出張帰り
ウィリムスに戻るとアサギ達は早速アリサの荷物を荷解きした。
量はそれほどでもなかったが、荷物をきっちり整理しようと思うとそれなりに時間が掛かる。
アリサが少し疲れたため、今は休憩中だ。
アサギはアリサと一緒にお茶を飲んでいた。
アリサは緑茶には馴染みがないらしく、アサギの入れた緑茶を一口飲んで渋い顔をしていた。
やはりこちらでは紅茶のほうがメジャーだ。
だが紅茶はレイニーに入れてもらうのが一番なため、自分で作る場合はやはり緑茶に限る。
日本人だしな。
のんびりしているとそこに買い出しに行っていたレイニーが帰ってきた。
荷物を大量にぶら下げている。
「ただいま」
「よう、お帰り。遅かったな」
「買うものが多かったんだから当然でしょ。貴方、少しは配慮しなさいよね」
レイニーの後ろからナナギが顔を出した。
彼女も大量の紙袋をぶら下げている。
「あれ、ナナギ? お前も一緒か。出張はもう終わったのか?」
「ええ、今日!帰ってきたところよ。本当は午後は休みの予定だったのに…」
よくよく見れば以前来た時と違って今日は仕事服を着ていた。
一見執事服のようなその仕事着は凛々しいイメージのナナギに非常によく似合っている。
ナナギはウフフフとを頬を引き攣らて笑った。
「ずいぶん楽しくやってたみたいじゃない。
おかげでこっちは仕事が増えたわ。」
「は? なんで商工会の仕事が増えるんだよ」
「アトラスが商工会に相談が来たそうよ。エッジの件で」
今日の午前中、唐突にアトラスの重役が商工会に訪問した。
どういうわけか危険人物のエッジの足が治ったらしいので今後の対応策を相談したい。とそういう内容だったらしい。
今まではエッジには近づくな!というのが基本対応であった。近寄らなければ足が悪いエッジには手の加えようが無かったのだ。
だが、今後は違う。
そのため、今後は商工会と連携して被害がでないように対応していきたい。
具体的には逐一彼の位置を把握しておき、問題が起こった時にすぐに対処できるようにしておいきたい。
また可能であればなんとか街から追い出したいが何か方法はないだろうか。
といったそんな相談であった。
商工会は初めエッジの足が治ったという話を信じなかった。
一年以上も患っていた足が、治るわけがないと。
だが、事情を聞くと例によってあのアサギ・シロガネの名前が上がってきたではないか。商工会は以前アサギと揉めたことがあるため(主にナナギのせいだが)彼の得体のしれなさは重々承知している。
これは商工会でも把握しておく必要がある。
さしあたっては直接本人に聞いておくべきであろう、とそういう話になった。
しかし、相手はアサギ・シロガネ。
商工会のメンバーはアサギに関わると面倒事になると経験上わかっていた。
じゃあ誰が確認に行くのか。
そういう話になったところでタイミング良くナナギは出張から帰ってきた。
あの店はナナギさんの担当みたいなものだから。
良かったな。仕事中にレイニーに会えるぞ!あっはっは!
流石会長!私達にできない仕事をやってくれる!
レイニーちゃんによろしく~!
出張から帰ってきたばかりで疲れているというのに商工会のメンバーはナナギに仕事を押し付けてきたのだ。
そして道の途中で偶然レイニーに会い、荷物運びを手伝って今に至るというわけだ。
「出張から帰ってきたばかりでいきなりよ!しかも、おみやげを渡し終わった瞬間に!」
ひどいわよね!と職場の愚痴をあらかた吐き出したのか、ナナギは本題に入った。
「それで、確認するけど本当に貴方が彼の足を直したわけ?」
「そうだな。俺が直した」
「…前からおかしな奴だとは知っていたけれど、そんなことまで出来るのね。王都の医者でも匙を投げたって話なのよ」
「たまたまだよ。あれは、呪いの類だ。医者では直せないのは当然だ」
それを聞いてナナギはやっぱりと頭を抱えた。
エッジが危ない奴であることは当然知っている。
「しかし、あんな問題ある人の弱点を取り除くなんて…故意じゃないにしても何故貴方はいつもいつも問題を起こすのかしら…」
「いや、毎回言ってるけど俺のせいじゃないだろうが。それにエッジさんの件はたぶん大丈夫だって」
「何を根拠に言っているのよ!」
アサギはナナギに根拠なるものを上げた。
昨日、アトラスの取り調べが終わったあと
…世話になった。この礼はいずれ。
そう言っていた彼の姿と瞳はとても悪人には見えなかったこと。
そして、彼にかかっていた呪いのこと。あれは人格さえも歪めるものだ。
「…はぁ。そう言うなら、いいわよ。じゃあ早速この間の手伝いのお礼を返してもらうことにするわ」
ナナギがびしっとアサギを指さして言った。
「貴方が責任をもって、エッジが二度と暴れないようにしなさい」




