんリョウの金で購入したぞ?」
「ごらぁぁぁぁぁぁ!!!」
「うわ!?なんじゃ!?何を怒っとるんじゃ!?」
しばらくしてムーちゃんが止めに入るまでリョウの怒りの嘆きが宿中に響くのであった。
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「さて、今日はしっかりと働いて金を稼ぐぞ!」
「うむ、しっかりと稼いでくるんじゃぞ!」
「お前も働くんじゃい!!!!」
「なぜじゃーーーーー!?」
「それじゃあ気をつけてねぇ~」
朝早くからそんな掛け合いを済ませ、リョウはリリの襟を持ち引きずるように尊厳のメイド亭を後にする。
ちなみに料金はまだ支払っていないが、今日稼ぐといった口約束により部屋は一つ確保してもらっているのであった。
「まずは冒険者ギルドで移動の報告と仕事の選別だな」
「なんでわしまで働かないかんのじゃ」
「おまえが昨日高級クッキーを食ったから早急に働く必要ができたんだろうが!」
昨日リリの前にクッキーを出し、その料金を請求したのはキキである。もちろんクッキーは店にかなり並んで購入する必要があるのだが、それをリリに食べさせ約2倍近い金額を請求したのである。もともとこのクッキーは尊厳のメイド亭にはなくキキオリジナルの商法であり、すっかりそれにはまったリリは多額の金額を支払うことになったのだ。
「うむ、しかしあのクッキーは本当にうまかったのじゃ」
「そんなにうまいのか?」
「今まで食べたクッキーの中で一番じゃ!」
「俺もかってみようかな・・・」
永遠とも言われる寿命をもつドラゴンが今までで一番というクッキーはかなり魅力的であり、リョウは稼いだ暁には必ず購入しようと心に決めるのであった。
「お、ここだな、冒険者ギルドはっと」
「なんだか中がさわがしいのぉ」
リョウはなんだか嫌な予感を感じながらギルドのドアに手を掛けるのであった。