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神様の願い事  作者: 空の海
3/4

3話 神様のお迎え(3)

 青年と合流し草原の小道を通って

 街の正門まで辿り着いたはいいものの、

 僕は其処で足止めを食らった。


 まさか街を出入りするのに、

 IDカードが必要とは思いもしなかった。


 科学の進歩恐るべし。



 とは言うものの、全員が全員IDを所有している訳ではないようで、

 一部の人達、


(自然をこよなく愛し、自然と共に生きることを

  生涯の定めと誓った古代人の末裔と呼ばれる方々)


 そんな彼らでも

 手続きをとれば、街に入るのは可能なようだ。


 それに倣い、僕も、末裔として申請しようと思ったのだが、

 検問の改札が、無人だったため、

 青年が、街に入って、誰か係りの人を

 呼びに行ってくれている。


 待ちぼうけを食らった僕は、

 近くで寝そべっている番犬(?)を観察中だ。


 白と褐色が混じった、丸っこい犬で、

 耳が、真っ直ぐ立っている。


 気性が穏やかなのか、

 僕が近づいても、たまに尻尾を揺らす

 程度で、依然としてのんびりと寝転がってる。



 そうして、どれくらい時間が経っただろう。

 日は暮れてしまい、


(沈まずに、光の明るさを絞ってしまったに過ぎないが)


 空が闇に覆われてしまっても、迎えはやって来ない。


 遅い!


 今頃、約束を忘れて、何処かをのうのうと

 ほっつき歩いているに違いない。


 気は乗らないが、誰も見ていないのだから

 勝手に中に入ってしまおう。



 犬に別れを告げると、

 本当に誰もいないか辺りを注意深く

 確認し終えた後、改札を飛び越えた。


 人のいない事務室を通り過ぎ

 検問所を抜け、街へと入る。




 僕を迎え入れてくれたのは、

 ヨーロッパ風のおしゃれな街並み。


 写真でしか見たことのないような

 景観が、街に灯る照明の光により、

 より一層美しさを増していた。


 紅や黄色の淡い漆喰が塗られた

 色取り取りの壁に挟まれ、


 灯りに照らされた石畳の道を進んで行く。

 

 最初の内は、初めて目にする新鮮さに心奪われ

 ていたものの、歩を進めるにつれ、

 人気の無い街の静けさが、、

 不安を徐々に駆り立てる。


 空っぽだ、

 何処もかしこも。


 建物だけを残して、

 その主人達は、何処へ行ってしまったのか?




 疑惑を募らせていると、

 遠くから、川が氾濫した時のような、

 激しい水飛沫の音が聞こえてきた。



 川なんて近くにあったか?


 音はますます大きくなっていき、

 流れが激しさを増していく。


 迫ってきている、確実に僕の元へと。


 一旦、屋上にでも上るべきかも知れない。


 そう考えている間に

 時限は過ぎた。

 大通りから、溢れこんできた

 水が、勢いを加速して流れてくる


 僕がいるのは壁に挟まれた狭い路地、

 その両方向から水の濁流が

 僕を飲み込もうとするかのように、

 襲いかかる。



 咄嗟に、コンクリートの壁を出して、

 両方向からの流水を防ぐ。



 此れで前後左右に道は無くなり、

 直接、上に昇るしかなくなった。


 ここから、3階建ての屋上に移る

 方法を考える。


 外階段を出すのは、

 広さが畳一枚分ぐらいしか

 無いので、却下。



 吸着手袋を用いて、

 アメコミの

 ヒーローのように壁を登る、


 僕の体力を考慮すると

 これも却下。




 不便な能力だ。


 仕方が無いので、ハシゴを出して、

 地道に登る。


 屋上まで登りきり、ほっと一息。



 辺りを見てみると、建物の一階半ば

 まで浸水している。


 ここも安全には程遠く、

 街から離れるのが一番だろう。



 ヘリコプターを出し、脳内で

 プロペラを回転し始め、浮かび上がるまでの

 イメージを思い浮かべると、


 静止していたヘリコプターは、

 作動した後、浮遊状態へと移る。


 あとは飛び乗るだけ。


 その時、僕の視界の背景に

 得体の知れないものが現れた。


 人の形をした水の塊、

 水の巨人とでも形容すべきだろうか。


 腰から上が屋上の向こう側から覗いて見え、

 脅威的な大きさだ。



 そいつは、僕を押し潰さんとするかのように

 手を振り下ろしてきた。



 掌が屋上の広さより大きいため、

 逃げ場がない。


 しかも、見た目の割に動きが速い。


(とにかく、防がないと。)


  遮蔽物の形、大きさ、それらを決めあぐねている間に

 覆い被さる掌はどんどん接近してくる。


(間に合え!)


 周囲を覆う、ドーム状のイメージを構築していく


 が、それを出現させる直前、


 水の巨人の腕は、何かの力で押されたかのように

 後ろへと、弾かれた。



「見境いないなぁ。」


 いつの間にか、少女が隣に立っていた。


 緑の髪に赤い瞳と変わった容姿をしており、

 年齢は多分僕より上だろう。


「君も災難だったね。」


「あぁ。っ!」


 話してる間に、水の巨人は

 再び僕らに襲いかかろうとしてきた。


 急いで食い止めようとする


 が、


「邪魔。」


 その一言と共に

 水の巨人は、跡形もなく消し飛んだ。


 唖然。



(この人、今、何したの?)


 いや、それよりも先に

 聞くべき事は山ほどある


「この街に何が起こってるの?」


「この街は今日で寿命を迎えるの。

  街に住んでた人たちは、もうみんな

  寿命を終えて、水になった。

  街がなくなり、川へと姿を変える

  のも時間の問題。」


 訳が分からず、頭がついていけない。

 何かの比喩なのだろうか。


「街に寿命?」


「うん。君がいた世界がどうだったかは知らないけど

  この世界だと、万物に命が宿っていて、

  その全てがいつか終わりを迎え

  別の命へと繋がっていくの」


 彼女は僕が転生したのを知ってるのか?


「君は、何なんだ、、、。」


「神様だよ。君を迎えに来たの。」


 疑問は尽きることなく増すばかり。

 けれど少女は待ってはくれない。


「じゃ、行こっか?」


 強く手首を捕まれる。

 連行される気分だ。


「どこへ?」



「神々が住む世界。」


 意識は体を離れ、別の空間へと跳んでいく。


 僕の2度目の人生は早くも

 波乱を迎えたのだった。



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