傲慢な魔法師
久しぶりに投稿します。読んでくださってる方、遅くてすみません。
フォルムは話が終わると、そそくさと店から出て行った。何やら嫌な予感がするが、気にしてもしょうがない。
アサギは面倒くさそうな奴に目を付けられてしまった、と溜息をついた。一息ついてから店内に戻ると、バーチェが律儀にも、ぶすっとした顔で店番をしてくれていた。
「バーチェさん、店番ありがとう」
アサギが声をかけると、バーチャはアサギを睨みつける。
「ありがとう、じゃ無いわよ! 私はあなたが使った魔法について聞きに来たの! 店番をするためじゃないの!」
「あー、はいはい。どいつもこいつも面倒くさいな。そんなの知って、どうするんだよ?」
「私が知らない魔法があるのが気に食わないのよ。教えなさい」
「…それ、人に物を頼む態度じゃないよな」
あのフォルムという男は得体が知れないし、この娘はマイペースすぎる。
「あれは風系の魔法?パッチスペルはどう組んでるの?」
バーチェは、アサギの話などお構い無く話を続ける。
アサギはその様子に眉をひそめた。
「…少しは話を聞けよ。はぁ、まあいいよ。じゃあ、こうしようか。もしバーチェさんが、この間のクエストを一週間以内に片付けられたら、どんな魔法を使ったか教えてやるよ。できなかったら教えない。どうだ?」
アサギは、バーチェ達なら、今回のスカイスパイダーの討伐依頼は簡単だと考えていた。アサギとしては、さっさと依頼を片付けて欲しかったので、軽い気持ちで提案してみた。使用していた魔法も大した魔法では無かったし、教えても構わなかったというのもある。
「あのクエストは、葉の月までだったはずよ? まだ、2週間は期限があるのだけど」
「このクエストは、なるべく多く狩って欲しいから長めに期間が設定してあるだけで、内容はそう難しいものじゃないんだよ。 そもそも、この仕事にそんなに時間がいるのか? 3級魔法師のバーチェさんが」
アサギが軽くバーチェを挑発してみると、案の定バーチェは眉毛を釣り上げ、顔を赤くした。ちょろすぎる。
「馬鹿にしないで!スカイスパイダーなんて、3日もあれば根絶やしよ! 魔法の約束、忘れないでよね!」
「流石に3日はしんどいだろ。ま、とにかく早めに仕事をこなしてくれよ。それから、一人じゃ危ないから、絶対にサーニャさんとパーティを組むんだぞ。」
3日で十分よ!と言い放つとバーチェは、身につけていた店のエプロンをアサギに押し付け、肩を怒らせて店を出て行った。
その様子に、アサギはため息を付いた。
「まさか、本気で3日でクエストこなしてくるんじゃないだろうな…」
気は短いし、人の話は聞かない。挑発しておいてなんだが、アサギは少し不安になった。
◇
それから3日後、バーチェは閉店間際に、ウィリムスに訪れた。
「まじかよ…」
バーチェは、ふふん、と得意そうな顔をしてアサギに話しかけた。
「約束通り、クエストをこなして来たわ。国道付近のスカイスパイダーはほとんど根絶やしのはずよ。3日で余裕だったわ」
服は糸まみれ、泥まみれですごいことになっていたし、目の下にはすごい隈ができていた。
徹夜で狩り続けたのは明らかだ。
誰がそんな無茶をしろと言ったんだ!と怒鳴りたい気持ちをぐっと抑えて、アサギはため息をつきながら話を進める。
「素直に感心するよ。無茶したことは、まったく感心できないがな。次から徹夜は止めておけよ? まあ、お疲れ様。それで、スカイスパイダーの討伐部位は?」
「ないわよ。全部燃やしちゃったもの」
「…おい」
討伐部位を出してもらわなければ、報酬は出せない。加えて、クエストも達成したとは言えない。
「ちゃんと羽を持ち帰るよう伝えたよな?なんで、持ってこないんだよ」
「面倒だから、全部燃やしちゃったの。私は炎系の魔法が得意なの。でも、いいでしょ。目的はキッチリ達成したわ」
アサギは、頭を抱えた。サーニャがいれば、ある程度彼女をコントロールしてくれるだろうと思ってパーティーを組ませたというのもあるのに、まったく機能していなかったのか。見誤ったかなと、思案しかけたところで、サーニャの姿がないことに気づく。
「って、あれ、サーニャさんは?」
「いないわよ。今回の依頼は私一人で十分だったもの。サーニャは仕事があったから、遠慮したわ」
彼女と出会ってから、他人だから、人には個性があるからと、いろいろと言いたいことを我慢していたが、この言葉に、とうとうアサギは切れた。
「お前、死にたいのか!? なんで、人の話を全く聞かないんだよ!こっちは、安全面とか、効率とか、いろいろ考えてサーニャさんとパーティーを組むように言ったんだ! 巫山戯るなよ!」
バーチェは、アサギが怒鳴ったことで、一瞬たじろいだが、キッとアサギを睨みつける。
「私は、いずれ宮廷魔術師になるの。私がこの程度のクエストで死ぬわけがないわ。常識で語らないで!」
その態度が、よりアサギを苛つかせた。
なので、言ってはいけないことを、つい言ってしまった。
「はっ、宮廷魔術師っていうのは、あらゆる危険性を考慮して、その中でも最適で、最善の策を実行していくんだ。いくら魔法の腕があろうと、無計画で力任せで事を解決しようとするお前が、宮廷魔術師になれるもんか!」
流石にその言葉を聞き逃せなかったバーチェは怒鳴りかえした。
「訂正しなさい! たかが、ショップの店員が偉そうに!」
「嫌だね。だいたい、そのショップの店員とやらに魔法の腕で劣ってるんじゃないのか?だから、俺の魔法の構成がわからなかったんだろ?」
「防御魔法は私の得意分野では無いのよ!これが魔法の勝負だったら絶対に私が勝つわ」
「無理だね。100%俺が勝つ」
しばらく、2人は睨みあう。
閉店間際だったおかげで、店内には人がほとんどいなかったが、アリサはびっくりした顔をして、2人を見ていた。
「…なら、勝負しましょう。私が勝ったら、さっきの言葉取り消してもらうわ」
「いいよ。やろうじゃないか。俺が負けたら取り消すよ。じゃあ、店が休みだから、3日後な」
バーチェが帰った後、冷静になったアサギは、自分の馬鹿さ加減に凹んだ。自分よりも10歳は年下の少女にやらかしてしまった。
そんな、アサギの背中をぽんぽんと、レイニーは優しく叩く。
「大丈夫。アサギは、いつも大抵あんな感じ。行き当たりばったり」
「…それ、まさか慰めてくれてるつもりなのか?」




