予想通りの展開
ここからが本編と言っても差し支えないです。
俺、刃坂康生は出来るヤツだ。頭だって悪くない。いや、良い方だ。顔も悪くはない。良くもないが。友達もいるし、女子とも話せる。そして精神年齢は中学生のそれではない。実績で言えば、学園祭実行委員、一、二年の学級委員、男子バレーボール部時期部長候補と中々にエリートだ。
友人、三芳将と比べてみよう。彼は塾にも行かず、家では一切勉強しない。みんなが疑っているが、これは事実だ。宿題は学校でやる。そのクセ成績は学年トップファイブに入る。ちなみに俺は西久保と一、二位を争っている。そして奴の顔は素晴らしい。これは認めたくはないが、この学校では三本の指にはいるだろう。全部一番ではない。
将の容姿を説明しよう。したくないが。まず、身長は一六九センチだと言っていた。体重は忘れた。小学校までサッカーをやっていて、今も毎日ランニングをしているらしい。なので適度に引き締まった体をしている。足も長い。顔面は小さい。そして小さい口、低い鼻、切れ長の目だ。こうやって書き出すとイケメン要素が無いが、組み立てるといい感じにカッコよく見える。あと、笑うと口の両サイドにエクボが出来る。まぁ、滅多に笑わないのだが。常に眉間に薄くシワを寄せていて、不快そうな表情で周りから敬遠されている。以外とファンが多いのを俺は知っている。だが奴に教える筋合いはない。
話をもとに戻そう。将にも友達はいる。女友達もいる。みんな精神に異常をきたしている。頭のネジが吹っ飛んでいる。一人一人吹っ飛んだネジの位置が違うのだが。俺は正常だ。正常だ。女子とは普通に話せない。友達を除く全ての女子とは敬語で接している。理由はわからない。そして精神年齢は俺よりも高いだろう。高すぎて少し頭がおかしくなっている。実績は学園祭実行委員会と海外派遣生、一応部長だ。こちらもエリートだ。
比較すると、優劣では五分五分と言ったところか。だが、俺は思春期真っ只中の中学生男子である。勉強で勝ってても、コミュ力で勝ってても、それでも顔で負けている。それだけで将の方が優れているのだ。
昔は思い込もうとした。人間顔が全てではないと。しかし、こう思ったのだ。顔が全てじゃないとしても、大部分を占めているのではないか、と。その考えに至った瞬間、将が羨ましくなった。だが、彼はその雰囲気で周りから敬遠されている。俺は違う。そう考えてなんとか精神の均衡を保ってきた。これからもそうなるだろう。
将は生徒会長に立候補した。理由は人としてどうかと思ったが、共感できたから手伝った。そして今日の朝、結果発表がある。朝イチで学校へ行って一緒に結果を見る約束を将とした。故に少し早めに家を出た。
途中、道端でカエルが車に轢かれて死んでいた。一枚の板みたいに潰れていた。フラグかな?
学校に着くと、珍しく約束の時間より早く将が着いていた。明日は雪が降るだろう。んなこたぁどうでもいいのだ。とりあえず朝からふざけてみる。
「ごめん、待った?」
「ううん、今来たとこ」
「…」
「…」
あかん、やらかした…こうなる未来はは見えてたのになぁ。
「じゃあ康生、見に行こうではないか」
「ってかさ、将は落選したいんだろ?何で誰よりも早く結果を知りたいんだよ」
「小野寺が無様に落選してるのを確認したいからに決まってんだろ」
「相変わらずゲスいな」
「うーれしーなー」
こいつの思考回路はよくわからない。
結果は二階の生徒会室前に掲載されている。俺としては小野寺落選からの国本っていう展開が見たいけど、無いだろうなぁ、あいつバカだしなぁ。
荷物を教室に置いてから生徒会室に行った。
第六十七回生徒会役員選挙投票結果
生徒会長立候補者
小野寺祐吾
◎ 三芳将
仁川果穂
国本弥生
前橋早苗
○ 西久保美樹
古西中学校の未来に影が差した瞬間だった。
「おいおい嘘だろ…(まぁ予想はできてたけどさ)」
横を見ると、将が硬直していた。いや、よく見ると小刻みに震えている。あれ?もしかしてこれヤバイやつじゃ…
「…おい、刃坂」
「なんでしょうか」
「貴様はこう言っていたな…これなら絶対に上手くいく、と…」
「まあさ、結果的には小野寺を潰せたからいいじゃん。ね?ちょっと誤算はあったけどさ、結果オーラ」
「俺の当選のどこにオーライな要素がある?答えろ。もしや貴様は初めからこの結果を求めていたのか?」
「いや、決してそんなことは」
怖い。将は本気でキレると人を貴様呼ばわりする。「貴様」を平然と使える時点でちょっとおかしい。そしてヤバい。でもこれだけ騒げばもうすぐ…
「朝から騒がしいですよ…あぁ、三芳会長」
矢原先生だ。あの人は将の賄賂、じゃなかったお土産にキレて以来、将に対してかなり冷たい。地獄の業火に菜種油を注ぐ展開にしかならねぇ。
先生はニヤリと笑うとさらに口撃を加えた。
「おめでとう。まさか当選するなんてね。流石私が見込んだだけのことはあるよ。良いお土産もくれたしねぇ。あ、でも会長になりたくないんだっけ?」
「先生?」
「ん?どうしたの会長」
ヤバい…!
「西久保さんのところの○ってどう言うことですか?」
以外と将は大人だった。すげぇほっとしている自分がいる。ってかどっちかってーと矢原先生の方が子供っぽいな。
「ああそれはね、やる気のない誰かさんに負けて会長にはなれなかったけど、役員として当選したってことだよ」
ここいらで先生を諌めるか。
「先生、その言い方はデリカシーが欠けていませんか?」
「冗談だよっ。じゃぁ三芳君、頑張ってね。あ、あと今日の朝会で就任演説あるから、考えといてね」
なんか俺だけ二人の会話を本気だと思ってたらしい。将は矢原先生の言葉が冗談だってわかってたのか?
「なぁ康生、西久保が俺の部下になるってことか?」
「まぁそうなるな」
「会長辞めたい」
「何を今さら」
「はぁ?」
「ドンマイだ」
「そんなに命が要らぬのか」
そんな話をしながら朝を過ごした。ちなみに小野寺は結構ひどい有り様だった。無表情の人嫌いに負けたせいでプライドがゲシュタルト崩壊したらしい。将にも見せてやりたかった。将は別のクラスだからな。
就任演説は軽い自己紹介と公約達成宣言だけだった。将のひきつった笑顔をネタに三日くらいはからかえるだろう。
生徒会メンバーは以下の通りだ。
会長 三芳将 二年
副会長 西島亮太 一年
書記 西久保美樹 二年
書記 八瀬友里香 一年
役員 菊地辰 一年
役員 山村真奈 二年
他の人の話によると、会長以外はほぼ当確だったらしい。はてさて、三芳将にどんな波乱が待ち受けているのやら。