プロローグ
この話は何でも雑貨店ウィリムスとその周辺を書き直した作品です。何でも雑貨店ウィリムスと同様の人物が登場しますが、設定がいろいろと異なっておりますのでご注意下さい。
グリゴレ歴847年。
この年、人類が存亡を賭けた人魔大戦と呼ばれる戦があった。
事の発端は鉄の国グランクライム帝国。
その帝国の北部には魔界と呼ばれる地域が広がっていた。足を踏み入れたものは誰一人帰ってくることが無く地形も全く把握されていない完全なる未知の世界。その魔界から何の前触れもなく魔物の大群が侵攻してきたのだ。
当時世界一の軍事力を誇っていたグランハイム帝国は守りの薄い北部へ即座に軍を展開し対処にあたった。
開戦当初は魔物の大群に唖然とするも魔物たちは単調な攻撃しかせず、なんら苦戦することもなく休日を取って遊びに出かける余裕さえあった。しかし、時が経つにつれて徐々に苦戦を強いられるようになっていった。
苦戦を強いられた理由は2つある。
1つめは異種族の魔物同士の連携だ。
単調な攻撃しか繰り返さなかった魔物たちは異種族の魔物と手を取り合うようになり、戦術的で洗練された部隊へと変化していった。通常種の違う魔物は連携を取ることがなく、このことは軍人らを戦慄させた。
いつしか効果的だった作戦は功を成さなくなった。
2つめは魔物の数である。
何十、何百万という魔物を倒したにもかかわらず魔物の数は一向に減ることがなかったのだ。倒していけばいずれ数が減るだろうと軍上層部は楽観視していたもののひつ月経っても二月経っても減る様子が見られない。
昼夜問わず押し寄せてくる魔物たちに兵たちは疲弊していった。
そして気がつけばいつしか帝国の国土の半分は魔物で占拠されてしまった。
たかが魔物退治と高をくくっていたグランクライム帝国はこの段階でようやく周辺国へ助けを求めた。
しかし、救助要請を受けた周辺の国々は魔物の侵攻よりも高い軍事力を誇るグランハイム帝国のほうを恐れていた。
そのため周辺国は帝国の国力の低下を狙い、あれこれと理由をつけて援軍を送ることはなかった。
救援要請から一月後。首都キンベルは魔物達で占拠され、グランクライム帝国は滅亡を迎えることになった。まさか首都までも制圧されるほどの勢力とは考えてもいなかった周辺国はこの知らせに顔色を青くさせた。
そして魔物達の侵攻はグランクライム帝国で終わらなかった。
魔物たちはグランクライム帝国に隣接していたアインハルト王国,サンバルティン帝国,ファスタリア王国にもそのまま侵攻を開始したのだ。
各国はこの報告に凍りついた。今までにない事態に慄いた各国は国という枠組みを超え連携してこの事態に対処する非常事態同盟を結成し対処に当たった。
強い危機感のためか各国の連携は驚くほどうまくいき、何百万という魔物を撃退することに成功した。
けれども魔物はいくら倒しても減る様子もなくまた侵攻を止める様子も見られない。
日に日に人類は疲弊していき、やがて都市の幾つかが壊滅しだした。
このまま滅びを待つしかないのか・・・誰もが諦めかけた時、人類に一縷の希望がもたらされた。
賢者シリウス・フォーレが古代の魔術書を解析し、魔物の王、すなわち魔王を討伐することにより魔物は侵略を止める事を突き止めたのだ。
彼は、魔王は人型をした10メートルほどの巨体で、目は赤く光り常に黒い霧上の蒸気を身体から放出している個体であると報告を行った。
そして、まさに報告通りの個体がグランハイム帝国の首都であったキンベルに存在していることをつきとめた。
大群の魔物に侵略されつつ合った各国はこの報告により起死回生の一手として少数精鋭による魔王の討伐作戦を決行。
直ちに各国の猛者達を選定し、その勇者らに全人類の希望を託した。
神撃のアイル・クライン
聖姫ミリア・アインハルト
魔槍のティンテッド・ロンド
鷹目のデューク・フェライド
模倣のアーサー・アイウ
爆炎のファラ・シドラ
暗黒のタリル・ダウル
先見のエリー・ウィンディ
彼らは後に名高い英雄譚として語り継がれるクライムブリッジの戦い、巨人リバイタリフトの死闘をはじめ幾多もの困難を乗り越え、見事魔王討伐を成し遂げた。
魔王討伐により魔物の大群は沈静化。
8人は英雄となり、人類には再び平和が訪れることとなった。
これが今から3年前の人魔大戦の全容である。
しかし、魔王討伐で問題が全て解決したわけではなかった。
統制を失った魔物たちは侵略をやめたものの、魔界へと戻らなかったのだ。
あるものは山へ、あるものは川へ。
各国の至る地域へと散らばっていった。
魔物たちは各地で繁殖を始め、人類に新たな被害をもたらすようになった。
例えば、人に襲いかかる。農作物を食い荒らす。行商路を塞ぐ。水質を汚染する。などである。
これら魔物の被害により、物価は上昇し、食糧や水が不足するといった深刻な事態に陥いることになった。
魔物の被害に困り果てた国々は対策として新しい制度を考えだした。
魔物を討伐した者には討伐した証を引き渡すことでそれに応じた報奨金を出すという、いわゆる冒険者制度を導入した。
これを機に報奨金目当てで魔物を狩ろうとする者達が現れ始める。
また、魔物自体にも素材としての価値があること、財宝を貯め込む魔物がいることなどが徐々にわかりはじめると、数多くの者が魔物の討伐に乗り出していった。
魔物の討伐に行くものはいつしか冒険者と呼ばれるようになり、時代は彼ら冒険者が活躍する時代へと推移していく。
そして、冒険者が活躍するにつれて経済構造にも変化が現れた始める。
冒険者の情報や道具の販売を生業とする人々が数多く現れ、冒険者を中心とする経済構造に変化していく。
冒険者の店は大いに賑いをみせるようになり、逆にその流れに乗り遅れた店は段々と姿を消していくことになった。
冒険者カフェ"ウィリムス"はそんな変わりゆく時代に生まれた店である。
グリゴレ歴850年、兔の月14日。
冒険者カフェ"ウィリムス"のオーナーのアサギ・シロガネと店長のレイニー・コットンはいよいよ開店当日を迎えていた。