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実は腹黒

読んでくれていた方、3ヶ月ほど更新をしておらず申し訳ありません。

体調が良くなって来たので久しぶりに投稿しました。


それと今までの話を若干修正しました。

更新は遅いですが完結はさせようと思いますので気長に見守っていただけるとありがたいです。

「見ての通り、今日は店がごった返していてな。話するのは店終わってからにしてもらえないか?」

 ふむ、とフォルムは顎に手を周囲のけが人、病人達に目を向ける。

「先ほどの方も病気のようでしたし、やはり奇跡の御業の手腕を聞いて、ですね?」

「まあ、そうなるな」


奇跡の御業じゃないけどな、と訂正するアサギにフォルムは提案した。

「アサギさん、本来こういった治療は我々神職を司るものがするべき仕事です。アサギさんの商売の邪魔にならないようでしたらパヌーヴァ神の名のもとに彼らの治療を施してもよろしいでしょうか?」


その提案に一も二も無く喜ぶアサギ。

「そうしてもらえるなら助かる。今日は彼らへの対応で困ってたんだ。ついでに俺のやったことを教会でしたことにしてくれると尚助かる」

 わかりました。ではそのようにさせてもらいますフォルムは頭を下げるとサーニャに顔を向ける。

「サーニャ、ここに集まっている方々見たところほとんどの方は軽い病や怪我を患っている様子。この程度でしたらコベルト先生の所で十分対応可能です。にも関わらずこうして奇跡の噂を聞きつけてやってきたのはお金がないか、パヌーヴァ様のお力を信じていないかです。なので今回は名目上新たな信者を得るという名目で今回の治療代は全て私が持ちますので皆さんをコベルト先生の元へ案内して下さい。ああ、もちろん貴方もコベルト先生を手伝うのですよ」


その会話を聞いてアサギは費用をフォルムが持つというのはいくらなんでも筋違いだと思った。

「フォルムさん、ありがたいんだけどさ、費用を全部持つのはおかしくないか? いくらなんでも今日初めて合った奴にそんな事させるわけにはいかない」


 フッとフォルムはその言葉に笑った。

「いえいえ、そんなことはありませんよ。これで、貴方と話をする時間が出来ましたよね?でしたらこの程度安いものです。今日アサギさんに会って確信しました。貴方の話を聞かせていただくのが最優先事項だと」

 アサギはその言葉に嫌な感じを覚えた。


「でも、この人数みんなをコベルト先生のところに紹介するのは先生の肉体的に厳しいかと…病気や怪我をされている方、少なくても50人はいますよね」

 コベルト先生が通常一日で治療する人数より少し多いくらいの人がいる。今日も通常通り診察しているはずなのでこれらの人を治療するのは難しいのではないかとサーニャは思ったが。

「今日は頑張ってもらいましょう。なに、先生にはあとで私から謝っておきますし、割増料金を払うと伝えて下さい。ではサーニャ、私は皆を誘導しますので話を合わせて下さい」


あたふたするサーニャを尻目にフォルムはフードを深くかぶり直すと声を張り上げた。

「皆! 俺の話を聞いてくれ!」

彼の声は高く透き通っており店内中に響き渡る。その大声に何事かと皆が振り向く。

彼は視線が十分に集まったのを確認して話を続けた。

「今日、この店に奇跡の所業の噂を聞きつけて来たものが多いと思う! ここの店主がとある冒険者の決していえなかった怪我を直したという噂だ。 だが、その噂は間違えだ! 実際はこの街の診療所で治療したのだ!」

その言葉に反論する人々。

「嘘をつくな! エッジは王都まで言って治療を受けたのに直せなかったって話だぞ!この街に王都以上の医者なんているものか!」

「嘘ではない! なんなら、その冒険者に直接聞いてみるがいい! 彼はパヌーヴァの診療所で直したというはずだ!」

フォルムは先程入り口であったエッジの会話も巧みに利用する。


「だからって、診療所にかかれるような、そんなお金ないわ!」

フォルムは話を引き継ぐようにサーニャに目配せした。

「パヌーヴァ様は皆様を見捨てません。お金がない方については今日この場にいる方に限ってはパヌーヴァ教本部で費用をもたせていただきます」

その言葉にざわつく病人達。フォルムは手を大きく叩いて再び周囲の注目を集めると言葉を続けた。

「今から彼女がその診療所に案内する! 治療を受けたいものは彼女の後に続け!」

 サーニャが皆さん、こちらですと誘導し始めゆっくりと店の外へ出る。十分に考える時間を与えられなかった人々は半信半疑だが、損はなさそうだと彼女の後に続く人が出てくる。一人、また一人と彼女の元へ続くと後は押し寄せるように彼女の後へと続いていた。


 そして、5分も立たないうちにその場にいた病人やけが人は誰もいなくなっていた。その鮮やかな手並みにアサギは驚いく。

「フォルテさんって神職よりもアジテータのほうが向いているんじゃないですか?」

「そんな、神職だからこそですよ。人を導くことが私の役目ですからね。今後もしああいう怪我人や病人がこちらに来た際は先程申し上げたパヌーヴァの診療所に行くように伝えて下さい。さて、アサギさん。これでお時間が出来ましたよね?」

「ああ、本当に助かりました。それで?話が聞きたかったみたいだけど何について聞きたいんですか?」


先ほどに比べれば人は減ったがそれでも内緒話をするには周囲に人が多すぎる。フォルムは場所を変えたいと提案する。

「ここではちょっと…10分で構いません。どうか2人だけでお話をさせていただきたいのですが」

「…わかりました。10分でいいんですね。奥の部屋…いや2階で話をしましょうか」

話の内容があまりいい予感がしないが、先程助けてもらった恩があるためアサギは折れるしか無かった。


「フォルム様! 私も話を伺いたいです!」

 と、ここで先程からずっと口を開くことがなかったバーチェが主張する。


「…あれ?バーチェさん、いたんだ」

「私もてっきりサーニャに付いていったかと思いました…。残念ですが、駄目です」

フォルムは首を振り、アサギは自分が着けていたエプロンをはずしてバーチェに渡した。

「バーチェさん、ちょうどいいからここで店番してて。とりあえずお客さんの話し相手になっているだけでいいから。レイニー! 悪いけど10分ばかり俺外すから。バーチェさんに暫く見ててもらうから万が一の時はフォロー頼むな!」

 そう言って料理を作っているレイニーに声をかける。レイニーはぐっと親指を立てて任せておけと返事した。

「ちょっとーーー!待ちなさいよーーー!」

 バーチェはなにか叫んでいたが、一方的に頼んだ頼み事を断らず2階へ向かう二人を追わない辺り根は真面目な子なのであった。


「単刀直入に聞きましょう。 貴方は1級官位をもつ…つまりアネルの神官ですか?もしくは他宗教の神官ですか?」

 アサギに2階の事務部屋に通されたフォルムは早速確認したいことを切り出した。

 アサギは即座に違うと答える。というかアネルってなんだ。

「俺は神官じゃないよ。ただの冒険者の店兼喫茶店のオーナーだ」

「…そうですか。ところでさきほど鳥が描かれた金色の指輪を見たことがあると言ってもましたが、事実でしょうか?」

「まあ、見たことあるな」

「もし、そうだとしたら貴方は聖姫ミリア様に直接会ったことがあるということになります。アンサッシュの円環はあの方しか身に付けることを許されておりません。高位の神官ですと聖姫様に時々はお会いする機会もあるのですがね。では神官ではない貴方は何処で会われたのでしょうか?」


        聖姫ミリア・アインハルト


          彼女に癒せぬ傷なし

          彼女に贖える魔なし


          全ての者を癒やし

          全ての魔を払う


          彼の者誠の神の子なり


ミリア・アインハルトはアインハルト王国の王位第一継承者であり、その生まれ持った美貌や知力、権威から神は彼女に三物を与えたと言われた人物である。パヌーヴァ神から特に愛されているとされ彼女が五歳のころにはアネルの官位を与えられていた。アネルとはその国一番の神官位に与えられる称号である。人魔対戦時には神術によってサポートとして活躍しどの戦場においても彼女なくして英雄たちは生還することはできなかっただろうと言われ大戦後の現在は王位継承者として国の復興と発展に力を注いでいる。


「いや、でも似たようなデザインの指輪くらいその辺の店に売ってるだろ?」

「いいえ。そんな指輪を販売していたら不敬罪を問われます。それほどまでに由緒正しい指輪なのです」

アサギは話の展開がまずいと冷や汗を流し始めた。これ以上余計なことは言わないほうが良さそうである。

「…じゃあ、俺の勘違いかも」


フォルムはそんなアサギの態度を察したのかにこっと笑ってみせた。

「ああ、もしかしたら変な誤解を与えてしまったかもしれませんが、もしかしてアインハルト王国に居たことがあるんじゃないですかって聞きたかっただけですよ。あの方は王族ですので国民の前に姿をお表しになることがありました。勿論その時も指輪はつけているのですよ。なのでアサギさんはアインハルト王国にいたことがあり、その際聖姫様をお見かけしたのではないかと」


アサギはそう聞いてほっとした。

「確かにアインハルト王国にいたことがありますね。フォルムさんの言うとおり多分演説の際にミ…聖姫様が身につけていた指輪を見たんだと思います」

「あはは。やはりそうですか。そうなんじゃないかと思っておりました」


フォルムは笑った顔のまま話を続けた。

「ああ、そういえば、言い忘れていたのですが、公の場でミリア様がお付けになる指輪はアンサッシュの円環ではありません。アネルの官位を示すデザインも全く異なる、銀色の指輪をなんですよ」

フォルムはくっくっくと笑っている。アサギは何かを見透かしたその様子を見て彼に敬語を使うのをやめた。

「…あんた、実は嫌な奴?」

「私にその気はないのですが、よく腹黒と言われています」

「無自覚なのかよ。あんた絶対腹黒だから、自覚しておけ」

「ははは。覚えておきます。それでは改めて質問です。貴方は何者ですか?」

「…」


それから暫く目線を合わせたままお互い何も発しないまま時間が過ぎていった。

「…さて、10分経ちましたね。アサギさん、貴重な時間ありがとうございました。またお話をさせてくださいね」

「どうかな。忙しくてその時間が取れないかもしれないな」


アサギは面倒くさそうなのに目を付けられてしまったと溜息をついた。


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