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吸血鬼と国王  作者: 丘/丘野 優
クーの章
25/31

第25話 帰宅と助言と

 結局ミハ嬢との間に何もなく帰って来た第一王子に、父王及びその側室達もがっかりとしていた。それはそうだろう。状況から考えるに、お見合い紛いのことをさりげなくセッティングしたつもりだったのだろうから。しかし第一王子は鈍すぎる。残念なことだった。

 そう言えば、意外な事だがミハ嬢はそれからも諦めずに第一王子にアタックを続けた。その中で、明らかになったことだが、どうやらミハ嬢は私の存在が理解できるらしい。第一王子の母上と同じ、特別な感性を持っているらしかった。おそらく、ミハ嬢は第一王子と良い家庭を築けるだろうと私は思ってしまった。なにせ、男は母親と似た女を妻にすると良く言うものだ。それに、なんとなく最初は敵意ばかり持ってしまったがよくよく考えればミハ嬢は非常に優良物件なのである。というかよくよく考えなくても優良物件なのである。ここはよく進めて、ミハ嬢と第一王子を結婚させるのが常道なのではないかと私は思ってしまった。

 あぁでもしかし。

 まぁ、考えても仕方がない。そういうことは、考えるより感じるべきだ。とりあえずこの問題は横に置いておくことにする。


 *


 とうとう、聖国との戦争が完全に手詰まりになってきたらしい。国王もかなり険しそうな顔で廊下を歩いている姿をよく見かける。このままミスト王国は滅びてしまうのだろうか。いや、そうはさせない。私にはカルスとの契約がある。王家の命脈を保つと言う、契約が。

 しかしそれにしてもどうやって、というのが問題だった。

 あの教皇と聖人がいる限り何をやってもどうにもならないのである。こうなったら私が単騎であの教皇の横にいる聖人を倒しに行くか。

 いやいや、ダメだ。私より聖人の方が強いのである私一人で行って勝てるはずがない。もしそれをやってしまった負けて私が消滅してしまったら、余計にこの国は危険だ。

 どうやら、国王だけでなく私も手詰まりのようだった。


 夜、廊下を歩いていると、国王の執務室から明かりが漏れていた。獣脂が燃える、じじじとした音が聞こえた。

 私は、扉を開いて中に入る。

 すると国王はこちらの方を一瞬見て、立ちあがった。どうやら開いた扉を閉めるつもりらしい。

 国王は扉を閉めると深く息を吸って言った。


「そこにいるのだろう、魔人よ」


 私は驚いた。まさか話しかけられるとは思ってもみなかったからだ。

 黙っていると、国王はまた話しだす。


「いるのなら聞いてくれ。私はあなたとの契約の更改をしたい。どうか」


 更改。それをすれば、確かにあの聖人に勝てる光が見えてくるかもしれない。けれど、私は契約に縛られている。それはできない。

 なにか伝える方法はないか、と周りをきょろきょろ探すと、国王の執務机の上に羽ペンと紙が置いてあるのが見えた。そこにさらさらと文字を書くと、私は国王に示した。

 国王は本当に私がいるとは思っていなかったのか、一瞬驚いて目を見開くと、すぐに冷静な表情にもどって、文字を読み始めた。


『国王陛下。私は魔人だ。契約の更改を望むと言うことが、それは残念ながら出来ない。ミスト王国の劣勢は私も理解している。しかしながら、あなたの祖先であるカルスとの間で、契約の更改は戴冠の時にのみできること、という契約を結んでしまっているのだ。それに、あなたに私を見ることはできない。魔人と契約できるのは、魔人を視認できるものだけ。つまり現在この世に存在するもので言えば、あなたの息子だけだ。ご理解いただけただろうか』


 一息に読んだ国王はため息ついて言った。


「おっしゃることは、理解できた……しかし、なにか、方法はないか……別の……」


 すがるような瞳に私は考えた。そして一つだけ、方法を思いつく。

 さらさらともう一度、紙に文字を書いて国王に示した。

 国王は受け取ってお見始める。


『異世界より聖人を呼びだし、契約することだ。教皇はそれを行った。聖人に対抗できるのは聖人だけ。その覚悟があれば』

「これは……しかし方法は」


 困惑する国王にさらにもう一枚の紙を提示する。


『召喚術の秘奥はこの部屋の本棚を壁沿いに左に動かしたところにある。カルスが師匠より学んだそれが、そこに残されているだろう』


 そう。カルスは完全な召喚術を学び、理解していた。おそらく私の事が視認できたのも、素養だけではなく、そのことが影響していると思われた。

 国王は言われたとおりに本棚を動かすと、そこに小さな隠し扉があることに気づく。そこを開くと、何冊かの本が出てきた。


「これが、召喚の秘奥…」


 後は、黙っていても彼は実現するだろう。聖人召喚を。

 問題は材料を集めることが出来るかどうかだが、この国の豊かさなら出来なくはない。

 私は本を猛烈な勢いで読み始めた国王を置いて、執務室を後にした。



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