第27話 契約と決意と
しばらくして、第一王子から国王についての愚痴を聞かされた。そのなかで第一王子はどうしてか、国王の変わりようについて私がなにか知っていると確信してしまったようで、しつこく質問してきた。
困ったものである。ただこたえる訳にもいかない。
国王のしたことは仕方がないこととはいえ、愚行に属する行動だと国王自身が考えているからだ。息子にそんなことをしたと、教えたい父などいないだろう。
しばらくはぐらかしていると、第一王子は諦めたようだった。
本当に申し訳ない気分になったが、どうしようもない。
あとは国王が教皇を倒してくれるのを願うくらいしか、私にはできない。
*
結局、国王は戦死した。聖人の力を使っても、教皇は倒せなかった。絶望的なものを感じた。
けれど、聖国は国王が逝去してしばらくしてからミスト王国との戦争を停戦した。ミスト国王が逝去したため喪に服する、と言う話だったが、それよりも説得力のある理由、侵攻を一時停止しなければならない理由に私はひとつ、思い当った。
国王が亡くなった後から変わったことがあったのだ。
教皇が前線になかなか出てこなくなったのだ。出てきても、以前ほど強大な力を振るえていないようだった。
おそらくは、国王とその聖人とにより弱体化させられたものと思われた。
彼の生命をかけた努力は、きっと無駄ではなかったのだと知った。
それならば、私もなにか賭けなければならないだろう。
彼に、その息子を頼むと言われてしまったのだから。
*
戴冠式があった。契約を更改できるのは、このときを除いて他にはない。
私は考えた。ここで解放されるべきか、それとも―――。
教皇と普通に戦っても勝ち目はない。向こうは聖人憑きなのだ。魔人ではどうにもならない。
けれど、普通でない方法ならば、どうにかなる可能性はあった。
さて、どうするか。
第一王子が豪奢な冠を被せられている。その表情に喜びは無い。それはそうだろう。父が亡くなったことによって得たものだ。野心あふれる男、というわけでもない彼が喜べるはずがない。きっと彼はそのまま軍を率いて聖国に挑むのだろう。滅びの命運が見えていても。
とても、そんなことは、認められない。
ふと、そんな気持ちが心に浮かんだ。そして理解した。自分がどうしようもないほど、この王子に、肩入れしていることに。
肩入れ。肩入れか。別の言葉で表せそうなその気持ち。あえてその冷静な思考を無視して、私は彼に契約の更改を願う。
更改は、双方が自由にその条項を決めることができる。そしてお互いの合意が成ったとき、効力を発生させる。
第一王子は魔人との契約のシステムなど知らないから、私が勝手に条項を決めて頷けと言えば頷くだろう。私はその通りにした。
結果として、新たな契約者を得た私は世界との繋がりを取り戻し、現界することができるようになった。ただ何の名残か、世界との繋がりを任意に断ち切ることもできるようになった。つまり自由な透明人間化の獲得である。
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顕れた瞬間は取り押さえられそうになった私であるが、第一王子――もう国王か――の弁護のお陰で、概ね好意的に受け入れられることになった。魔人との契約は強大な力を契約者にもたらす、という知識は伝わっているらしく、また契約内容はともかく、カルスが契約者だったことも国民一般には伝わっているとあって、魔人に対する忌避反応などはなかった。
あとは、聖国を叩きつぶすだけである。
*
「決戦だな」
国王がそう言ったので、私は笑顔で応じた。
「教皇さえ潰せばお前の勝ちだ」
「……なぁ」
「なんだ」
「俺は教皇と戦えるのか」
「私は信じられないか?」
「……いや。他の誰よりも信じている」
「なら、迷わず進め」
「力強い言葉だな」
「私は口だけだ。お前は行動で示せる。お前の方が強いさ」
「そう言われると、なんでも出来るような気がしてくるから不思議だ」
「では、いくか?」
「ああ」
「ところでな」
「なんだ? 何か心残りがあるのか」
「心残りと言えば、そうかもしれない」
「ほう、お前に心残りか。言ってみろ」
「その、“お前”っていうの、やめてくれないか?」
「は?」
「俺のことは名前で呼んでくれ……だめか?」
「そんなことくらい……そんなこと、くらい……」
「だめなのか?」
「いや。いうぞ――アル」
「ありがとう、クー」
そう言われたとき、少し顔が熱くなった気がした。
またここに帰ってこれるなら、ほかの何を捨ててもいいだろう。




