第30話 思い出と信頼と
教皇は周りを気にせずに大魔法をばんばん撃って来る。建物の中であるにも関わらずだ。おそらく建物が壊れても彼女は生き残れる自身があるのだろう。私も、そして聖人も生き残れる。けれどアルだけはそういうわけにはいかない。そこまでの力は彼にはないからだ。
私は教皇の攻撃を防ぎながら建物が壊れないように補強するという異様に面倒くさい作業をやる羽目になった。
「そんなことばかりやっていてはジリ貧だわ。もうあの子は見捨てたらどう?」
ふふふ、と笑いながら魔法を放つ教皇。彼女の周りには防壁も展開されていてそれを解除しなければ攻撃は通らない。そのため私はまず防壁を解除する魔法を放ち、その後にピンポイントで狙える魔法を放った。
それは教皇をかすめる。
「あらあら。狙いが甘いわ。防壁を消滅させたところまではよかったのだ……け……ど……!?」
驚愕に目を見開く教皇。
私は笑う。
「狙いが甘い?馬鹿な事を。私はよく狙っていたさ」
教皇の腹部からは巨大な柱が突き出ていた。
さきほどの魔法で崩した柱である。
「く……ぐふ……こんな……こ……」
教皇は地面に手をついて、血を吐いた。もはや助からないのは明らかだ。目から光が徐々に消えていく。狂気もだ。
そして一瞬正気に戻って、私をはっきり見たかと思うと、何かに気づいたかのように目を見開き、
「―――?」
と、私の本名を呼んで、倒れた。
私は彼女が何者だったか思い出して、目を見開く。
「……エル?」
しかしその声は結局、彼女には届かなかった。
*
切りかかった剣を手刀で弾かれ、奪われた。
俺は完全に腰砕けになり、地面に倒れ伏す。
「言い残すことはありますか?」
奪われた剣を首筋に当てながら、レオは俺にそう聞いた。
「……ない」
「そうですか、では……?……!?」
その瞬間、レオの体が透けていくのが見えた。驚愕を顔に張り付けたレオ。
彼は教皇の方を見やって、納得したように頷く。
「……なるほど、負けるとは思ってなかったんですがね」
「どういうことだ?」
「教皇様が、敗北しました。あなたの魔人はお強いようで」
「どうしてそれでお前が消える。聖人は完全な存在なんじゃ……」
「それは召喚魔法を作った人間にとっては完全でしょうよ。契約者に永遠の命を与え、契約者のためにいつまでも仕え続ける強力無比な存在。けれどね、聖人は契約者とその命を共にします。魔人のように、契約者がいなくても存在し続ける、なんてことはできません。教皇様が亡くなられた以上、私はもうダメなのです」
「なんでそんなに淡々と説明できるんだ」
「淡々としてみえますか? 勘違いされやすいんですよ、私。これでもはらわたが煮えくりかえっています。人生を奪われ、また無駄に長い生を与えられてね。ただ、それでも楽しかったことがあります。教皇様は、優しかった。彼女とすごした数百年は、悪くないものでしたよ……ですから、」
レオは持っていた剣を俺の首筋から外し、教皇の方を見た。
より正確に言えば、クーの方を。
「敵討くらいは、しますよっ!」
そう言って、レオは思い切り剣を投擲する。
その速度は今まで見たどんなものよりも早く、空気を切り裂く音が聞こえた。
そして、そのまま真っ直ぐに剣がクーの胸に突き刺さるのを確認すると、レオは満足した顔をして消えていった。




