第3話 励ましと決意と
ある日、暗殺されかかった。
犯人はクーデターを狙っていたミルト王国筆頭公爵家の総領だ。隣国と通じて侵略の手引をしていたらしく、それに伴いまず王子である僕の首を土産に持っていこうと考えていたようである。
それくらいなら、別に良かったのだが、問題はこの公爵家の総領が僕の友人だったと言うことだ。
「落ち込むなよ」
少女はバルコニーで足をぶらぶらさせながら、そう言った。
そんなことを言われても、中々難しいものがある。本当に仲がいいつもりでいたのだ。
親友のつもりだった。王族にそんなものができると思っていたのが間違いだったのかもしれないが、それでも僕は疑念なく信じていたのだ。
にも関わらず、こんなことになってしまった。
彼は処刑される前に言ったらしい。「王子との仲などカモフラージュに過ぎなかった」と。
「ぼくは何を信じたらいんだろうね」
ついそんな言葉が漏れる。
すると彼女は出し抜けに言った。
「私を信じればいい。私はお前を裏切らない……なにせ契約があるからな」
最後の一言は付け足しのようだった。
言った後、はずかしかったのか、ぶらぶらしている足の速度が倍速になっている。
「クーを?……そうだね。そうしようか」
素直にそう言えたのは、きっと元々心底信じてしまっていたからだろう。彼女に裏切られたら、きっと僕はもう立ち直れない。
彼女を頼みとして、彼女だけを心から信じよう。
他は冷静に観察することにする。そうしなければ、きっと王族なんて務まらない。
それでもきっと僕は頑張れる。
彼女だけでも信じられるだけ、僕は他の王族よりもマシだろうから。
*
初陣に出た。
隣国がとうとう、攻めてきたのだ。
沢山の人と戦い、沢山の人を殺した。
僕には運よく、というべきか、それとも運が悪かったのか、人を殺すことにかけては図抜けた才能があったようだ。
無傷とは言わないまでも大けがは一つも負わずに、かなりの戦果をあげた。
その功績の裏には、クーによる補助もあった。彼女は僕が怪我をしないように僕の周りを飛び回ってくれていたのだ。奇襲があっても、突風や雷撃が突然敵陣を襲ったりして、窮地に陥ることがなかった。
魔人の力の恐ろしさを知った気がした。
戦争から帰って来ると、母上が逝去されていた。
その表情は静かで、幸せそうで、きっと苦しまずに逝けたのだろうと感じられた。
クーが言うには、母上はクーが見えないにも関わらずその存在を感じていた不思議な人だったらしい。見当違いの方向を見つつも、「妖精さん、私を守ってくれてるのね、いつもありがとう」などとたまに言うので驚いたことが何度もあったという。
不思議な人だった。優しい人だった。
僕とクーは、教会で母のために祈り、お別れをした。
その日から、僕は自分のことを僕と言うのはやめた。