時空を超えて
そこはもう空の上だった。
座席にシートベルトで固定された体と窓の景色からそう悟った。
隣の座席にはルイがいた。
僕の視線に気づくとにっこり笑って
「大丈夫?」
と余裕たっぷりに聞いてきた。
「もう、ついたのか。」
僕は信じられないかった。
「うん。ここがその問題の飛行機。」
ルイは備え付けのイヤホンでラジオを聴いていた。
「おまえ、なんでいつもそんなに冷静なんだよ。」
僕はまだ夢でも見ているような感じだった。
話には聞いていたとはいえ、実際現実にタイムスリップなんっていわれても信じられるわけがない。
「慣れカナ♪もう何回目かなんてわかんないほど飛ばされてるからね。」
ルイの明るい声がなぜか言葉の裏に深みを持たせた。
そうゆうものなのか?
僕にもこれからわかるのだろうか?
僕は下を向いてうつむいているとルイが声をかけてきた。
「ユイナ、ああ見えて結構コウのこと気に入ってるよ。」
ルイは話題を変えるかのように突然、今でも部屋で絵を描いているであろう彼女ののことをふってきた。
「俺が一人の時はいつも適当なんだの!この前なんか喧嘩して、女子高の更衣室に飛ばされたんだから!!」
ルイはその後もユイナは性格が悪いだとか、ユイナはすぐ餌付けできるだとか、
ユイナユイナとうるさかった。
すると一つの疑問が生まれた。
「なあ、ルイ。お前さっきのやつのこと好きなのか。」
「はあ?」
ルイが間抜けな声を出す。
「さっきから、あいつのことしか話してないから。」
僕は何の悪気もなくただ思ったことを口にした。
しかし、なぜかルイからは大きなため息が聞こえた。
「・・・・。ちがうよ!」
ルイはこれ以上追及されると困るといったように声を張り上げた。
その瞬間一気に他の乗客の視線がルイと僕に集まった。
ルイはやってしまったといったように口をあんぐりあけていた。
僕は知らないふりをして目の前にある緊急着陸の際のパンフレットに目を通した。
しばらくして、アーモンド臭のようなにおいが機内から漂ってきた。
僕は機内サービスか何かだろうとあまり気にしてはいなかった。
しかし、ルイは眉をひそめ、シートベルトを外し、何も言わずトイレのほうに向かって歩みだした。
彼の後姿を眺めていると、振り返った彼と目があい。その瞳で「来い」と訴えられた。
僕もシートベルトを外しトイレのほうへと向かう。
ルイはトイレの扉を背に銃を構えていた。
さっきの彼とは打って変わってその顔はプロだった。
その様子を見て、この中に重大なものがあることを察した。
僕は入口のほうに気を配りながら、乗客が来ないようにみはる。
ルイは黙ってうなずく。
僕もそれに応じてうなずいた。
そして、ルイは勢いよくトイレの扉を開いた。
中に入るルイ。
しかし、すぐにでできた。
彼の思い込みだったのか・・・・。
僕は入口あたりから、彼に声をかける。
しかしルイの応答はない。
ただ目を紡いで下を向いていた。
不思議に思い彼のもとへ駆け寄る。
そして扉を開けた。