僕らの仕事
貴方を嘘で塗り固められた真実の世界へとご案内いたします。
とある町の一角では銃撃戦が繰り広げられいた。未だ犯人を捕まえられないトロイ警察官共は、被害者を増やし続け、平和で住みやすいと評判だったこの町もこれでは何の価値もない。国に雇われたごろつきなどに安全などは保障されない。だからこそ、僕らが必要なのだ。
新しい家族は平和で温かかった。
僕と弟を嫌な顔一つせず受け入れた。
人間というものは、金の額で性格をかえる憎らしい生き物らしい。でも、まあいい。生きる住処は確保した。それにこの家は動きやすい。僕にいちいち干渉したりしない。
それが何よりだった。だから、本当の父と母だと思い込み愛され育った子供を演じる。
弟もそうだ。子供は大人が思っているよりもずっと大人らしく、敏感で、冷徹なのだ。
「御馳走様でした」
お決まりの言葉で夕食を済ませ、足早に自室に戻り着替えを始める。
僕にはあの世間体と札束で塗り固められたような笑顔を見ることだけはどうにも慣れることができないでいた。
それに比べ弟はうまい。
食後の家族団らんには必ず出席し、家の中の微妙に流れる、触れてはいけない空気を一瞬で香りづけする。
まるで僕を招き入れるかのような、さわやかなせっけんの香りをまき散らせて。
びしっとした制服に着替え、その匂いに鼻をつまみ、息を止めながらリビングを通りぬけ玄関で靴を履き、家を出る。
外は静かで、後ろからバットで殴られそうになっても気が付かないほど真っ暗だった。
しかしこの空気の方が家よりましだ。そしてこれから僕が向かう場所ー。
警察庁射撃訓練養成学校夜間部特別進学コース
ここは、血族がおらず満足な食事、家庭環境、学問にありつけなかった若者に、雇用の場を与え、社会的自立を支援する素晴らしい団体である。
そこに到着するには時間は掛からない。
家から数百メートルといった距離だ。
中に入ると国の税金が詰まった自分と同じ制服を着た、同期のルイがいた。
少し耳にかかった茶髪の髪と僕より少し高い身長が彼のふざけた口調を余計に不気味に聞こえさせる。
いわゆるルイは黙っていれば普通なのだ。
ここの組織は個人を特定することの不可能なほんのわずかな情報のみしか流れることはない。
「敵を欺くにはまず見方から。決っして人を信じるな」
これが僕ら飼い主の言葉である。
昔に無理やり吸収させられた知識は無駄な知識ほど頭に残るものだ。
僕はそんなことを考えていると、
「あ、コウ!今日もお仕事がんばろうね♪」
いきなり声をかけられ、少し肩があがる。
成人男性とは思えないほど女子高生の口調でルイは言った。
「いきなり声かけんな。心臓に悪い。」
そういって机に置かれた書類に目を通す。
今日は十件ほどで、いつもより多い。
ため息をつきながらも、内容を頭にインプットし、コートを羽織った。
昨年の誕生日に、母親がプレゼントしてくれたものだ。
上等な皮をあしらった高級品だ。
しかし、夏の夜にロングコートは暑苦しい。
歩み始めると、つうっと背中を汗が流れたのがわかった。
「え、もうお仕事?優秀だね♪」
ルイの声を軽く聞き流し、外へと歩み始めた。
コンビニの前を通り過ぎ、住宅街を抜けたところにある一軒家に足を止める。
電気が2階のベランダのついた部屋にのみについていた。
インターホンを押したが反応はない。合鍵でドアを開け、おもむろに土足で階段を上がる。
そここには、外にも漏れる大音量のヘッドホンを付けた少女が、机に向かい真剣に絵を描いてた。
壁に飾られた彼女の絵は独創的でいつも僕の心をわしづかみにする。
今机に置かれている絵も悪魔を天使三人が崖から突き落とし自身が悪魔と化してしまうといった絵が画用紙いっぱいに描かれていた。
一見その様子は売れない画家のようにも見える。
声をかけたが返事はない。
僕は彼女のヘッドホンをそっとはずし耳元でささやいた。
「○○年××月」
僕はその瞬間急激な眩暈におそわれその場に崩れ落ちた。
さあ、これから仕事だ。