第26話 聖人と遺言と
しばらくして、国王が国民から資材を集め出した。国外からは奴隷の輸入も始めたらしく、国法はそれに伴い改正されたのだと言う。
ある日、国内にある神殿に国王が行くのだと聞き、とうとう召喚する気なのだなと思った。もちろん集めた資材はすべて教会に運び込まれる。生贄として必要な奴隷もだ。
きっとこれは罪なのだろう。たとえ聖国を倒すことがそれなりにこれからの世のためになるのだとしても。
*
国王が神殿から戻ってきた。私は彼が果たして召喚に成功したのかどうか気になって、夜、執務室を尋ねてみることにした。
前に来た時のように、扉を開き入る。国王はそれに気づいて、扉を閉めるために立ちあがった。
「魔人よ。何をしに来た」
私は前と同じように紙に書いて会話しようとする。
しかし、国王はしっかりと私の方を見据えて言った。
「もう、見えている。言葉も聞こえるだろう。話すがいい」
と言った。私は驚いたが、召喚術の秘奥を極めたのであれば何もおかしいことではない。
「国王。と言うことは、召喚には成功したと言うことか」
「あぁ……、これが教皇の持つ、力なのだな」
と、私は国王の背後に不穏な気配をもつ優男が立っていることに突然気がついた。
さきほどからずっといただろうに、私は今の今まで、気がつかなかったのだ。
それは、優しげでいながらも威圧感を感じる口調で話しだす。
教皇のところにいたあの男と同じ雰囲気を持っている男だった。
「こんにちは、魔人さん。ぼくはハノン。君も知っての通り、召喚で呼び出された異世界人だよ」
その目は濁っており、とても聖なる人と言えるような生き物には見えない。
ただそれが聖人なのは、国王が力を手にしたことから明らかだ。
よくよく国王を観察してみると、神殿に旅立つ前とはそのおもざしが変わってしまっている。なにか、若くなっているような……。
「聖人か」
「そうそう。そう言うらしいね。なんだか呼び出された瞬間に、ぜんぶ分かっちゃったんだよ。不思議なもんだね」
「国王との契約は」
「したさ。それは国王本人に語ってもらおうか」
「そう、私は彼と契約した。だからあなたには一言断らねばならないが……」
「なにをだ?」
「あなたは、王家が死すべきときにその存在を喰らうのだろう?」
そう言われて、そんな言い伝えが王家にのこっていたことを思い出した。
かなりいい加減なもので、カルスから数えて五代目か七代目かその辺りの王が私の気配を勝手に勘違いして恐れ出したことに原因がある。
「いや、それは間違いだ。気にしなくていい」
そう言うと、国王はあからさまにほっとした表情をした。
「そうだったのか……。では、問題ないな」
「そうだよ、言ったじゃない」
国王と、聖人の男との間で何かやり取りがなされているが、意味が分からない。
聞くと、
「私とこの男との間での契約は、この男が私に教皇と戦う力を与え、共にその契約聖人と戦うこと、そして教皇と契約聖人を倒した後、私の肉体と魂をこの男に与えること、だ」
「……国王、本気か」
詰め寄ると、国王は言った。
「他に方法はない。そう言ったのはあなただ、魔人。教皇と聖人さえ滅ぼせば、この国は存続する……第一王子もいることだ。私ひとりいなくなっても何も問題ない」
「国王……」
「まぁそういうわけさ。あぁ、僕がこの国を乗っ取ったりするとか、そういうことは考えなくても大丈夫だよ。僕はこの世界を旅したいだけだからさ。権力とか、面倒だしね」
私はため息をついて、部屋を出て行こうとした。
扉に手をかけたとき、後ろから声が聞こえた。
「第一王子を頼む」
それは遺言だったのかもしれない。




