シャットダウン
それからいくつかの日が立っていった。学校にもずいぶん慣れ、かなり上々の生活を送っている。
そして嬉しいのは、今日は一ノ谷さんと一緒に家に帰ることになっている。
城ノ内さんのスパルタ教育で、緊張なんて飛んで行ってしまっている。
学校の授業は夏休み前と言うこともあり、少しずつ難しくなってきている。
夏休みの宿題。漢字1000回。かなりきつい。でもやるしかない。
ワークにドリル。やる気がそげる圧倒的ボリューム。これがもしゲームなら、速攻クソゲー扱いしているはずだ。無駄に長くて、焼き直しコピペばっかり。
もうあと3日で夏休み。夏休みになるともうチャンスはないかもしれない。
一ノ谷さんにアタックしないと。
下校時間が来た。僕は一ノ谷さんを待つ。
そこには、妙にがらんとした靴箱が並ぶ。いつもの光景だ。
全校生徒は6人。おかしな学校だ。
タケちゃんを見送り、ついに一ノ谷さんだ。
「じゃあ、帰ろっか」
「……うん」
最近気づいた事だが僕と一ノ谷の家は結構近い。なので最後まで見送っても十分余裕なのだ。
しかし、なにも話すことがない。そうだ、城ノ内さんの時は向こうからリードしてくれてた。なら、こっちも何か話を……
「もうすぐ、夏休みだね」
我ながらアホみたいな問いかけだと思う。だからなんだと言いたくなる。
「夏、ですか。私は夏は好きですよ。あの感じがとても好きです」
夏。夏?そういえば夏ってなんだろう。どんなものだっただろう。
「夏は、夏にしかできないことがありますから」
なにも耳に入ってこない。分からないんだ。夏って何?暑いのはわかってる。どんなものなの?
知らない。分からない。ああああああああ!
気が付くと家のベッドに横たわっていた。記憶がない。もしかしたら、一ノ谷さんを置いてきぼりにしちゃったかも知れない。
もういい。自分でいつまでも悩んでいよう。もしかしたら心が病んできてるのかも。もうなんにも分からない。
……。……?
確か、みづほさんが何か言ってたような気がする……
『私はあなたの敵じゃないわ。あ、そうだ。一つだけ教えてあげる。あなたがこの世界を理解した日が、この世界の終りだから』
みづほさんに聞いてみよう。あんな変なこと言ってるくらいだから、何か知ってるんじゃないか?
7月19日。あと2日で夏休み。
「あ、あの。家守さん。ちょっと聞きたいことがあって……」
「……へぇ。聞いちゃうの?やめた方がいいよ」
「もうダメなんだよ!覚悟はしてる。全部教えてくれ」
「簡単なことよ。この世は全てあなたの創造したものってこと。誰もが持つ世界。夢よ」
「夢?」
「ここはあなたの夢の中。でも聞かない方が良かったわね。もう崩れてきている」
崩れる。それは実体として襲いかかる現実の壁だった。
「このままここにいれば私は消えて、あなたは現実に戻される。どうする?逃げるか、とどまるか」
「逃げるに決まってる!現実なんかに戻ってたまるか!」
僕はみづほさんの手を握り駆け出して行った。
崩れる。学校が、地面が、全てが。
「みんな、逃げてくれ!」
「ハヤト、落ち着いて!しっかりと考えて、この世界をイメージしなおすのよ!」
「え? ……イメージ、イメージ……」
そうすると、元に戻って行った。崩れた壁も、元通り。そこはただの朝の学校の風景だった。
「こら、ハヤトに家守。勝手に校庭に出るな!」
「い、いや……地震かな、って思って、外に出ちゃいました」
「はあ?変な奴らだなあ」
先生も元通りだ。
「ねえ、この世全てが夢って、ホントに言ってんの?」
「さっきの見たでしょ。絶対にこれからこの世界が夢であると考えちゃいけない。考えた瞬間、あなたの世界は崩壊する。さっきみたいにね」
「……分かった」
「これほど深い世界なのだから、現実のあなたは昏睡……あるいは、もう死んでいるかもしれない。……またなにかあったら、私に相談してね」
「……あの、みづほさんって、何者なんですか?」
「そんなのこっちが聞きたいわよ。でも、まともな人じゃないってことは分かってる」
そう言って、バカみたいに笑いだした。




