Favorite World
初めての投稿です。自分の好きな厨二病がテーマです。
遠く……いや、そう遠くない距離からサイレンの音が聞こえる。
某映画、ゲームでサイレンが聞こえると精神に異常を起こすというものがあったが、確かにサイレンの音は俺の精神をジクジクと蝕み額にはじんわりと汗が滲み出ている。
「くそ!こんなところで捕まってたまるかっての!」
私こと宮寺宗助はただ今絶賛逃亡中である。
事の始まりを説明する前に重大な前提事項を追って説明する必要がある。俺は俗にゆう厨二病患者である。
最近では厨二病を知らないという方は少ないであろう。一部、ごく一部ではあるが某アニメや小説でも取り上げられるほど、ごくごく一部ではホットな話題である。
知ってのとおり、大勢の前で急に腕を抑え苦しそうにうずくまると『おのれ……鎮まれ!俺の右腕よ!くっっ……右腕に封印されし邪竜の力が解放されようとしているのか!』や、家族との団らんである夕食どきに『これは……!貴様ら組織の人間か!この崇高で名高き魔術師の生まれ変わりの俺に毒などとは!』と言いながら自室に戻り某固形型栄養補助食品をかじるアレである。
話がずれたが俺は今、その厨二病の真っただ中にあった。
では、このサイレンは俺だけにしか聞こえないのだろうか、俺の作りだした妄想なのだろうか。
否、実際に周りの人たちにも聞こえていることであろう。
ことの始まりは人目の多い繁華街で厨二病が発現してしまう。
夕方でかなり人通りも多く、学校帰りの学生や夕飯の買い物をしていたマダムたち、飲食店に入っていくサラリーマンと多くの人たちで賑わっていた。
そこでの病の発現は死亡フラグを生み出し、明らかに危険度は高い。
冷たく白い目で見る人、本気で心配そうに見る人、同じ病に罹っている人もいたのだろうか、『クククッ……見つけたぞ。魔力も多く蓄えておる。我が眷属の糧となるがよいわ』と呟く人がいたことに周りにいた傍観者たちの度肝を抜いていたのは言うまでもない。
そこに運悪く巡回中のお巡りさんの乗った白黒のセダンが止まる。
うずくまっており、周りから注目を集めていたこともあったのだろう。なによりも俺の服装が怪しさを倍の速度で増加させ、背中に背負った模造刀のエクスカリバーが更に危険人物であることを強調していたのであろう。
「ちょっと君!こちらに来てもらおうか……」
車から降りてきた二人の国家権力者は近づいてくる。
俺の右手は震えだし左手で右腕を抑え二人を睨みつける。
「こんなところで……俺には救わなければいけない民と仲間がいる!」
苦し紛れに出たセリフとともに駆け出す。
後ろからは急に走り出した俺に追いかけようと車に乗り込む音がする。
やはり日ごろから訓練され練度が高いのであろう、すぐにサイレンの音が聞こえはじめた。
どれくらい時間が経っただろうか。
携帯電話は家の机の上だ。
公園のトイレに逃げ込み警官は去ったと思われる。
しばらくサイレンの音が聞こえていたが、その残響は耳に残りまだ鳴っている錯覚さえある。
先ほどまでの緊張と走ったためによる心臓の大きな音は落ち着いたことにより段々と収束しつつあった。
「はぁ……」
自然とため息が出る。逃げ切れたであろう安堵感と、何やってんだという自分に対しての今更感あふれる虚しさからである。
「はぁ……」
二度目のため息である。
ふと、顔を上げる。
「えっ!?」
私の年収こんなに低いの?ではない。眼前に広がるのはトイレの個室の壁などではなく草原が広がっていた。
今まで座っていたのは便座ではなく、大きな岩になっていた。
更に目の前には白いローブに身を包み頭はツルツルではあるが毛が一本、長い眉毛の老人が仙人を思い立たせる長い顎鬚を擦りながらこちらを眺めているのだ。
「よう来たのぉ異世界の住人よ」
「テンプレ乙!」
そこから俺の新しい新生活は始まりを迎えることになる。