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エルフのウエイトレス


 ナナギたちはアリサ達が客間に入ってくると立ち上がって挨拶を始めた。


「夜分遅くに申し訳ありません。私は商工会のナナギ・シルバローテと申します。こちらは冒険者カフェ"ウィリムス”のオーナーのアサギ・シロガネ。

本日は先日シスター・メイから頂いた手紙の件でご挨拶に伺いました」

ナナギはきっちり90度お辞儀をするとするどい視線でアサギに挨拶と説明をするように促した。


その目マジでやめて…。そう思いながらも促されるままにアサギはお辞儀をする。

「はじめまして。アサギ・シロガネです。夜分遅くに急に押しかけて本当に申し訳ない。俺の店で今ウエイトレスを募集してまして、すぐさま働きに来れる人がいるとナナギ…会長に話を伺ったのでその人物とお会いしたく訪問させていただきました。」


 アサギはそういうと店の名前と住所、それからアサギの名前が書いてある紙を院長達に渡した。院長は、はあ、どうもと言いながらも若干首をかしげていた。ナナギにいたってはその行為に何やってんだコイツはと目を細めた。


 この世界に名刺はない。ないが、一度社会人を経験していたアサギは名刺って意外と大事だよなと店がオープンの際に名刺を準備していたのだ。


「はじめまして。私はこの孤児院の院長のメノアと申します。こちらは今回お話しておりましたアリサ・サンフランです」

「はじめまして。アリサ・サンフランです。このたびは就業の機会を与えていただけるとのことで誠にありがとうございます」


ナナギは何かに気が付いたようにアリサのことをじっと見つめていたが、軽く頷くと質問を始めた。

「アリサさん、いくつか質問させていただきたいと思いますが、よろしいですか?」

アリサがハイと返事をする横で、それって俺がやるもんじゃね?、とアサギがつぶやいているのをナナギは完全に無視して話を進める。

 「違っていたら申し訳ありません。あなたはエルフではないですか?」

いきなりの核心に触れられ、アリサは動揺する。まさか、一目見ただけでエルフとわかるとは思わなかった。

「…」

「その帽子、取ってもらえますか?」

「…はい」

アリサはナナギの言葉に従い深くかぶっていた帽子を取り、隠れていた長い耳が露わとなる。


「やっぱり。私は何度かエルフにお会いしておりまして、顔立ちがエルフに似ていると思っていたんですよ。その耳はやはりエルフですね?シスター・メイ、彼女がエルフとは伺ってなかったのですが…一体これはどういうことですか?」


 この国ではエルフを雇うメリットは存在しない。

 少し期待していた分、訝しげな視線に耐えられずアリサは無意識に目を伏せた。ああ、やっぱりこうなるのだと。

 けれど悪意のある視線によって震えだした身体は止めることができなかった。


シスター・メイは必死に懇願する。

「ナナギ様!どうかお話を聞いて下さい!

アリサは気配りが上手で皆から慕われている自慢の子です。

手先も器用で料理から裁縫までこなせますし、必ず皆様のお役に立つことができます。

エルフだと黙っていたのは申し訳なかったですが、それは彼女本人を見てから判断して欲しかったからです。

ナナギ様、アサギ様、どうか自慢の我が子をなんとか雇っていただけないでしょうか?」


「…」


 シスター・メイの言葉にナナギは黙りこみ、客間は緊張した雰囲気に包まれる。

 アリサは今まで何度かこういった場にさらされたことがあったが、この雰囲気に一向に慣れることがない。自分の存在そのものを否定される目にはいつになっても恐怖で震える。

 私には早く終わってと祈ることしかできない。


 しかし、今回はその重苦しい雰囲気はナナギの隣にいた青年の一言であっという間に霧散した。

「いや、雇うよ。そのつもりで来たんだし」


 その一言にがっくりとうなだれるナナギ。

 対照的にシスター・メイはまぁ!と嬉しそうな笑みを浮かべていた。

 そしてアリサはその一言に驚いた。

 自分がエルフだと知っていながら雇うという。

 そんなことをいう人がいるなんて!


「…貴方、この国でのエルフの立ち場を知らないわけ?」

「いや、知らないけどさ。この国だとエルフは滅多に見かけないな位にしか思ってないな」


 頭を抱えるナナギは全員(主にアサギ)に状況がわかるよう説明した。

「少し経緯を話します。以前私はシスター・メイから手紙を頂きました。

内容は卒業する院生のために住み込みで働ける仕事を紹介してほしいとのことでした。

そのため、今回双方の要望が合致するため仲介のために伺った次第なのですが…今回彼が求めている人材はウエイトレスです。

厨房の仕事などならまだ良かったのですが、残念ながらエルフはこの国では印象があまり良くないため、お客様と直接触れ合うウエイトレスは不向きなのです。

お分かりですよね?」


 エルフはこの国では嫌われている。

 そんな者がウエイトレスをしていたら客足が遠のく。

 彼女はそう言っているのだ。

 アリサの経験上こういう時非常に居心地の悪い気持ちになるのだが、今回に限っては空気を読まない男がそんな雰囲気にはさせなかった。


「いや、向いてるだろ。

この子可愛いし、可愛いウエイトレスなら人が来るって。

お金はそんなに出せないかもしれないけどさ。

まあ、まずは見習いってことで、月銀貨2枚ぐらいでどう?

その代わり、食事、宿付き。」

 そういってアサギはアリサに視線を向けた。

「あとは君次第だけど、どうする?」


 どうやら、この青年はエルフに対して悪い感情を抱いていないようだ。

 住み込みで銀貨2枚なら、アリサにとっても悪い条件でもない。

 なによりこのようなチャンスを逃したら、きっと2度とこんなチャンスなどない。

 いつしか震えも止まり、気がつけば自然と口が動いた。


「どうか、お願いします!私を雇って下さい!」

「よし!決まりだ。それじゃ、これからよろしくな」


「待ちなさい!貴方だけの話ならどうでもいいけど、レイにも関わる話なの。無駄なリスクを背負うのは認められないわ!」


「だったらさっきみたいに耳を隠してエルフってわからないようにして貰えばいいだけだろ?大丈夫だって。それに明日ウエイトレスがいなかったら困るしな。それとも明日もナナギが手伝ってくれるのか?」

「…私は明日から暫く出張よ」


 痛いところをつかれナナギは渋い顔をする。バレるリスクとウエイトレスがいないリスクはどっちが高いかとか耳さえ隠し通せばとかナナギとアサギは暫く小声で話をしていたがどうやら最終的にナナギが折れたらしい。


「じゃあ、今この瞬間から君はうちの店員だから改めてよろしく」

 アリサの隣にいたシスター・メイは感極まって嬉し涙をハンカチで拭った。


「…で、早速なんだけど今から基本的なことを教えるから、店に行くぞ。

今日は徹夜になるかもだけど、そこはゴメンな。

あっ、あと悪いけど必要最低限のものを除いて荷物は後日ね」

「…えっ?」

こうしてアリサは採用されたことに感慨を抱く間もなく、冒険者カフェという戦場に送り出されることになったのだ。




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