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治療

 何でこんな時間にエッジさんが来るんだ?

 アサギは当然疑問に思った.

まあこちらとしても昨日の開店祝いのお礼が言いたかったのだ。

わざわざ来てくれるならありがたい。


 アサギはエッジに近づくと頭を下げた。その様子にエッジは怪訝な表情を浮かべる。

 「エッジさん。昨日はどうもありがとうございました。今日は貴方のお陰で店は大繁盛でしたよ」


 開店祝いを渡したつもりなどないエッジはそれを聞いて怒りが爆発しそうになる。

 「それは良かったな。だが、その繁盛が続くなんて思うなよ」

 「それはそうですね。当然日々頑張ってやってくつもりですよ」


 エッジの言葉を叱咤激励だと取るアサギ。

 アサギの言葉を挑発として受け取るエッジ。

 2人の会話は成立しているようでしていなかった。


 「それで、エッジさんの要件ってなんですかね? あ、せっかくなので夕飯でも食べながら…」


 瞬間、エッジは先日よりも鋭く早いやりの一撃を繰り出した。


「うおっ!」

その突きを間一髪で交わすアサギ。

エッジは十分射程圏内に入っていたはずの攻撃が躱され舌打ちをする。

「昨日の続きに決まってるだろ!」

「え!? 昨日の続きって…あれは演技だったんじゃなかったんですか?」

「んなわけあるか!」

会話を交わしつつもエッジは攻撃の手を緩めることはない。しかし、アサギは攻撃を交わし続ける。


「てめぇ…やっぱり只者じゃねえな」

この近接距離からの攻撃で丸腰の相手にかすりもしなかったのは初めてだ。

「いや、その、こういってはなんですが、エッジさんの左足のせいだと思います。下半身の力が全然乗ってないので避けやすいというか…」


エッジの身体からは殺気がみなぎっていた。

 その目には明確な怒りが浮かんでいるのがわかった。


 あ、やばい。

 これ、完全に地雷を踏んだ。

 当然のことといえば当然のことだ。アサギは知らなかったとはいえエッジは1年近く足の怪我で悩まされていたのだ。無遠慮な発言をしたアサギが悪い。


「てめぇ。心底俺に殺されたいらしいな。朝日が拝めるなんて思うなよ」

「い、いや待ってください。俺は事実を言っただけで…」


 更に余計なことを口にしたアサギに完全に切れてしまったエッジはさらに素早い突きを繰り出す。

「ぶっ殺す!!」


 事態の展開についていけずつい固まってしまっていたドルチェだったが、鋭さをます槍捌きにはっとして盾を掲げてアサギの前に飛び出す。

「ハイド、あんた正気か!? 手ぶらの人間に全力の突きなんかかますな!」

「なんだ、てめぇは。邪魔するな!」

「ドルチェさん!? 危ない! 下がって!」


 標的をドルチェに切り替えたエッジは生身の部分を狙って次々に槍を繰り出す。

 ドルチェは先程まで食事をしていたので防具は外していた。

 その隙を狙い、確実に当てに来ている。エッジの穂先は前と同様カバーがしてはあったが鋭い槍さばきで皮膚が裂ける。

「く、くそっ。速い」


 ドルチェが血を流し始めるとレイニー達は事態が深刻な方向へ向かってしまっていることに気づく。

「ちょっと?何あいつ!!」

「ドルチェ兄さん!? ど、どうしましょう!?」

「二人は裏口から外に出てて。私は警察呼んでくる」

「け、警察なら私が呼んで来ます!」


 そうしている間にドルチェは盾に思い一撃を受け上体を崩されてしまう。

「くっ!」

「寝てろ」

 そのままドルチェの喉元に一撃が入るかに見えたが、その直前に透明な板のようなものが出現し、その一撃を止める。

 それは、アサギが魔法で作った防御壁であった。


「ドルチェさん、かばって下さりありがとうございました。俺は大丈夫ですので、下がってて下さい」

「てめぇ…」

「流石にやり過ぎです」

 エッジはアサギに対して容赦の無い突きを次々と繰り返す。


 がその全ては先程ドルチェを守った透明な壁で阻まれてしまう。

 通常魔法を発動するには詠唱が必要である。

 が、アサギはどうみても詠唱しているように見えない。

「な、何だと?」


 アサギは話し聞いてもらえそうもないので、アサギの周囲に合った壁をそのままエッジの周りに展開し身動きを取れなくする。

「暫くそのまま頭を冷やして下さい」

「ふざけるな!ここから出せ!!」


アサギはひとまず暴れようとするエッジを無視してドルチェに向き直って怪我の確認をする。

「良かった。大きな怪我はありませんね。俺のためにありがとうございました。」

ドルチェは照れくさそうに頭をかくと申し訳無さそうな顔をした。

「ははは、こっちこそ悪いな。店主が丸腰だったから慌てて介入しようとしたが、どうやら必要なかったようだな」

 アサギはレイニーが慌てて持ってきた傷薬を塗りつけているとふと、かすり傷からわずかながら黒い霧が吹き出していることに気づいた。


「これは…」

「ん?どうした?」

慌ててアサギは取り繕う。

「いえ、どうもあの槍呪いの効果があったようで…でも大丈夫です。すぐに治療しますよ」

「ちっ、呪いつきかよ。だが、呪いは神術じゃないと直せないだろ…」

 そう言うドルチェの傷口に右手を添える。


呪い(break)解除( a spell)


 傷口が白い光りに包まれ黒い霧がでてきて霧散していく。

「驚いた…。店主は神術まで使えるのか。あんた一体何者…って店主、ハイドからも霧が出てるぞ」

 その言葉に後ろを振り返るとエッジも白い光りに包まれ、特に左足からも黒い霧が霧散している。

アサギはその様子を見て、ああそういうことかと納得した。これは、ただの呪いじゃない。

「その傷、そのままじゃ治らないと思いますんで、ついでに治療しておきますね。」


アサギが先ほどと同じ言葉を呟くと、ハイドの足から大量の黒い霧が拡散していく。

「な、なんだ?」

今まで常に感じていた違和感と痛みがすーっと抜けていくのをエッジは感じた。



 アサギはドルチェをエッジから離すとエッジの周りに展開していた壁を解除する。


「……」

 エッジが恐る恐る左足を上げてみると、自分の思ったように左足が上がっていく。

 左足に体重をかけてみても支えられる。

 歩いてみると何の問題もなく真っ直ぐ歩ける。

 一年以上悩まされていた痛みもしびれ、違和感もない。


「う、動く。足が動く!」

エッジはこみ上げてきた熱いものを抑えられずにそのまま床に突っ伏して泣いた。

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