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尊敬と疑惑の眼差し

 エッジとの一悶着が終わるとレイニーがアサギに駆け寄っていく。

「アサギ、大丈夫?」

 エッジはまだ目頭を押さえて肩を震わせていた。

「俺は特に問題ないよ。それよりもドルチェさん、今日は本当に申し訳ない」

「ああ、俺も大丈夫だ。むしろ面白いもんを見せてもらえて感謝してるよ」


 そういってドルチェは豪快に笑うとそれからエッジに目を向けた。


「それで、店主。事情がさっぱりわからないんだが…ハイドは何しに来たんだ?」

「ああ、俺もいまいち飲み込めてないのですが…どうも昨日エッジさんにした俺の態度?が気に入らなかったみたいで…」

 そうするとガルフからのお祝いのデモンストレーションだと思っていた昨日の件はただの酔っ払いの戯言だったのだ。やっぱそうだよな、流石にお祝いにしては少しやり方が過激すぎるよなとアサギは納得した。


「なんて野郎だ。警察につき出そうぜ」

「いえ、それもちょっと…ドルチェさんさえ納得行くようでしたら、彼の件は俺に預けてもらえませんか?」

「ん?それはどういう…」

 アサギが説明しようとするところに眼を輝かせた少女が割り込んできた。


「アサギ様は高位な聖職者でいらしたのですか!? 先程の神術は”浄化”ですよね!

私小さい頃に一度だけあの神術を見たことがあるんです!

一体どれほどの徳を積めばあれだけの奇跡が起こせるようになるのですか!?」

サーニャがズイズイと身体をアサギに近寄せて興奮気味にアサギに話しかけてくる。

 今日見ている限り大人しそうな印象だったのだが、自分の興味のある分野に関してはそうでもないっぽい。

 そして、不機嫌そうな顔をした少女も視界に入ってくる。


「…さっき、ドルチェ兄を庇った時に使った魔法。何あれ?

 パッチスペルも使わずに無詠唱で作ったでしょう。

 無詠唱であんな硬度の盾創るなんて通常ありえないんだけど。

 神術に魔法まで使うし。あなた、何者?」

 じーっと疑惑の眼差しを向けてくるバーチェ。


「あー、ちょっと一言では説明し辛いというか、なんというか…」

 それぞれ疑問、尊敬、疑惑の眼差しを3人から向けられてアサギはたじろぐが、そんなアサギの様子を見てレイニーはクスッと笑った。


「なんか前にナナちゃんと喧嘩したときと似てるね」

「いや、似てないだろ…」

 なんとかアサギが説明を試みようとすると今度はそこに数人の人影が店内に飛び込んでくる。


「すみません遅くなりました!警察連れてきました!」

「アトラスだ! ハイド!今日こそは大人しく、しろ?」

 アリサと3人の鎧をまとった男達が店に入って来る。


「…そういえば、アリサちゃん、警察呼んでたよね」



「本当にすみません」


「まあ、いいんだけどさぁ。ちょっと拍子抜けしちゃうよね。

そこの子がアサギさんが殺されちゃう殺されちゃうって血相を変えて言うから慌てて駆けつけたんだよ?

ところが来てみればハイドの奴はなんか泣いてるし、何なんだよって感じだよ。

いや、無事だったのはとても喜ばしいことなんだよ?

っていうか店主さん。謝ってばかりいないで、もっと詳細な経緯を説明してもらえないか?

あと、そこの旦那も怪我させられたって話なのにこんなの日常茶飯事だから気にしてないって本当にそれでいいのかい?

それとハイド、君もいい加減泣くのを止めてそっちからも説明してくれ!台の大人が泣きすぎだ!」


やってきたアトラスの男達にひたすら平謝りするアサギとレイニー。

 小一時間ほど説教と事情聴取が行われていた。

 現場にいた全員に聴取が行われたため、当然バーチェ達も付き合わされており、帰ることができなかった。

 状況が全て把握できるまで誰も返さないとアトラスの男達は言ったが当事者のエッジがなかなか回復しないためアサギはどうにか話をつけようやくバーチェ達だけは帰宅が許された。


若干疲れ気味の表情でアサギがバーチェ達に謝罪する。

「皆さん、今日はご迷惑かけてすみません。色々と疑問に思うこともあると思いますが、今日の所はお引き取り下さい。

 もちろん飲食代は頂きませんので。

あとアリサ。あとは俺とレイニーで話をするからももう休んでいいぞ」

「ちょっと。当然あとで私達にも説明してもらえるんでしょうね?」

 バーチャの言葉に手を挙げるだけでアサギは返事をしなかった。


「…ムカつくわ。本当になんなのよ。あいつは」

「何いっているのチェーちゃん!あの方は聖職者よ!凄いわ!こんなところで”浄化”を使える聖者様に出会えるなんて!ああ、ようやくフォルム様の信託の意味がわかったわ。この出会いはパヌーヴァ様のお導きだったのね!」

「サーニャ。興奮しすぎだ。でもあの店主、絶対只者じゃ無いよな。ま、俺はそんな事より今日はもう寝たいが…」

 心にモヤモヤとしたものを抱えながら彼女らは店をあとにした。


 そして、残った店内では。

「ーでさ、俺たちだって暴力行為が見過ごされてる現状はどうにかしたいんだよ。でも人出が少ないのにどうやって治安を維持しろって話なんだよ。だいたいー」

「…早く風呂に入りたい」

「…明日、休みで良かった」

 アサギ達の夜は状況説明をするよりも愚痴を聞かされて更けていくのであった。

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