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In paradisum  作者: 孤独のQ
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それは夢ではなく

「ミイナ・・・。」

雨の中、彼女は1人佇んでいた。

周りにあるのは、かつて生を宿していたはずの仲間であり今はただの躯だ。

「まさかね・・・。あの学園生活から数週間後には戦場にいるなんてね。」

レイラは、そっとミイナの眼を閉じる。

苦悶の表情だったミイナの顔は、幾分優しくなった。

「ねえ・・・本当は生きてるんじゃないの?ねえ・・・本当はさ・・・。」

「おい!」

誰かが走って来た。攻撃をする気配は無いようだ。

「生き残りか!早くこっちへ来い!今、生き残りを集めている最中なんだ!」

「まだ・・・この子は生きているかもしれない。」

「・・・辛いかもしれないが、現実を見ろ。どう見ても・・・死んでいる。」

「・・・さようなら、ミイナ。さようなら、平和。初めまして、秩序無き世界。」


○●○●


「ケースナンバー12。記録者、研究所主任カイト・マクベス。霊魂の移植による肉体への 影響観察。被検体Aの    霊魂を魚類サケ科に移植。魂の重さに肉体が耐 えられず、半日後肉体の崩壊を 確認。やはり、哺乳類科を対象とした移植を 行うことが最も有効的と考えられ る。」


「ケースナンバー45。記録者、研究所主任カイト・マクベス。霊魂の移植による肉体への 影響観察。被検体Mの霊魂を再びゴリラに移植。420時間が経過したが、未 だに劣化の症状は見られず。以上のことから、霊魂移植において重要な点は哺 乳類であること、より人に近い存在であること、と提示する。引き続き研究を 続ける。」


「ケースナンバー104。記録者、研究所主任カイト・マクベス。霊魂の移植による肉体へ の影響観察。被検体ZZダブルゼータの霊魂を人型生物への移植に成功。 興奮をいまだに隠せない。私は、ついに成し遂げたのだ。人類が、生き延びそ して進化するための方法を。あとは、生き残った人類たちの遺産を誰が守るか が問題であるが。そう、難しいことはない。抜け殻となった被検体の体を使  い、さらなる実験を重ねていく。」


「ケースナンバー369。記録者、研究所主任カイト・マクベス。器たる肉体の維持と活動 限界への研究。僕は、人として犯してはならない一線を超えてしまった。も  う、あとに戻ることはできない。人類は、再び戻る日を夢見て逃げなくてはな らない。これを最後に僕も、逃げ出そうと考えている。いつの日か・・・魂と 肉体との帰還を夢見て。」


●○●○●


「人形風情が、幸せを追い求め、なにがしたい。」

メシアを包んでいた鎧が徐々に地へと落ち始める。

「何がいけないの。生きようと、生き抜こうと足掻いて這いつくばって。それの なにがいけないの。」

レイラは、その手に魔力を貯める。そう、人形なんて・・・誰かに支配されているかもしれない世界なんて信じられるわけがない。

「聞け、人形よ。貴様らは、考えることすらできぬほど劣化したのか。」

「黙れ!お前を倒せばそれで終わる。」

「ふん。騒々しい人形め。貴様らはどうしてっ!」

メシアの一撃がレイラのすぐそばへ落ちる。

だが、その一撃をレイラは見ることが出来ていた。

そう、かつて手も足も出なかった彼女であったが今は対等に・・・それ以上に戦える気がしていた。

「ならば、見せてみせよ。人である証を!」

レイラがその手袋に書かれている魔法陣を展開させる。

魔法陣は増殖を繰り返す、レイラを囲むと白く鋭く光り始める。

「人形なんてもう、言わせない!第3魔法外郭を展開。拘束解除。永劫の場所、地獄へ誘おう。昇天を望むこともできず、ただただ泣き叫ぶことだけが許されるその地で朽ち果ててゆくがいい!口々に叫びあう第二の死をもって今、神のの御霊による審判の時を!ゲネス!アルトゥーレ・エクリス!」

「小童め。貴様自身が望んだ業でもあるということを忘れたか!」

「それは救済の言葉じゃない!死霊のささやきだ!さあ、行くぞ救世主。贖罪の用意は整ったか!」

「ほざけ!」

その一言と同時に2人は、激しくぶつかりあう。

そう、偽りと偽りの戦いの始まりだ。


●○●○●


「生き残ったのは、俺達4人だけか。」

「そうみたいだな。」

「うぅ・・・。」

「レイラ・・・。」

「と、とりあえず所属部隊名と名前くらい言いあおうか。」

黒髪の好青年が自己紹介を提案する。その腰には、一般兵用のサーベルがぶら下げられていた。

「前衛突撃部隊にいた、ハボックだ!よろしくな!」

金髪で長髪の男が荒々しく言う。前衛突撃部隊らしい野蛮さを秘めている目だ。

「こ、後方第4班の・・・リスリーです・・・。」

同じ金髪ながらも弱弱しく彼女は言った。なよなよしていて強調性がない。おまけに後方の班員だとすると戦闘員としての力は、望めなかった。最も、医療には長けているはずだが。

「左翼攻撃班のレイラ。」

赤髪の少女はそれだけを言うと、外へ目をやった。おなじ協調性でも、彼女の場合のほうが致命的だろう。

「ははは。まったく、みんな個性的っていうかなんて言うか・・・。俺は、前衛部隊のアランだ。見てのとおり、魔剣ってやつを使うことが出来る。よろしくな。」

アランは、そういうとレイラと同じく外へ目を向けた。

廃屋の窓からは、雨の世界だけが見えていた。もちろん、少し先に行けばかつての仲間達の死体が転がっているわけだが。

「これから、どうするつもりなんだ?」

「そうだな・・・。近くの村まで避難しようと考えている。」

「村って言ったって、かなり離れてんだろ?」

「そうだけど・・・。ここで止まっているほど危険なことはないからね。」

「だったら、早く行きましょ。」

「ま、まあ・・・そうなんだけどさ。」

「あ、あの・・・・窓の外!」

リスリーが窓の外を指さす。

影はユラユラと通り過ぎると、突然扉が開いた。

1人の少女が倒れこむ。その姿は、傷だらけであった。

「お、おい!大丈夫なのか!」

「ハボック、この子を奥へ運んであげろ!リスリー、治療を!」

「・・・ミイナ!」

「あの化け物・・・まだ近くにいるのか?!」

ハボックが叫んだその時だった、廃屋の壁が大きな音を立て崩れ落ちた。

煙の中から、巨体が姿を現す。その姿は、まさに鬼のような赤い肌を持っており隈取りのような模様が顔に入っている。背中では、数多くの近接武器を背負っていた。

「出たか・・・!」

「んのやろう!」

「・・・!」

「リスリーは、下がれ!ハボック、レイラ!やるぞ。」

「いいや、俺だけで十分だ!」

ハボックは、槍を手に持つと前へ飛び出した。

「ぬわっはっはっは!愉快痛快!歓喜歓迎!まだ、生き残りがいたであるな!」

「よお、化け物!ぶっ殺してやるよ。」

「殺す?ぬわっはっは!人形の分際で何を言っているである!」

「何をわけわからないこと言っていやがる!」

ハボックが、槍を地面に打ち付ける。化け物の足元に巨大な魔法陣が現れる。

それでも、化け物はまだ余裕の表情を浮かべたままだった。






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