顔合わせと転校生
私、西久保美樹は生徒会長に立候補した。生徒会に興味があったし、受験で少しプラス要素になるという打算もあった。しかし、相手が悪かった。三芳くんに勝てるわけがない。いや、勝ちたくなかった。
私は一年生の夏に他県から転校してきた。交通事故で母も父も死んで、母方の祖母の家があるこの町に来たのだ。転校したばかりの頃は親が死んだのがショックで人付き合いなんてやってられなかった。みんなには親がいて、私にはいない。そう考えると自分だけ仲間外れに思えた。いつも人に対して興味なさそうな態度をとっていたから、みんな私に近付かなくなった。
そんな考えを三芳くんが正してくれた。彼もいつも近寄りがたい雰囲気を醸し出していて、そこは私と共通する部分だった。でも彼には友達も親もいる。だから他の子と同じように興味がなかった。
席替えで三芳くんと隣になって、休み時間は二人とも椅子に座って一点を見つめていた。周りから見れば不思議な光景だったと思う。彼は話しかけられれば応じるが、すぐに視線を柱に戻していた。
そして突然三芳くんが話しかけてきた。席替えがあってからすでに二週間は経っていたが、初めて話しかけてきた。彼はいつも「興味本位」で行動しているので、その時もそれが理由だったのだろう。
「何で西久保は転校してきたの?」
その瞬間三芳くんが嫌いになった。バカにされてる、からかわれている、そう思った。あえて本当の事を言ってその後罵ってやろう。当時私は色々とストレスが溜まっていた。
「親が死んだの。あのさぁ、みんなそういう質問私にしないじゃん?察してるんだよ。気軽に話しかけないで。そーゆー気分じゃないから」
今でも自分の発言を一言一句違わずに覚えている。かなりヒドい。少しして三芳くんも言い返してきた。
「あーそーですか。せっかくだから仲良くしたいと思ったんだけどなぁ。頭も顔も良いんだから、すぐに友達作れると思うけどなぁ、というのがみんなの気持ちの代弁じゃ」
急に話を変えられたし、言ってることが代弁なのかもわからない。でもその時の私は人の暖かみを欲していた。祖母にも冷たい態度をとっていたし、学校では無言だ。強がっていても実はキツかった。それに今さら態度を和らげるとどんな目に遭うかわからない。そんな私にとって三芳くんの言葉はすごくありがたかった。
三芳くんは私がクラスに溶け込むきっかけをくれた。恩返しをしなければならないと思って生活してきた。でも彼はあの日以来女子に対して敬語で接するようになった。少し近寄れなかった。でもこれからは生徒会役員として三芳くんをサポートできる。恩返しの時だ。
感傷に浸るのはここまでにして、今日の放課後に生徒会で打ち合わせがある。自己紹介を考えなければ。
うちの学校は県立にしては規模が大きい。校庭も校舎も他校より大きい。なので生徒数も多い。ただ、二年生だけは以上に少なく、二クラス六十人しかいない。そこだけ少ないのは本当に謎だ。
学校が大きいから生徒会室も広い。一つの教室があてがわれている。そこにロッカーとか長机とかがある。そして長机に新生徒会役員が並んでいる。短い辺に三芳くん、両サイドに西島君と私、さらに八瀬さん、菊地君、最後に山村さんがいる。
三芳くんが口を開いた。
「んじゃぁ自己紹介からいこうか。俺は三芳将だ。呼び方はなんでも構わない。質問はあるか?」
紹介とはいえないと思う。色々と質問しよう。
「じゃあいくつか良いですか?」
「いくつか…?まぁいいでしょう」
何でそんなに狼狽するんだろう?
問一、何か特技はありますか?
答、ギターが多少弾ける。
問二、得意科目は?
答、強いて言うなら英語(私よりもテストの成績は良い)。
問三、何に喜びを感じるか?
答、人を陥れたとき。目玉焼きがマトモに作れたとき。
問四、料理苦手なんですか?
答、苦手どころの話ではない。
なんだろう、もっと積極的に話してくれても良いんだけどなぁ。少しも笑わないし。
「じゃあ西島君、自己紹介お願いします」
「呼び捨てで良いですから。あとタメ口で。えー、西島亮太です。男子バレー部です。一応理科が好きです。質問?どうぞ、会長」
「俺はこれから仕事をほとんど君に投げるつもりだが良いかね?」
「嫌です」
「そうか。じゃあ次、西久保さん」
「ここにいる全員に対してはタメ口でお願いします」
「はいよぉ」
「西久保美樹です。部活は入ってないです。去年転校してきました。得意科目は数学です。質問ありますか?ないなら終わります。次は菊地君かな?どうぞ」
よっしゃ完璧。でも副会長も暗めだなあ。一応やるからには楽しく活動したいけど、大丈夫かな?あ、でも山村さんいるか。
「菊地です。帰宅部です。得意じゃないけど社会が得意です。以上です」
つまんないなぁ。
「山村真奈です。女子サッカー部です!英語が得意です。質問ありますか?」
山村さんってサッカーやってたんだ…じゃあ質問しよう。
「女子サッカー部って人数足りなくて試合できないって聞いたけど本当?」
「うん。だから今は練習しかできないんだぁ」
不憫な子だ。
「じゃ、早速活動を始めよう。最初の活動内容は、転校生についてです。実はもうすぐ、一年と二年に外人が来るんだ。それでその子達のサポートがファーストジョブです。質問は?山中さんどうぞ」
「二人も来るの?」
「姉妹だってさ。西島君どうぞ」
「英語ですか?」
「英語です。んで、親の都合でこの辺に来るんだとさ。あ、英語だけどほとんど西久保さんが対応してくれるから大丈夫」
パワハラ?パワハラだよね?私日本人とも上手くコミュニケーションとれないし。英語とか余計無理だし。気づかれてないだけでコミュ障だし。それに…
「もちろん私もやるけどさ、会長も英語得意でしょ?山村さんも」
「俺先天性のコミュニケーション障害を患っててさ、結構キツいんだよね」
「私も無理。あと、真奈でいいよ」
「や・る・よ・ね?」
「「Yes,my preasure.(はい、よろこんで)」」
チョロいな。よし、これから頑張っていこう。
一人だけ自己紹介から完全に置いていかれていたのに気づいたのは、家に帰ってからだった。
転校生!