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ガルフからのお祝い

 ウィリムスの開店2日目。

 午後も午前に引き続き割り合い盛況であった。

 午後になるとカフェはもちろんのこと、若干ながら冒険者業務で足を運ぶ人も増えてきた。

 とはいってもまだクエストが1つも成立していないのだが。


 今、店内ではプレートアーマーを着込んだ男がアサギと話をしている。

「店主。この薬草一束で銅貨1枚って高すぎじゃないか?一桁間違えるぞ」

「いやいや。それはただの薬草じゃないんだよ。

傷薬の代わりになるだけでなく、ビー系の毒とかスパイダー系の神経毒にも効能のある薬草でな。

開店記念でかなり安くしてある。

お買い得だぞ?」


 アサギがそう説明すると男は怪訝な声を出した。

「俺は冒険者になってから1年になるが、そんな薬草聞いたことないぞ」

「まだあんまり出回ってないからな。

もうちょいしたら多分流通してくると思う。

騙されたと思って買ってみ?

青銅貨9枚にまけてやるから」

「うーん…」


 アサギには実績というものがない。

 そのため、こういった市場にあまり出回っていない商品を進めても信頼されない。

「OK。わかった。今回は普通の薬草と同じ値段で売ってやるよ。

その代わりこのクエスト受けてくれないか?」

「Eランクのスカイスパイダーの討伐クエストか。

今更Eランクを受けるのはちょっとな…。

このクエストこなせそうなやつ紹介するのでは駄目か?」

「それでも構わないぞ」


 今すべき事は顔を繋ぐことだ。

 金銭的な利益の追求は気長にやっていくしかない。

 交渉はうまくいき、男は明日にでもEランクの冒険者を紹介すると行ってアサギに青銅貨1枚を渡して出て行った。

 ちなみにこの世界の通貨は青銅貨1枚で百円、銅貨1枚で千円、銀貨1枚で一万円、金貨一枚で十万円くらいというのがアサギの感覚だ。

 なので先ほどの薬草は百円で売ったようなものだ。

 だが、その値段だと利益は全くない。

 商売はなかなか結果が出ず難しい。

 けれども、だからこそ楽しいのだ。


 そんなふうに接客を続けていると急に店の入り口がざわつき始めた。

 なにか起こったのか?とアサギがそちらを見る。

 と、背中に長い槍を背負いボロボロのマントを羽織った赤い顔の男が店内に入ってきたところだった。

 アサギと目が合うと左足を引きずるようにしてふらふらとこちらの方へ近づいてくる。



「おい、あれって…」

「暴虐のエッジじゃないか。なんでここに…」

「しっ!聞こえるぞ。」


 ひそひそ話が聞こえてくるが、アサギはこの人物について全く知らなかった。

 暴虐のエッジ?誰それ?

 とりあえずやってきた男にアサギは挨拶をした。


「いらっしゃい。本日はどんな御用で?」

 近寄ると音家からは酒の臭いがした。

 顔も赤く相当飲んでいるようだ。

「よう。あんたが店長かい?」



「いや?店長はアッチ。俺はオーナーだ」

「ああ?なんだそりゃ?どっちがえれぇ奴なんだよ」

「俺だな」


 男は何が面白いのかヒヒヒと笑い始める。

 口臭がめちゃくちゃ酒臭い。

 駄目だこいつ。

 ただの酔っ払いだ。



「あの、なにか可笑しなことでも?」

「いや、なに。これからお前さんに不幸なことが起こると思うと可哀想でよぅ。」

「はあ??? そうですか?」

 何言ってんだコイツ。

 意味がわからん。


「意味がわからないって顔してるな。俺はエッジ・ハイド。

俺の名前、聞いたことくらいあるだろ?

あんたの商売敵にこの店に開店祝いを届けてやるように頼まれてねぇ。」


 エッジという男がヒヒヒと笑っている。

 客達はざわめいて皆こちらに注目していた。


 レイニーは心配そうにこちらを見ている。

 どうやら、この男のことを知っているようだ。

 対してアリサはきょとんとしていた。

 どうもこっちは俺と同じように現状が理解できていない様子だ。


 しかし、酔っぱらいが開店祝い??どういうことだ?

 アサギはそれが意味することを全く理解できていなかった。 


「はあ、それはどうも。それで、開店祝いというのは?見たところ槍に見えるんだが?それをくれるのか??」

「残念だが、俺がやる開店祝いはこれだよ!」


 エッジは槍を一瞬で構えるとアサギの鳩尾に叩き込んだ。

 槍の穂先はカバーがしてあったため殺傷能力はないだろうが、当たれば悶絶する強烈な突きであった。


 が、アサギは叩きこまれた槍を難なくつかみとった。

「??? …やっぱりこれが開店祝いだったのか?結構な業物っぽいなこれ。ありがとう。頂いておくよ」


 エッジはこの一撃を止められたことに心底驚いた。

 酔っていたし手加減していたとはいえ、今まで槍をこうも簡単に掴まれたことは今まで無かった。

 しかも押しても引いてもびくともしない。


「馬鹿野郎っ! ちげーよ!!! 離せっ! 離しやがれ!!」

「??? はい」

ちょうど槍を引くタイミングでアサギが槍から手を離したためエッジは後方に倒れこんた。


「て、てめぇ…!」

エッジは怒りのこもった目をアサギに向けた。


 うん。やっぱり酔っぱらいだな。

 話がさっぱりわからん。

 帰ってもらおう。


「あー悪いけど、またシラフの時に来てくれ。

開店祝いはその時また貰うから。

な?今日は帰って酔いを覚ませ」


 アサギはそうというと男の首根っこを掴んで店の外にポイっと放り出した。

 エッジは暴れたが、アサギは全く意にも介さなかった。


「ちくしょう!覚えていろよ!!」


エッジは足を引きずりながらも早足で歩いて行った。


「全く…何だったんだ?」


 そう言ってアサギが店内に戻ると、アサギは客達から視線の集中砲火を浴びた。

 皆驚いたような顔をしてアサギを見ている。

 レイニーも心底驚いた顔をしている。


「…何だよ」

暫くそのまま静まっていたがすぐに彼らはわっと歓声を上げた。


「あんた、すげぇな!」

「素敵!かっこいいわ!」

「エッジの野郎をこうも容易くいなすなんて…!」


 客達の歓声は鳴り止まない。

 レイニーはびっくりしたような、ほっとしたような表情で、アリサは凄いです!みたいな表情でこちらをみていた。


 本当に何なんだ…。

 誰か説明してくれ…。


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