ユイナ
卒業して晴れて僕は正式な下僕となった。
そしてその記念すべき初業務は、僕の心が染まってしまったことを自分自身が思い知ったものだった。
当時の僕は、高校生のうちから銃のスキルを高く評価されていたがまだ人に直接手を下したことはなかった。
そのためか、上のものはルイとの合同で作業を行うことを命じた。
同期とはいえ、以前も働いていた経験のあるルイと一緒となると不本意だが罪悪感が多少和らいだ気がした。
僕はこいつほど人を殺してはいない。
僕はそう思って自分を正当化し続けた。
ルイとの初仕事は先月起きた飛行機事故についてだった。
まだ新人呼ぶレベルの撲にとっては重い案件だ。
僕に具体的な指示や方針を教えてくれる者はいなかった。
改めて信頼の薄さをに気づく。
彼らは、僕が死のうが死ぬまいが関係ないのだ。
ルイは僕の腕を絶賛してくれた。
しかし、現場の雰囲気を知らない僕は、彼の足手まといになる気がした。
そのため自分から彼の補佐につくことを申し出た。
ルイはそんな僕に様々なことを教えてくれた。
そして、一通りの説明が終わると、いよいよ行かなければならない時が来た。
もう、ためらいなどなかった。
ここで射撃訓練を始めたころから「僕」はここに存在していなかった。
撲、清水光輝は遥か彼方に消えてなくなってしまったのだ。
ルイの案内で一軒の家に入る。
二階に上がり右側の部屋に入ったルイの後を追う。
そこにはたくさんの画材に取り囲められた少女がいた。
年齢はおそらく僕らと同じ、もしくは一つ下のノアと同い年くらいだろう。
ルイは僕に彼女を紹介した。
「この子は、ユイナ。僕らのことを安全に現地まで運んでくれるパイロット♪」
彼女は僕になんかまったく興味がないといったように黙々と絵をかく。
「もう、コウの初フライトなんだから、ちゃんとあいさつしなよ!」
ルイはぷうっとほおを膨らましてユイナの顔を覗き込む。
それでも彼女はルイをシカトし続ける。
そんな彼女をみて仕方ないッと言ったようにルイはポケットからあるものを取り出した。
「これ、さっきとんだときに買ってきた。これでいいでしょ。」
そういって彼女の前に棒付きキャンディーを差し出した。
彼女の視線は絵から一気にキャンディーへと走る。
「ほら、こいつがコウ。これからいろいろから世話になるから。」
彼女はルイの話そっちのけでキャンディーに夢中である。
その様子を見てルイがあきれながらいう。
「挨拶もできない子にあめちゃんはあげれません!」
その言葉にしゅんとなるユイナ。
その年でキャンディーごときで一喜一憂できるのは逆に尊敬に値するものだ。
ユイナは意を決したかのように僕に向かって言葉を発した。
「・・・ユイナです。・・・よろしく・・・お願いします。」
その声はノアより低く、彼女よりも大人びていた。
「コウです。よろしく。」
僕はペコっと頭を下げたが、頭を上げると同時に電気が全身を流れるような痛みにさいなまれておまわず床に崩れ落ちた。