第9話 野次馬と鈍感と
城に戻ると、父王と側室のお姉さま方が御茶会に招いてくれた。
「それで、どうだった?」
にやにやと楽しそうに聞くのは、父王である。髭が迫力満点でそんなこと言いそうもない人だが、意外と茶目っ気があるのである。
「なにが、ですか?」
分かってはいるが、素知らぬ顔でそう答えるとあからさまにがっかりした顔をして父王は言った。
「お前……まさか何もしないで帰ってきたのではあるまいな」
「しっかり視察してきましたよ?」
そう返すと、側室のお姉さま方が父王とひそひと話を始める。
「陛下……アル様はおそらく何もしなかったのですわ……」
「やはりそう思うか」
「そういえば、私、昨日ミハ様にお会いしたのですけど少しさびしそうな顔をしてらして…」
「失敗か…」
「失敗ですわね」
「失敗、のようですわ」
はぁ、と俺以外のため息が聞こえる。
「どうかしたのですか、皆さま」
「いや、気にするな。お前のそれは今に始まったことではない」
「ええ、そういうところが魅力ですものね。けれど私の息子にはお兄様には似てほしくないものですわ」
「そうですわね、私の息子も……ただこういう男の方がもてるものよね…」
「そう言われると……困りましたわ」
「ええ。困ります」
一体何の話をしているのかと思ったが、ぼんやり紅茶を飲んでいるうちにばたばたとお茶会はお開きとなった。
*
自室に戻って、クーと話す。
「さっきの、なんだったんだろうな」
「何だったも何も、明らかではないか」
「え?」
「だめだな……これは」
「なにがだよ」
「装っているのだと思ったが、どうやら本物らしい」
「だから、何がだ」
「いや、いい……」
そう言ってクーはがっくりと肩を落とした。
しかしその割にはどこか嬉しそうで、一体何なんだと首を傾げた。
*
雨が降っていた。執務室の外から静かに雨音が落ちる音が聞こえる。
クーは部屋の隅で静かに本を読んでいる。
俺はひたすら書類仕事だ。
こうやって生活していると、国王になるのも悪くないかもしれないと思った。
クーとこんな風にいつまでも過ごせたら……。
いや、そういう訳にはいかないのだろうか。
いつかは俺も妻を娶らなければならない。
そうすると、ここにはもう一人、誰かがいることになるのだろう。
この静けさは破壊される。
それがたまらなく嫌だと思っている自分に、驚いた。
そのことを忘れようとひたすら書類仕事に没頭した。




