第29話 過去と過去と
「魔人が人間と戦うのは卑怯ではないかしら?」
「聖人の契約者を人間と同列に並べては失礼だろうさ」
「あら、そう言われるとうれしいわ」
「お前にじゃない。人間に対して失礼だと言っている」
挑発気味にそう断言して笑ってやると、教皇の目は急に冷たくなっていく。
「まったく……魔人風情がよくいったものだわ。この失敗作め。今この場で消え去るがいい」
教皇はそう言って、手に持った錫杖を振るう。一振りごとに風が発生して私の体をその場につなぎとめる。教皇の錫杖は私が動けない間にも動き続け、気付いた時にはそこに魔法陣を描いていた。忘れ去られたはずの古代に存在した魔法だった。
「馬鹿な!」
「覚えている人も、存外、いるものよ」
そう言ってしゃらん、と教皇が最後にもう一度振ると、魔法陣は光り輝き始めた。
同時に教皇の後ろにあった泉から水で出来た龍が生まれる。
「ではさよならね、魔人」
そう告げると同時に、龍が私に襲いかかった。
その衝撃は激しく、石造りの床が抉れてしまうほどだ。
しかし。
「魔法が使えるのがお前だけだと思うなよ」
そう言って無傷で立ちあがった私の横には、炎でできた龍が、水でできた龍を咥えて佇んでいる。
教皇は口を噛んだ。
「あなたも……」
「そういうことだ」
激しい魔法戦が始まった。
*
「おや? 意外とあなたの魔人は戦えるようですね」
「あいつは強い。俺の命をここまで守ってくれたんだ。負けやしないさ」
「ふむ。けれどその前にあなたの命が尽きれば、意味がないですよね」
ぐりぐりと、レオは俺の腕に突き刺さった手刀を動かす。
それなりに戦えていると思っていたが、やはり聖人には敵わないようだった。
ただ、だからと言って簡単に負けを認めてやる訳には行かない。
俺は余裕ぶっているレオを睨む。
「……その目を見ると思い出しますねぇ」
「何をだ」
「あなたの、お父様を」
「前王を?」
「ええ。先ほどお話しした若者は、あなたのお父様です」
「若者……どう見てもお前の方が若く見えるがな」
「気のせいですよ、気のせい。聖人も、その契約者も、契約のときから年をとらなくなります。まぁ、不老不死ではないのですけどね。あなたのお父様が亡くなったことからもそれは明らかです」
「……なにを言っている?」
「おや、ご存じなかったのですか? これはこれは」
「おい!」
「あなたのお父様は聖人とご契約なされた。そして私たちに挑んで、敗北したのです」
「嘘を言うな!」
「こんなことで嘘をついてどうするというのですか。正直辛勝の歴史など語りたくないものですよ」
「辛勝……」
「我々は見事に追い詰められましてね。さすがに聖人同士となると、そう簡単には。結局、経験値の差で勝てた、というところです」
「経験値……?」
「私も教皇様も、長生きなんですよ。さて、無駄話はこれくらいにしましょうか」
レオはそう言って構えた。次を最後の打ち込みにするつもりなのだろう。俺も構える。




