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加減が難しい(選挙活動一日目)

翌日、将は刃坂と共に朝一で職員室に向かい、佐川先生に立候補を届け出た。意外にも先生は予測していたような対応を見せた。


「ああ、やっぱり来ましたかぁ」


「え?ああはい来ました。生徒会長に立候補したいのですが」


「了解です」


 短いやり取りのあと、先生は将の成績を確認しに自分のデスクに引き返した。まあ確認するまでもないのだが。その間将は、

(社畜になるのにも成績が必要なんだなぁ)

とか考えていた。

 戻ってきた先生に真っ白なタスキをもらった。ちなみに成績は当然クリアした。国本でもクリアできるのだ。合格ラインは相当低いのだろう。話を元に戻すが、タスキは自分で名前とクラスを書き、さらに自由に装飾を施すのだ。これを着用して月曜日から活動を始める。今日は金曜日だ。つまりこの週末にタスキを完成させなければいけない。しかし、将の計画通りにいけば今日中に仕上がる。


「じゃあ放課後B組に来てくれ」


「おk」


 そう言って二人は日常に戻っていった。

 …というわけにはいかず、


「三芳君会長に立候補するんだって?ww」


「い、いやぁ?なんのことかなあ」


「梨華ちゃんが言ってたよぉ」


「神崎めぇ…」


 将の立候補は早くもネタ化していた。ネタといっても、元々頭は良いし、(なんとなく)実行委員とかやってたから、クラスメートには結構本気だと思われたようだ。ネタ化した理由はこうだ。彼はあまり関わりの無い人には敬語で冷たく接するので、クラスでは変人扱いされている(本人は変人だと認めているが)。つまり彼は立候補するような「キャラ」ではないのだ。ついでに言えば、将は色々な仕事(運動会の準備とか)に対してしょっちゅう「面倒臭い」とか、「これは強制労働だ」と先生の前で言っている。そんなのが「強制労働」を積極的にこなす生徒会に立候補したのが面白かったのだ。

 まあ日頃の生活態度がそういう印象を生んだのだろうから、自業自得である。そしてこの日は神崎に話しかけられても全て「話しかけないで、集中してるの」で片付けた。



 放課後、将と刃坂は真っ白なタスキを携えて美術室を訪れた。ノックをしてドアを開けると、予想通り一人の先生がいた。


「三芳君、どうしたの?」


「矢原先生、実はお願いがあるのです」


 矢原先生は教員生活二年目の若い女性の先生だ。美術を教えている。物腰柔らかな先生で、その若さ故に度々クラスに一人はいるエロガキのセクハラにあっている。さらに、まだ教師になったばかりで、生徒に嫌われるのを恐れているのか、めっちゃ優しい。将も彼女は嫌いではなかった。ちなみに低身長をコンプレックスにしている。


「実は僕、生徒会長に立候補するのですが…」


「らしいですね。頑張ってください」


「はい、ありがとうございます。それで、立候補するにあたってタスキに名前を記入しなければならないのです」


「代筆はしませんよ」


「お願いします!下書きだけでもいいんです!僕の美術の成績ご存じでしょう?三ですよ!三!俺が、じゃない僕が書いたらその時点で落選します!」


「でも、一人の立候補者を贔屓してもいいのかなぁ」


「大丈夫です。先生に頼みに来なかった奴らが間抜けなんです。それに、贔屓しちゃいけない、なんて言われてないんでしょう?」


「まぁ、そうですが…」


「…!じゃ、じゃあ、今ならオーストラリア名物の美味しい美味しいスプレッド(パンに塗るやつ)をプレゼント!」


「そういうのって良いんですか?」


「海外派遣のお土産とでも思っていただければ」


 先生は若干迷った。当然である。将の提案を簡単にまとめると、「賄賂あげるから選挙活動に協力してください」になる。別に校則違反ではないが、嫌悪感を示す人もいるだろう。社会でやったら立派な犯罪である。しかし、将がほざいていたように、先生に頼んじゃいけないとは誰も言ってない。あとは先生の気持ちの問題だ。

 少しの間をおいて先生はこう言った。


「…下書きだけですよ」


「はい!有り難う御座います!」


「そのスプレッドは本当に美味しいんですか?」


「ええ、そりゃもう!塩辛いんですが、とっても美味しいです!見た目がかなりアレですが、チョコクリームだと思えば許容範囲です」


「本当に美味しいんですか?」


 そんな会話をしつつも、先生は鉛筆で「二年B組(横書き) 三芳将(縦書き)」と書いてくれた。新聞の見出しのように綺麗な明朝体だった。あ、これ当選しちまうかもしれん。将はそう感じたという。


「ありがとうございます!絶対に当選して見せます!」


 そんな言葉を聞いて、刃坂は将の舌を抜くためにペンチを探した。


「んじゃ、これをマジックで塗り潰したまへ、刃坂活動責任者殿」


「お前もやれよ」


「だって俺成績三だもん。康生は四だろ」


 結局二人で分担して塗った。

 後日将からベ○マイトをもらった先生がそれを食べて激怒したが、それは別の話である。



「生徒会長立候補の二年B組三芳将でーす。誰でもいいなら三芳に投票お願いしまーす」


 月曜日の朝、何人もの立候補者(役員立候補も含む)が声を張り上げる中、一人変な奴がいた。つまらなさそうな顔をした男子三人の前に立ち、こちらもつまらなさそうな顔をして結構インパクトのある事を言っている。もちろん三芳将である。

 今日の作戦はこうだ。まず、一、三年生にインパクトを与える。今まで将の学校生活に生徒会が介入してきたことは行事を除けばほぼゼロだ。それだけ生徒会の印象は薄い。特に何かをしてくれる訳でもない人を一人選んで投票するなら誰でもいいはずだ。しかも立候補者は二年生。自分の学年じゃない。我が中学校は帰宅部が多い。そいつらは先輩、後輩を贔屓する可能性は低い。彼らをターゲットに、「特に仲良しの人いないんでしょ?なら三芳将に投票してよ。誰でもいいんだもんね?」と語りかける。ここで長く公約を語ってはいけない。まず公約が無いし、変なことを言って支持率を上げすぎても面倒だ。ここで帰宅部の票を得れば小野寺は大分厳しい戦いをしなければならなくなるだろう。

 さらに、将が着用しているタスキは注目を集めた。なぜならよく見える位置に「レタリング・矢原先生、着色・刃坂、三芳」と書いてあるからだ。これは案外強かった。将の考えとしては、三芳は先生の協力を得ている。それは先生から信頼されているからだ。それに比べて小野寺アンド他の立候補者は…という流れに持っていきたかった。しかし生徒は後半部分まで考えなかった。ただ、「三芳すげぇ」になったのである。これは将も感じ取っていた。


「頑張りすぎたな。もっと支持率を下げた方がいい」


「どーする?」


「考えがある」



生徒による支持率(選挙活動一日目終了時点)

三芳将 29%

小野寺祐吾 22%

仁川果穂 14%

前橋早苗 11%

国本弥生 13%

西久保美樹 11%

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