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仲裁した日

~十月・中庭~

「あんたさあ、ウザいんだよね。転校してきてすぐに色んな男子に色目使ってさ。やめてくれる?メーワクなの、あんた(日本語)」


「…日本語わからないの(英語)」


「はぁ?ここは日本なんだから日本語で話せよ、金髪女」


 ペネロピ・ウォルコットは同級生に絡まれていた。今まで男である西島、菊地と一切関わらず、八瀬のみと話してきた。お陰で男二人はペネロピと友達になるのを諦め、一緒に動くよう頼まれている教室移動の時も少し離れた位置で監視しているだけになった。

 そして彼女は生来の不器用さで、男子生徒の保護欲を誘っていた。家庭科、美術、技術の授業中、ことあるごとにやらかすペネロピに何人もの男子が手を貸した。それが気にくわない女子は多かったが、絡まれたのは初めてだった。そして当然、本人は何故言いがかりをつけられるのかわかっていない。

 ペネロピは本能的な恐怖を感じた。相手の言葉がわからない。こちらの言葉は通じない。一人に対して四人。怖いことだらけだ。


「英語で話してくれる?(英語)」


「はぁ?だから意味わかんないっつってんじゃん!(日本語)」


 一人の女生徒が肩を押した。よろける。怖い。ペネロピは囲いを突破して逃げた。追われなかった。



~翌日・二年B組~

「なんか最近のペネロピ、元気がないのよ。ショウは何か知らない?」


「うーん、特に心当たりはないなぁ(いつも暗いからなあ)」


 朝、いつも通りアリスは将と話していた。山村は以前より早く起きて一緒に登校するのに限界を感じ、脱落した。ペネロピは将を避けてもっと早く登校している。つまり学校で一、二を争う女子と二人で登校しているのだ。男子からは呪いのこもった視線を浴びているが、将は気づかない。アリスは気づいていたが、気にしなかった。


「学校生活が上手くいってないのかも」


「八瀬達の報告ではあまり楽しめていないらしいけど、男子を避けてるんでしょ?そりゃあ少し嫌われたりしてるのかもね」


「どうやったら直るかな、男嫌い」


 将には案があったが、長時間の張り込みを必要とする。あまり提案したくなかった。しかし、アリスは顔から読み取った。


「なんかあるんでしょ」


「ふぇ?」


「なんか改善策があるんでしょ。言わないならあること無いこと色々ばらまくわよ」


「俺の何を知ってるってんだ」


「さあ?学校で杏仁豆腐を食べてた事とか?」


「…いい案がある」


 脅迫していてもアリスは可愛かった。故に英語がわからない男子からは楽しく談笑しているように見えた。



~放課後・生徒会室~

「というわけで、提案がある。ってか実際にペネロピ・ウォルコットが辛そうにしてるとこ見た人いる?」


「あの…なんか昨日の放課後に垣田さん達がウォルコットさんを呼んでました」


「八瀬、垣田達ってどんな奴らだ」


「えっと…」


「女子には言いにくいわよー。会長って鈍感なの?バカなのぉ?」


「そこまで言わなくてもいいだろ…んじゃ菊地、言え」


「あんまり評判は良くないです」


「そっか。じゃあ現場を押さえるぞ」




~二週間後・中庭~

「あんた志水君にイロメ使ってるでしょ」


「えっ…」


「死ねよ」


 日本語がわからない事をいいことに言いたい放題である。ペネロピは男嫌いである。男と関わらないということは、単純計算だと人類の半分と縁を絶つということになる。そんな生活を十三年以上続けてきた彼女は若干のコミュ障だった。

 垣田の腰巾着がペネロピを小突いた。それでもペネロピは逃げ出せない。膝が笑っている。それにプライドもあるのだろう。腰巾着を無視して、じっと垣田の目を睨み付けていた。短気な垣田の我慢の限界はすぐに訪れた。


「何よ!」


 パシッ、と乾いた音をたてて垣田がペネロピの右頬を張った。右目に涙が浮かぶ。それでも垣田の目を睨み付ける。彼女は助けを求めていた。もちろん




お姉ちゃん…





「はいそこまで」


 彼女の願いも虚しく、声は日本語だった。中性的な声の持ち主は顔も中性的だ。無表情でいる時はその美しく整った顔に薄い笑みを浮かべ、何かをしている時はデフォルトの顔に似合わない不快げな表情で行動する。八瀬の話では相当な量の女子が彼に熱をあげているらしい。それでもペネロピは彼が嫌いだった。男だから。そして大好きな姉と仲良くしているから。


「三芳センパイ…?」


「今てめぇらがやってたことは全て録画した。学校で保管させてもらう。今後このような愚かな行為に及んだ場合、動画を公開せざるを得ない。反省したまえ。以上だ」


「違うんです!これは、えっと、ウォルコットさんが変なことするから!」


「黙れよ」


「とにかく、私は悪くな」


「黙れっつってんだろ!」


「ひっ」


「さっきから黙って聞いてりゃ何なんだよお前ら!ペネロピ・ウォルコットは何もしてないだろ!美貌に嫉妬した挙げ句暴力ですか?はっ、しかも?腰巾着にビンタさせて自分は何も悪くありませんってか?いいご身分ですなあ。実に羨ましい!まあせいぜい志水とやらに色目でも使って媚びなされ」


 将が変人と呼ばれる所以の一つに、感情の起伏が激しいことがある。静かに微笑んでいたと思ったら激昂したり、その数秒後に男子をも虜にする笑顔で焼きそばを食べたりと、落ち着きがない。それが暴発してしまったのがこの発言である。ペネロピはキレた将に怯えて余計に警戒してしまった。

 すぐに将は笑顔に戻った。


「ペネロピさん、これであなたが苦しむ要素はなくなりました。家までお送りしましょうか?」


「いいです。あと、この事はお姉ちゃんには言わないで」


「うん。アリスには秘密ですね」


 そう言って将はニッコリと笑った。女子と見間違えそうなくらい綺麗な笑顔だった。その笑顔が偽物みたいで、ペネロピは彼の事をますます嫌いになった。他の女子は名字で呼ぶのに、アリスだけは下の名前で呼ぶのも気に食わなかった。


「…大嫌い」


ここから分岐をしようと思います。当分片方で進めますが、何かご意見あればコメントくだs

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