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混雑する店

 冒険者カフェ”ウィリムス”はその日も大変混雑していた。

 ただ、その客層はアサギにとって予想外であった。


 この街はとにかく耳が速い。噂の類などあっという間に広がってしまうのだ。

 なので当然アサギが今まで治療できなかったエッジの足をいとも簡単に治療したという噂が流れた。

 それを聞いた怪我人や病人がウィリムスに転がり込んできたのだ。


 想定外の客にアサギは困惑した。

 そういったことはきちんと病院で見てもらった方がいい。

 そう説明しても、やって来た客にはなかなか納得して貰えない。中には怒り出す者もいた。

 仕方がないので病状から効果がありそうな薬草や薬といったものを売り渡してやっていたが…限界がある。

 そもそも置いてある薬草や薬は冒険者向けの即効性の高いものばかりである。

 なのに押し寄せてくるけが人や病人達。今日はその人達の対応で追われていた。


「面倒になってきた…」

 だって、うちは病院じゃないし。

 エッジの足の呪いは昔同じように治療したことがあったからできたことである。

 ぶっちゃけ治療もやろうと思えば出来る。が、自分のやり方では副作用が起こる懸念を拭いきれず、そうなった場合の責任は負えないのでやりたくないのだ。

 簡単な擦り傷を魔法で治療することであってもアサギは幾許かの抵抗がある。だから先日エッジに付けられたドルチェさんの傷の治療も薬草で行った。


 例えば擦り傷を治すという行為は現象を考えると魔法によって無理矢理細胞成長させて傷口を埋めているという仮説を立てていた。

 なのでこれ、将来的に癌になりやすくなるんじゃないか?とアサギはそんなことを考えている。


 そういった副作用がアサギの予想しない形で現れる懸念があるため、なるべく自己治癒で治したほうがいいと思っているのだ。


「エッジさんの足の件、アトラスに正直に話さなければ良かったな」

「ん。アサギはもう少しあと先考えて行動したほうがいい」

「そうですね。アサギさん、考えていそうに見えて意外と大雑把ですよね。」


 レイニーとアリサにそう言われてアサギはバツが悪そうに頬をかいた。

「自分よりも脳筋のやつがいる場合は不思議と冷静にやれてたんだけどなぁ。今はどうも、考えるよりも先に体が動いちゃうんだよな…」

「ああ、でも一面では些細な事は気にしない、おおらかっていうイイ一面もありますよだから私はここで働けているわけですから」

 と、アリサがフォローしたところで入口付近が騒がしくなった。


 みるとエッジが入ってきたところであった。

 以前のように泥酔した様子もなく、背筋はピンと伸び顔は晴れ晴れとしていた。


「よう。大将 」

「た、大将…?」

「俺の大恩人だ。今後はそう呼ばせてもらう。

それで大将、俺に最適なクエストをお願いしたいんだが」


 アサギは慣れない呼び方とクエスト依頼に驚いた。

「その呼び方はしっくりこないっていうか普通に呼んで欲しいんですが…まあいいです。それより、うちはDランクのクエストまでしか斡旋できないんですけど。確かエッジさんってAランクなんですよね」

「もちろん知っているさ。俺は大将に何も礼が返せていないからな。仕事を請け負うことで返すことにした。当然、リハビリという意味もあるがな 」


 そういって自嘲気味に微笑んだ。


 エッジにクエストを請け負ってもらえるのはとてもありがたい。

 エッジがきちんとしたクエストを請け負うのは久しぶりのようだが、アサギの見た所それでも酔っていない時のエッジは少なくでもBランクの実力は有しているように見えた。


 ちなみにAランクの冒険者がEランクの仕事を請け負ってはいけないという決まりはない。

 ただ、実力に見合った報酬が得られることがないため請け負わないだけなのだ。


「そういうことならお願いします。このレッドグマーの討伐、期限が短いんですがお願いできますか?Dランクの仕事でも高難易度のものですし、リハビリにもちょうどいいと思います」


 渡した依頼書に目を通すエッジ。

「アルト山のほうか。確かにリハビリにはちょうどいいな。この依頼受けされてもらうぞ」

「助かります。それではよろしくお願いします。あ、そうだ。あと二つほどお願いが」

 アサギはポンと手をたたき、何か思いついたように言った。


「ん? なんだ?」

「一個目なんですが、この街で二度と暴れたり、物壊したりしないよう一筆誓約書を書いていただけませんか?そうしないと毎日ブツブツ文句言う奴がいまして」

エッジは真面目な顔でコクリと頷く。

「ああ、二度としない。だからその誓約書は喜んで書かせてもらう」

ありがとうございますとアサギはいうと2つ目のお願いをする。

「2つ目なんですが、俺が呪いを解いた話なんですけれど、それ病院とか寺院とかで治療を受けたことにしておいて貰えませんか?」

「な、なんでだ?」

 エッジは困惑した顔をした。


「…まあ、今更なんですけど。ほら、今日体調悪そうな人とか来ているでしょう?

これ、あの話のせいなんですよ。呪いの治療とか傷の治療がごっちゃになっている人がいる上に、うちは病院じゃないので少しでもそういう客層減らしたいんですよ。そういう人は然るべきところで治療を受けて欲しいんです」


 確かに今更であるし、ただの思いつきではあるが別の噂が流れれば今よりはうちに来る人は減るだろう。 

 それに治療を受けた本人の口からうちは関係ないと言ってもらえれば尚更である。


「…り、了解した。なるべく大将に迷惑がかからないように善処しよう」


 エッジは了承したものの、困惑しきったその顔はきっと言っても効果がないだろうというなという顔であった。


「それじゃ、大将。俺は早速帰って準備に取り掛かる。」

「はい。よろしくお願いします。一人でも大丈夫だと思いますが、一応こちらでも仲間になってくれそうな人を探しておくので出発する前に一応うちに寄ってくださいね」

「…悪いな。よろしく頼む」


 今のところ、当然といえば当然だがエッジはパーティーに所属していない。

 なので今のところ単騎での仕事となってしまう。

 そういった人を助けるのも冒険者業務の一環である。

 パーティーを組めない人達を支援し、一人では無理な仕事もこなせるように人員を斡旋するのだ。

 

 久しぶりのきちんとしたクエストを請け負い気分が昂揚したエッジは意気揚々と店を出た。

 直後、大声が聞こえてきた。

「あー!フォルム様! あの方ですよ。あの方が治療を受けた方です!」

「あー、あいつね。普通に歩いてるわね」

「あ?」


 大声のするほうを向けばそこには先日店で会った2人の少女と見知らぬ男がいて、白髪の少女が自分を指差していた。


 つい癖で睨みをきかせてしまったが、それに意に解することなく男が近寄ってきた。

「つかぬことを伺いますが、あなたが奇跡の力を体感されたというエッジ・ハイドさんですか?」


 そう言われてエッジはハッと気づいた。

 …噂を止めたいならこの少女らとあの時の男にも口外するなと言っておかなければならないのでは?

 エッジは相当いい加減な大将に呆れた。ここは自分が大将のフォローのため芝居を打たなければならないだろう。

「…なんのことだ?何を言っているかさっぱりわからない。この足はパヌーヴァの神殿で治したんだ」


と、その言葉にすかさずバーチェがツッコミを入れる。

「私達あんたの足が治った時現場に居たんだけど!? 流石にそれは無いんじゃない!?」


そういえばそうである。彼女たちは現場を見ていたのだった。

馬鹿丸出しなことを言ってしまったエッジは顔を赤くして言い訳をした。


「う、うるさい!あれは…双子の兄だ!!」

と余計に苦しい言い訳をする。

「嘘つくならもっとましな嘘をつきなさいよ!」


「と、とにかく!俺は大将に治療なんて受けたという話は広めるな!

ああ、だが先日はあんたらにも迷惑をかけて本当に申し訳なかった。後日あの御仁にも直接謝りに行かせてもらう。いいか!絶対に広めるなよ!」


 いとも簡単にフォローに失敗したエッジは逃げるようにその場を後にした。


 取り残されたサーニャたちはぽかんとしていた。

「…なんだったんですかね?」

「さあ? なんにしろ、アサギさんにお会いするのが目的です。さあ、入りましょうか」


 フォルム神官はウィリムスの扉を開けた。


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