前言撤回するんだとか
親友登場です
六時間目が終わると放課後になる。将は真っ直ぐ家に帰るが、一部の生徒は廊下に溜まってお喋りをしたりする。将の友人は大抵その中に混ざっているので、彼は常に一人で帰る。本人はそのことについて別に何とも思っていない。
将が廊下に溜まっている女子グループの横を通った時、こんな話が聞こえてきた。
「小野寺が会長に立候補するらしいよ」
「マジで?」
小野寺祐吾は学年一のチャラ男で、女好きだ。将とは対極に位置する人間である。将は小野寺を嫌っているが、小野寺はそこまで将を嫌っていない。
将は想像した。小野寺が会長になった未来を。何一つとして楽しいことは無かった。彼が社畜生活を送るのは愉快だが、肩書きを得るのは癪に触る。しかも、会長とは我々生徒会員のトップである。TOP OF STUDENTS なのだ。大して影響はないにしても小野寺が自分のリーダーになるのは嫌だ。 家に帰ると、将は友人三人に連絡をした。本当に小野寺が立候補したのかを聞いた。答えは全てイエスだった。
次に、対抗馬はいるのかを聞いた。二人からイエスが返ってきた。
二人が考える対抗馬は同じだった。仁川果穂という女子だ。彼女は大きなグループの中心なんだとか。将に女子のグループとかは理解できない。そもそも女友達がほとんどいない。
将は仁川と関わりがあった。彼らは小学校からの友人であった。あまりの親しさに三芳リア充説が流れた時の相手として彼女が挙がる事もあった。ちなみに、三芳リア充説を流した犯人は小野寺で、それが原因で将は彼と敵対している。当時の小野寺に明確な悪意は無かった。ただ女子との会話のネタとして使っただけだったのだが、それが噂好きの女子によって一気に拡散されたのだ。
クラス替えで別々になってからは疎遠になったが、彼女が会長になるなら将としても嫌なことはない。
ただ、仁川が当選するのは難しいかもしれない。
まず、彼女は将の友人だった。つまり奇人である。仁川は奇怪な感性を遺憾無く発揮して生きているから、好き嫌いが別れる。彼女を嫌う生徒も多い。得票数に影響が出そうだ。
そして、女子の票が集まりにくい。今回の選挙では会長立候補に女子が多い。加えて、小野寺は一部の女子からも人気なのだ。この中学校は男子の方が多いから、立候補者が少ない男子で、女子にもツテがある小野寺が有利なのだ。
こりゃあ厳しいな、と将は勝手に検討をつける。仁川が会長になるのは全然構わない。小野寺と彼の愉快な仲間たちじゃなければ別に誰でもいい。
しばらく考えて、将は解決策を発見した。しかし、それは絶対に失敗が許されないものだ。それから寝るまでその策について考え、そのまま寝た。結論は出ていない。
翌日、将はいつも通り一人で登校した。一人で本を読み、一人で授業の準備をした。一時間目が終わって十分の休みになると、行動を起こした。
隣のクラスに行くと、敬語で人を呼び出してもらった。彼が呼んだのは奇人だ。つまり友人だ。そして奇人がやってきた。
「よぉ、助けて」
「は?」
奇人――刃坂康生は三芳の奇妙な仲間たちの中で唯一まともな人間だ。帰宅部部長、学級委員長と、主要な役職のトップにいる。校長、教員からの信頼も厚い。ほぼ毎日塾に通って真面目に勉強しているため、頭脳は明晰すぎる。明晰すぎて若干危険な雰囲気が漂っているから、奇人認定されている。将とつるんでいるから奇人なのかもしれないが。ちなみに、将は塾にも行かず、家でも勉強は一切しない。それでも親の遺伝子が素晴らしすぎて、テストでは高得点をとっている。よくその事を妬まれている。
将は計画を実行した。
「康生さ、生徒会長に立候補しないか?」
「そんな面倒臭いのするわけないじゃん。ってか、学級委員長は立候補できないし」
「いや、どうせまた委員会変更されるだろ」
「また学級委員やるし」
「つまんねぇ人生だなお前。そんなに権力を振りかざしたいのか?」
「やっぱお前キ○ガイだな」
「いやマジで」
「何?お前が立候補すればいいじゃん」
「いやぁ、面倒臭い」
「殴るぞ」
「作戦があるんスよ」
作戦はこうだ。
まず、小野寺から男子の票を削り取るために刃坂が立候補する。そして、当選しない程度に活動する。そうすれば仁川が当選、小野寺は落選。素晴らしいではないか。
「将が立候補すればいいじゃん」
「じゃんけんで決めるぞ」
結果、立候補は将、選挙活動応援者は刃坂となった。
次回選挙のルールを説明します。