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僕らは高卒で下僕(イヌ)となった  作者: 星空 かけら
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藤堂

目をそっと開けると、思わず身震いするほどの強い冷たいかぜが吹いてきた。


やはりコートを着てきて正解だった。


子供たちの笑い声。どうやら公園についたらしい。


ベンチには足を折り曲げ横たわる男がいた。藤堂である。


今回のターゲットだ。


どうやら事件の一か月前の夕方に着いたらしい。


頭に内蔵されている記憶媒体装置から


必要な情報を探し出すかのように先ほどの書類の内容を思い出す。


確か奴は誘拐殺人犯として警察が身柄を拘束された罪人であった。


そう思いつつ観察を開始してわずか五分にも満たない程度に


一人の少女が藤堂の前に走り寄ってきた。


「まずい・・・」


軽く舌打ちをしながらも、ワープしたての鈍った体に気力で力を込める。


胸ポケット忍ばせてあるものを手探りで触る。


幼い頃から愛用しているライフルだ。


そっととりだし急所に向ける。もともと銃の扱いには自信がある。


というよりも僕にはこれしかない。


距離をしっかりと保ちつつ少女への被害を防ぐため


頭のあたりを一撃で仕留めようと人差し指に力を入れようとしたまさにその時


「パパー」


少女は藤堂にそう呼びかけた。


藤堂もまた、その言葉に起き上がり、笑顔で頭をなでている。


正直驚いた。藤堂に娘がいること想定外だったのだ。


二人は手をつなぎ歩き始めた。


すかさず後を追い、ついた先は高級住宅街にそびえ立つ一軒家に着いた。


表札には「藤堂」の二文字。


どうやら自宅を突き止めることができたらしい。


空を見上げるとすっかり星が出ていた。


今日はここまでか。


現地で手配していたレンタカー中で暖房をガンガンとつけ、


定番のシャイニングストアの抹茶ソフトクリームを口にしながら


助手席に置かれた珈琲に手を伸ばし一夜を過ごした。



翌朝、七時三十分。


藤堂は昨日とは違いスーツ姿で足早に家から出てきた。


どうやら駅へと向かっているらしい。


急いで一定の間隔で後を追う。


たどり着いたのとある有名企業。


医療品を主としているが、最近では哺乳瓶やベビーカーなどの


子供用品にも力を入れ実績を上げている企業であった。


藤堂がここに勤めているとはこれまた、驚いた。


僕の年齢でも、知らない人はいないほどの知名度なのだ。


企業のターゲットの情報もほとんど与えらることはない。


自社の徹底的な信頼の薄さには全く感服だ。


建物の中に入り、観察を続けるのも不審に思われるだろう。


仕方がなく車での待機となった。


午後十二時少し過ぎたころだろうか、


藤堂が会社から走って出てきてタクシーに乗り込んだ。


その表情は書類に添えられていた写真と似ていて


目の前のものを追い求め周りが見えなくなるほどに必死で


この世のすべての絶望を吸い込んだように真っ黒に濁っていた。


エンジンをつけ、アクセルをふみ後を追う。


長年の勘であの表情はこのミッションのクライマックスを感じさせた。


落ち着かせるためにラジオをつける。


聞きなれたDJの曲紹介の後に


今では地方の営業に出かけるほど落ちぶれたアイドルの


決してうまいとは言い難い歌が軽快なリズムとコーラスに誤魔化されつつ流れた後、お昼のニュースが流れた。


高校生が大麻の密売に関与していたことや、

40代の男が登山中に遭難し未だに捜索活動がおこなわれているなどといったいつもながらのニュースであった。


そうして耳を傾けているうちに藤堂が乗ったタクシーはスピードを上げ始めたので、間が空き見失いそうになったので


「次のニュースです」


というアナウンサーの言葉を最後に電源を落とした。


追い続けた先は病院で、パトカーが五台ほど停められていた。


話を聞くため車から降りて駆け寄ったがまったく取り合ってはもらえない。


どうやら銃の扱いもままならない下っ端新米警察官は


僕らの存在を知らないようだ。


それもそのはず、僕らは警視庁にとっても、世間にとっても


決して開けてはならないパンドラの箱なのだ。


僕らが動けば未来は変わる。軽くあしらわれ、あきらめかけていた時、


上司らしき偉そうなおじさんが僕の服を頭のつむじからつま先の爪まで


べっとりとペンキを塗るかのように入念にみた。


「ついてこい」


凄味のある腹に響くような声で言った。


部下は動揺し口くじに耳打ちをしあっている。


あまりいい気はしなかったが、無視をした。


病院の中の受付を通り過ぎ関係者入口のドアに手をかけるおじさんが


「学校では上司を敬うということを勉強しないのか」


といやみたらしく僕に聞こえるように言った。


要するに俺にドアを引かせてお前が堂々と入って行くのかっと言いたいらしい。


だから警察は嫌いなんだ。


上下関係などという社会に何の役にも立たないことにこだわっているから、


市民を救えない、安全を保障できない。


だから僕らいるのだ。


僕らの組織を自分の支配下にいると思い偉そうに説教する。


お前らの尻拭いをしてやっているのはほかでもない僕らだ。


心の中で毒を吐きつつ、

「申し訳ございません、以後気を付けます。」


頭を下げドアの開閉を行った。


奴はさも当然のように足を広げ


メタボリックな腹を惜しげもなく前へと押し入れた。


すかさず自分も後に続く。


そこには小学一年生位の女の子が横たわっていた。


隣には新品に近い赤いランドセルに


ワインレッドに固まった血液が全体を覆っていた。



「続いてのニュースです。線路に倒れた猫を助けようとした小学1年生の藤堂凜子ちゃんが電車にひかれ意識不明の重体です。現在も懸命な処置がおこなわれています。以上ニュースをお伝えしました。」



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